十五歳のわたし第7話
『暁の輝石』とは。
珠霊人が愛を誓い、捧げると、額の珠霊石が進化して生まれてくる奇跡の石。
どんな願いも一つだけ叶えてくれる。
そしてその万能の力を求めて、人間は数百年間戦乱の時代を送った。
今の時代の人たちに『暁の輝石』が伝わっているかどうか、確認するのは危険だ。
余計な知識を与えることになりかねない。
ただ、レンゲくんの話だと「今の国々は知らない……というか忘れていそう」とのこと。
「はあ……」
「あらぁン、聖女ちゃんたら深いため息〜」
「朝と全然違うじゃないん? いいことなかったのん?」
「ジリルさん、ミラージェさん……え、ええまあ?」
夕飯を準備していたら朝と同じく二人が現れた。
そして、今日一日お城の中で起きたことを報告してくれる。
例の結婚式の話とか、ギャガさんたちが慎重を期して明日収穫できそうな野菜を買い取っていく話になってるとか。
つまりギャガさんたちはまだ要塞にいるのね。
そして今夜も泊まり、と。
ふむふむ。
ああ、でもわたし明日はアリシスさんとクリアレウス様に会いに行くのよね。
そうだ、二人にそのことも話しておかなきゃ。
「あの、そういえばわたし明日は…………」
「あ、あとそうだわン! これが一番重要だったわン!」
「え? なんですか?」
「ヤッホー!」
「ッ、ナコナ!」
食堂の入り口に、木箱を持ったナコナが現れた!
その後ろにはフェンリルのシシオルさん!
あ、フウゴさんはロフォーラの護衛で留守番かな?
「はい、ロフォーラで収穫した果物と薬草類」
「ありがとう!」
果樹園で採れた果物!
ロフォーラでしか採れない素材!
ありがたーい!
「あ! ナコナに伝えないとと思ってたの!」
「え? なになに?」
「お父さんがね…………」
耳に手と顔を近づけてごにょごにょ。
幻獣のみんなは耳がいいから聞こえていそうだけど、我が家の事情なので堂々とは言えないわよね。
あと、まだリコさんがどう返事をしたのかわかってないし!
ええ! お父さんがついに! ついにリコさんにプロポーズしたのよ!
……色々すっ飛ばしてるけど!
「ええ!?」
「ね、びっくりしたでしょ?」
「へぇー! さっき会った時は普通だったのにー! あのお父さんがついにねぇ〜。上手くいけばいいけど」
「うんうん」
にやにやするナコナ。
はあ、なんか落ち込んでいた気持ちが少し浮上してきたわ。
やっぱり家族って偉大ね。
「そういえば、お父さんはもう出かけたの?」
「うん、あたしと入れ違いだね」
「そっか……わたしちゃんとお見送りできなかったな〜。レネとモネは元気?」
「うん、ティナに会えなくて寂しがってるよ。モネが特にね。あ、木箱の中に手紙入ってるから返事書いてあげなよ」
「ええ〜! もお〜!」
また可愛いことを〜っ!
木箱の中身、果物の類は鉄製の倉庫に入れ、約束の類を取り出すと、側面に手紙が張り付いていた。
開いてみると練習中なのがわかる文字で『おねえちゃんへ、お元気ですか。モネは元気だよ』と書いてある。
その後ろにも近況や、レネの様子なども色々。
スーさんとルーさんとも、仲良くやっているようだ。
はあ、癒される〜。
あ、返事書かないとね。
「今夜泊めてよ」
「うん、いいよ!」
「お嬢! 泊まるの!?」
「「わあ!?」」
食堂の入り口にスライディングで入ってきたのはリスさん!
び、びっくりした!
「奇遇だね、僕も泊まりなんだ!」
「…………。ふぅん」
「反応薄!?」
「いや、ああそうって感じだし?」
「つれないなぁ、相変わらず〜。あ、お嬢もお酒飲めるようになったんだよね? 今夜一緒に飲まない?」
「やめとく。遊びに来たわけじゃないし〜。あ、ティナ、一緒にご飯作ろっか」
「う、うん」
「お嬢のご飯、僕も食べたいな〜」
「千コルトになりまーす」
「お金取るの!? 払うけど!」
……ナコナって、本当にリスさんの気持ちに気づいていないのかしら?
ジリルさん、ミラージェさん、シシオルさんにリスさんのお相手を頼み、ナコナと共に厨房へ。
せっかくだし、ロフォーラでしか採れない山菜で和え物でも作ろうかな。
ふっふっふっ、デイシュメールで大豆っぽいお豆、ダジズ豆が育つようになってから私は錬金術でお味噌とお醤油を錬成して作れるようになったのです!
……量を作れないのはちょっとネックだけど。
次の収穫でダジズ豆を『凝縮化』させて量産できないか試してみるつもりよ。
「聖女様」
「はい?」
あとはパスタかなー、とお鍋にお湯を沸かしていると、シシオルさんが厨房へ顔を出した。
もしかしてシシオルさんもご飯食べるのかな?
「幻獣大陸でカリルーの実が収穫期なのでお持ちしました。よろしければお役立てください」
「うっ」
差し出されたのは人の片腕はありそうな巨大な……カカオの実!?
なにこれ大きい!?
うわああ、出た〜、幻獣大陸からの『貢物』〜!
どう使っていいのか全くわからない貰って困るもの第二位!
ちなみに第一位は各国の偉い人からのお金とか宝石とか装飾品。
全部つっ返します。
シシオルさんの持ってきた超巨大なカカオの実っぽいもの……し、しかも……木箱いっぱいに、大量。
「あ、ありがとうございます……」
「お喜び頂けましたか!?」
「あ、はい、でも……ふ、普通はなにに使う実なんでしょうか?」
「食べます」
「な、生でですか? このまま?」
「はい!」
「そ、そうなんですか……こんなにたくさん……しばらくは大丈夫です……」
「はい! いつでもどうぞ!」
まるでキャラが変わったかのように満面の笑みで多分わたしにしか見えない幻影の尻尾を振るシシオルさん。
フェンリルだものね、尻尾は多分、本当にあるとは思うけど。
レンゲくんといいシンセンさんといい、犬っぽい幻獣の人ってたまにすごく大型犬っぽい……。
こ、これは参ったー……なにに使えばいいのかしらー……。
「なにもらったの?」
「カリルーの実、っていうんだって」
「なにに使うのかな?」
「幻獣さんはこのまま食べるらしいよ……」
「えぇ……」
ナコナもドン引き!
木箱にはたくさん入ってる。
それはもうびっしり!
……いや、みっちみっち?
なんにしても、困ったなコレ……あれ?
「くんくん」
「え、なに匂い嗅いでるの? ティナ」
「この匂い……もしかしたら……!」
「え? ティナ!?」
お湯の湧いたお鍋に一つを投入!
そして、気合いを入れて魔力を注ぎながらかき混ぜ始める。
ナコナが「またぁ!?」と叫ぶが今は集中!
次第にカリルーの実はお湯に溶けて消え、実の色がお湯に染み込んでいく。
そしてどんどん強くなるスパイシーな香り!
やっぱり! 間違いない!
あとは味だけど、まだ完成の光は起きてないからもっと魔力を注ぎ、かき混ぜ続けなければ!
「なにができるの? うっ! 変な匂い〜」
「…………」
カッ!
と、鍋が光る。
完成だわ!
「で、できた?」
「う、うん」
「コレなに?」
「ちょっと待って」
「食べて大丈夫なの!?」
「多分? 鑑定しても毒有りとはなってないから大丈夫よ」
鑑定魔法で鑑定した結果、『カリルーのスープ』と出た。
カ、カリルーのスープか。
割とストレートなネーミングね。
おたまですくってみると、トロトロとしている。
こ、これはますます
「…………」
ナコナが心配そうにする中、口に含む。
うん、この懐かしい味わい。
しかし、形容しがたい『コレじゃない』感。
圧倒的に何か足りないぞコレ。
「そうだ!」
「わあ!?」
ポーテト! オニュオン! キャロロト!
そしてラックのモモ肉!
それらを投入して、煮込む!
「ええ? えええぇ?」
「その間にパン!」
「ええええぇ?」
発酵済みのパン種をほわちゃちゃちゃちゃっとこねくり回し、一口サイズにちぎって丸めてトレイに乗せオーブンへ!
次はサラダ!
レタポ、オニュオン、ダジズ豆を煮たものに、プチティマートを載せて完成!
次! ドレッシング!
柑橘類で錬成して作った酢、ニポ鳥の卵、オリブの油、ティマートを煮詰めたもの、黒胡椒、レモーンの汁を少々。
コブサラダ風ドレッシング完成よ!
パンが焼けるまでまだ時間があるのでデザートも作るわ。
新鮮な果物があるのでこれでなにか作りましょう!
あ、オレンガやアポーンはジャムにするから取っておくとして、じゃあバッナナかしら。
そうだ!
せっかくだからアレを試してみよう!
まだ少量だけど、ダジズ豆で豆腐を作った時にできた豆乳!
ちなみに豆腐は大失敗したわ! 要研究!
でも豆乳はなぜか上手いことできたのよね……謎だわ。
とはいえ、わたし、豆乳はあまり得意ではない。
なので!
「ティナ、なに作るの? それ、ラック乳?」
「ううん、豆乳!」
「と、とうにゅー?」
「これを、こうして、こうするのよ」
ここは薄力粉と膨らし粉。
潰したバッナナをこの二つの粉と混ぜ合わせ、豆乳を投入。
豆乳は量があまり多くないから牛乳で量を調節。
しっとりした感じになったら、カップに入れてお湯を沸かしておいたお鍋に入れ中火程度で十分ほど蒸す!
「こ、これなに?」
「うーんと、バッナナと豆乳の蒸しパンケーキかな」
初めて作ったから味が不安。
フォークを刺して確認すると、うん、中までちゃんとできてる。
さあ、パンも『アレ』もできているから——。
「夕飯完成! 一緒に食べよう、ナコナ」
「う、うん。けど、その茶色い泥みたいなスープ、た、食べるの?」
「ふふふ、絶対大丈夫!」
野菜の旨味が染み出しているはずだもの。
今度は大丈夫。
というわけでわたしとナコナとリスさんの分も用意して、テーブルにつく。
リスさんの反応?
「な、なにこれ……」
顔は引き攣っているわ。
なんと持ってきた当本人のシシオルさんや、幻獣大陸でカリルーの実を見慣れているはずのジリルさんやミラージェさんまで!
「いただきまーす」
それならわたしが食べてみせようではない。
あーん。ぱくり!
「……………………。いまいち惜しい」
「えぇ〜……」
なんだろう、香りも味もカレーなんだけど……!
前世で食べていたカレーとは明らかに質落ちしたこの味わい!
なにか! なにかが足りない!
この、なんともいえず「あれ、ちょっと水多すぎてカレー粉足りなかったかな?」的な感じ!
前世で食べていた濃厚で、少しピリッとした刺激、深い味わいには届かない絶妙な物足りなさ!
「そ、そうか! これをベースに香辛料を加えていけば……」
「あれ、結構美味しい……」
「あ、ほんとだー。うん、美味しいよこれ、ティナ」
「まだダメです!」
「「えぇ……」」
こんなところで満足してはダメですカレー!
あなたはもっと高みへ行けるはず!
わたしとともに頑張りましょう!
*********
カレールーの実の案は末期謹賀様に頂きました。
ありがとうございます、使わせて頂きました!
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