イチゴで簡単! 低級悪魔の上手な飼い方

栗印 緑

第1話 ふざけて召喚したら、本当に悪魔が出た。

 ふざけて召喚したら、本当に悪魔が出た。


 うん、たぶん、悪魔だ。そのはずだ。

 ネットの、悪魔召喚プロトコル、って書いてあるのをやったから。


 しかし、目の前に出てきたこいつ、本当に悪魔、だろうか。


「うう……」


 苦しそうにうめいて、紫色の液体を床に吐き出す。

 うわうわ、やめてくれ、できれば敷金は返してもらいたいんだ。


 最初に、腕が出てきた。

 床に手をついて、穴から這い上がるように頭と、身体。

 片足の先を引っかけて、お尻を持ち上げるようにぐんと引き上げる。

 で、そのまま前のめりに崩れて、さっきの紫のゲロだ。

 残ってたもう片足も、どうにか引き抜いた、って感じだった。


 一応、人間っぽい形はしてる。服らしいものも着てる。

 わ、よく見れば、全身紫の汁でべしゃべしゃだ。

 マジか。悪魔召喚するときは新聞紙敷いてください、ってちゃんと書いといてほしかった。

 魔法陣を表示してたiPhoneも濡れてる。まあ、これはいいか。防水だし。


「オレを呼んだのは、あんたか……?」


 赤く光る瞳。口の端から見える牙。

 黒っぽいフードを被って、ゆらりと立ち上がる。

 うん、この感じは、わりと悪魔っぽい。

 

「えーと、古の盟約により汝を我がしもべとする。……合ってる?」


 俺は用意しておいた皿のイチゴをひとつ取って、目の前の悪魔っぽいのに投げた。


「わうっ……!」


 赤い瞳を輝かせて、牙の生えた口をぱっと開く。

 食べた、という感じではなかった。口に入った瞬間、光になってイチゴが消えた。


「応えよう。これより我は、汝の下僕……!」


 たったイチゴ一粒で、俺は悪魔を従えることに成功した。らしい。


 わりとそれっぽく応答してくれた悪魔だったが、一瞬後にぐにゃーっと脱力する。


「た、助かった……」


 紫汁まみれのそいつは何故だかそうつぶやいて、糸の切れた操り人形みたいにバタンとぶっ倒れた。

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