No.6-12

 密林の間を切り開きながら私達は基地に向かう。私はその基地がどこにあるのかも分からないので、彼女……セシーリア・オルヘスタルの進む方向についていく。もし私が彼女を見失えば、私はこの密林の中で餓死する他ないだろう。

彼女はいわゆる歩兵の中でもエリート、熟練兵と呼べる立場にある兵士らしく、彼女の任務である長距離偵察は、そうした経験豊かな兵士が任ぜられる行動らしい。

密林における彼女の所作を見れば、彼女が経験豊かな兵士であることを何となく理解出来る。大抵の行動に躊躇いがないし、身につけているものだけで何でもこなしてしまう。

食事にしても、そうだ。彼女は手持ちの食料がなければ平気な顔でそのへんの動物……場合によっては昆虫さえも食べてしまう。そして私には、自身が持ち合わせていた既製品を優先して渡す。

「……ねえ、あなたが食べているその、虫とかって、美味しいの?」

 と私が聞くと、彼女はこう答えた。

「美味しいわけないでしょ……でも、君にそれを食わせる気もあまり起きない。私は訓練で、味覚や視覚と栄養素とを切り分けて考えるようになったけれど。きっと君は……君たちは、そういう訓練は受けていないだろうから」

 つまり、彼女が見た目にも決して美味しそうだとは思えない物々を食べているのは、私に対する気遣いからなのである。

考えてみれば、私と彼女との間に生じる会話上の齟齬は大抵、私達それぞれの生育過程の違い……彼女は陸軍歩兵で、私は操縦士であるという点から生じるものであった。

例えば、私と彼女は痛覚に違いがあり、私は殆ど痛みを感じないのだ。例えば、私が降下した時に千切れかけた薬指を引き千切った時には、彼女は苦い顔でもって

「なあ、それ痛くないのかよ」

 と質問してきた。

「全然……とっちゃまずかった?」

「いや。まずいってことはないんだけれどさ……どうせあの状態じゃくっつかなかったし、くっつける手段もないから……ただ、痛くないかどうか。それだけが気になった」

 このように、私と彼女には多数の違いが存在していたというのに、見た目は互いにそっくりなので、お互いがする行為に対し、変に共感してしまい、くすぐったいような、痛いような、妙な心の動作が生じるのであった。

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