09-マー

 ついに、吹雪に閉ざされた。

 それなりの蓄えを確保できたし、今年の冬こそは死なずに済むと思っていたんだが、やれやれ、状況が変わってしまった。なんで俺が、よりによって人間を避けて森の奥の洞窟でひっそり暮らすこの俺が、少女を育てる羽目になったのか。

 しかも恐らく、こいつはただの村娘じゃない。わざわざこの黒い森の、こんなに奥深くまで捨てに来るくらいだ、よほどの事情とそれなりの権力が絡んでいるんだろう。おおかた、王家か領主の血筋争いの被害者といったところか。

 出自はまあ、この際どうだっていい。というか、そんなことに気を揉んでいるいる余裕はない。こいつを捨てた連中はとっくに彼女は死んだと思ってるんだろうが、押し付けられたこっちとしては、少なくとも春になるまで、どうやってこの娘を食いつながせていくかが大問題なのだ。

 ほっときゃいいのに、何やってんだろうな、俺。


 当の本人は、たき火に当たりながら狼の毛皮を被って、リスの干し肉を炙ってムシャムシャと食べている。怯えっぱなしでいられるのも困るが、状況に慣れた途端、厚かましいほどの寛ぎっぷりだ。

「ター、お肉焼けてるよ。食べる?」

「いや、いい。食いすぎるなよ。……それより、マー、湯は沸いたか?」

 最初に名前を聞いて、マ、とまで発音して首を振った少女を仕方なくマーと呼ぶことにした。マリアか、マチルダか、マーガレットか。まだまだ子どもだが、それなりに自分が捨てられた理由に気づいているのかもしれない。だが、俺までターになるとは思わなかった。確かに、この国の人名としては発音しにくいほうだが。

 粘土を焼いて作った鍋に、雪を入れて沸かす。これなら、薪のある限りとりあえず腹の中を温めることができる。木を削って作ったカップに湯を汲み上げて、マーは青い瞳を細めて無邪気に笑った。

「いっぱい飲んでね、ター」

 少女というものは、なんと厄介で、脆弱で、不可思議で、愛くるしいものだろう。

 少なくとも、春までこいつの面倒を見るためには、俺自身が死ぬわけにもいかない。が、今ある食料を半分ずつにしたら、恐らく二人とも春までもたない。

 とりあえずあるだけ全部マーに食わせるとして、さて、足りない俺の分の食い物をどうするか。

 ……自分の足でも食っちまうか。

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