第59話 相談/consultazione
「あっ、そうだ、ルージュ。ちょっとお願いというか相談があるんだけどいいかな?」
村人達も家に帰り始め、ルージュとアマリージョの笑いも落ち着いた頃を見計らって話を切り出す。
「えっ! 相談!? 何? 何? 何?」
ルージュが顔を輝かせて食いついてくる。この様子じゃ、きっと相談とかされた経験が少ないんだろうな・・・
「うん、あの・・・実はヒカリがね、この間マンションから持って帰ってきた怪獣、いや魔物の人形が何体か欲しいらしいんだ。それで、できればいくつか分けてもらえないかと思ってさ・・・あ、いや、もちろん必要なら何かと交換したり、お金を払ってもいいんだけど・・・」
「・・・」
ルージュは何故か無言だった。それどころか腕組みをして難しい顔をしている。
「・・・ルージュ? ごめん、嫌なら無理にとは言わないから・・・」
もしかして、相当嫌なのだろうかと不安になり、おそるおそる声をかける。
「はっ! あ、ごめん、ごめん。すっごい考えてたらボーッとしちゃった。えーと・・・何だっけ? あっ、魔物の人形の話ね! それって種類は何でもいいのかしら?」
どうやらルージュは、何かを真剣に考えようとすると眠くなるタイプの人間らしい。
「あ、ちょっと待って。聞いてみるから」
そう言って、ヒカリに確認をしてみる。
――ヒカリ、聞いてた? 怪獣のソフビ人形の種類だけど・・・
『――はい。聞いています。種類は何でも大丈夫です』
「なんでもいいって」
「えーと、あの時もらった魔物の人形なんだけど、全部で30以上あったのよね。ちゃんと確認しなかった私も悪かったんだけど、中に人型の魔物・・・というか人ね、あれは。その人たちの人形がいくつか混じってて。あれは正直、趣味じゃないからどうしようかと思ってたのよ。だから、ちょうど良かったというか・・・正直、大きい目の赤と銀の2色人間でしょ。嫌いじゃ無いんだけど、部屋の感じを台無しにしちゃうのよね・・・」
ルージュが真剣な顔をして打ち明けてくる。
「あ、そうなんだ・・・」
――ルージュが部屋の感じとか・・・ちょっと笑える。一体どんな部屋なんだろうか?でも赤銀の人間って・・・怪獣と戦う、あのヒーロー兄弟たちだよな。
「それでもいいなら、それは全部返すわよ」
「あぁ、それで充分だよ。ありがとう、ヒカリも喜ぶよ」
「あー良かった! 引き取ってくれる人ができて。アマリの部屋に勝手に飾っちゃおうかとも思ってたのよね~」
「・・・」
横目でジロリとにらむアマリージョを尻目に、ルージュは楽しそうに笑っていた。
その後、ルージュたちの家に行き、ソフビ人形9体を返してもらった。
ルージュとアマリージョは、新しい武器に早く馴染みたいらしく、これから狩りに行くので一緒に行かないかと誘われたが、ヒカリから馬車の様子を見るように言われていたのを思い出し、一人家に戻った。
――そういえば、馬車の様子って何を見たらよかったの?
倉庫にある馬車の近くに来たのでヒカリに確認してみた。
『馬車にある収納の魔法陣を調べたかったので協力をお願いしたいのです』
――あ、そんなこと?・・・ちょっと拍子抜けしちゃったよ。なんかヒカリ、急に改まった口調で言うからもっと難しいことかと思って身構えてたよ
『――そうでしたか、すみません』
――いいよ全然。じゃ、馬車の中入るから、どうしたらいい?
『しばらく魔法陣に触れておいてもらえますか?』
――わかった。
言われた通り、馬車に描かれた魔法陣に手を触れる。
時間がかかりそうだったので、手を触れたまま、その場に座り直す。
『――少し魔力を流したりしますので、何か違和感などがあったら教えて下さい』
――え! 痛いの? 痛いのヤダ
『――おそらくは大丈夫ですから』
ヒカリがそういうと、魔法陣に触れている手が暖かくなってきた気がした。
すると、魔法陣が薄ぼんやりと光り出した。
「うおぉ」
幻想的に光る魔法陣が綺麗で思わず声を出してしまう。
――なんだか、手のひらが・・・少しピリピリしてきたよ
手のひらの中心部分に、低周波を流されているような痛みと痺れるような感覚があったのでヒカリに報告する。
『――少しだけ我慢してください。今、私の考えた魔法陣と、馬車の魔法陣とを組み合わせて実験をしていますので・・・』
――え、実験? 組み合わせ・・・? 自分で作った?
『――はい、今、この馬車の収納の魔法陣について最終確認中です。新しい魔法陣を手に映しだすことで、馬車の魔法陣自体に干渉が出来ないかと・・・あわよくば性質を変化させたり出来ないかと思いまして』
――それって、俺の内側から魔法陣を投影して、馬車の魔法陣に何かしようとしてるってこと?
『――はい。その通りです』
――それって・・・危なくないの? 人体実験だよね?
だんだん手の痛みが大きくなるにつれて、不安感も増してくる。
『私の調べた所によりますと、この収納の魔法陣は分かりやすく言うと空間を変化させる魔法、いわば【空間魔法】と言ったところです。これに手を加えて、空間の範囲を変えたり、多く入るという空間の拡張だけでなく、逆に物を小さくして収納する、アニメでいうところの四次元ポケットのようなものが作れないかと考えています』
――なにそれ! すごい!! 人類の憧れ・・・例のロボの代名詞、四次元ポケット・・・
夢ある話に一瞬痛みを忘れる。
――それって、あの・・・お風呂とかに直行できるドア的なものも作れちゃう?
『――はい。最終的にはやれないこともないかと・・・』
「うおぉぉぉーー ヒカリ、ありがとう!!」
ヒカリの言葉に興奮が押さえきれず、雄叫びを上げる。
『――・・・』
――ふぅ・・・。あれ? でも今って実験中だよね? もしかしてだけど、このまま腕だけどこかに転送されたりする可能性はないの?
痛みがどんどん増していき、我慢も限界に近づいていたので、不安に思っていたことを口にしてみる。
『――確率的には少ないと思います。万が一、腕が無くなっても変わりの腕は用意するつもりですので、安心して下さい』
――なーんだ、それなら安心だね・・・ってなるか!!
「!!! って!! 痛ったぁぁぁぁぁぁい!!! 痛いっ!」
痛みに耐えきれず、大声を上げて手を離した。
『――限界でしたか・・・すみません』
――いや、痛みが限界なのは限界だけど、それより代わりの腕っていう方が気になるんだけど。
『――とりあえずのデータは、取れましたので戻ってもらって結構です』
――分かった。じゃ戻るけど、とりあえず何してるのか少しくらい教えてよ
『――言わなければダメですか?』
――言いたくないなら仕方ないけど・・・あやしい実験とかしてて、ある日突然家が爆発しました・・・とかならない?
『――そんな危険なことはしていませんのでご心配なく。でも、他にも協力して欲しいことがありますので、きちんと説明します』
――わかった。 じゃあちょっと待ってて、今、家に戻るから。
そう言って、足早に家に戻ると、机の上に置いてあるヒカリを抱え上げて、そのまま二階へ上がる。
「一番奥の部屋でいいんだよね?」
『はい。お願いします』
階段を上がり、自分の部屋の前を通り過ぎ、一番奥の家電製品の物置になっている部屋へ入る。
「この部屋で本当にいいの? 使ってない家電でかなり狭いけど・・・」
『はい、大丈夫です。それよりもルージュからもらった人形を私の上に乗せておいてもらえますか?』
「うん、さっきのやつね。じゃヒカリはここでいい?」
一番の奥の窓の下にスペースがあったのでヒカリをそこに置いて、ソフビの人形をヒカリの上に乗せた。
『ありがとうございます』
「それで? ヒカリはこれから何をしようとしてるの?」
『そうですね。その話ですが・・・現在私が考えているテーマとしては3つですね。まず一つにここにある家電を配下にしようと思っています』
「それって・・・魔石を入れて魔物化するってこと?」
『そうです。基本は自由意志を持たせず、便利に使えるようにするだけですが・・・。それによって現在考えている、その先の応用へとつながっていくと思っています』
「その応用ってのはどういうものなの?」
『それがテーマの2つ目に当たるもので、魔法を使えるようにしようと思っています』
「えっ、魔法!? ヒカリが? マジで? いいな、俺も練習しようかな・・・」
自分だけ置いてきぼりになっているような気がして、なんとなく焦ってしまう。
『あ、私は使えませんよ。これは何度かシミュレーションしてみたのですが、魔素を電力に変えて機能を維持している私は、魔法が使えません。いえ、正確には使えないのではなく、魔法に使用する魔力がないのです』
「・・・???」
ヒカリが何を言っているのかさっぱり理解できない。
『ええと・・・分かりやすく言うと、まず私は機械です。その機能を維持するのに電力が必要です。現在電力はソーラー君から魔素を介して送ってもらっていますが、魔法を使用しようとして魔素を魔力に変換しようとすると、問題が発生するのです』
「・・・問題?」
『はい。魔素を魔力に変換しようとすると、そのために更に電力が必要になってしまうのです』
「ん? それって・・・」
『その通りです。電力も魔力も元は魔素ですからね。魔力を練ろうとすると、魔素を電力側にもっていかれてしまうため、魔力を作るための魔素が不足してしまうという事です。これは、大きい魔力を得ようとすれはするほど電力が必要になるわけでして・・・最終的には発動するためにも魔素を必要する訳ですから、非常に効率が悪く、とても実戦で使えるような魔法を出せない、という事です』
「じゃ、魔法は誰が?」
『それは、
「え!! 俺!? でも・・・俺は全然才能無いよね・・・」
ヒカリの言葉に驚きつつ、例の失敗を思い出し、いたたまれない気持ちになった。
『では、先日、ケナ婆様のところで覚えた土魔法を試しにやってみますか?』
ヒカリがちょっといたずらっぽい声で聞いてくる。
「え? マジ・・?」
ヒカリの冗談とも本気ともつかない提案に驚きつつ、ほんの一瞬嬉しさも込み上げたが、拭いきれない不安が胸をよぎった――。
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