第32話 出発/partenza

 翌朝、3人で缶詰入りのパンを食べてから、出発の準備をする。

 荷物はなるべく減らして持ちやすいようにした。

 それでも、大きめのカバンが7個分になってしまった。


 女の子2人に荷物を持ってくれ・・・とも言いにくいので、なんとか整理して、せめてカバン1つ分くらい減らへせないか試行錯誤する。


 こういう整理は昔から苦手だ。

 軽い物を下にして、重い物を上に入れる。

 そうすることで、背負ったときに重心が高くなり、背負いやすい。


 整理して、背負いやすく、整理しながら、背負いやすく、順番を考えて隙間なく・・・・背負いやすく・・


――って、ほとんど手提げカバンだった! 背負えないし・・・


 出発の時間も迫っている。


――もう元に戻そう・・・

 諦めて荷物を元通りに詰め直していると、その荷物の山を見てルージュが話しかけてきた。


「ねぇ、クロード。あなたもしかして、全部今持って行くつもりなの?」


「え、なんで? そうだけど・・・」


「本気で? どれだけ遠いと思ってるのよ、そんなの後で馬車で取りにくればいいじゃない」


「え、そんなのアリ?」


「そうよ! しっかりしてそうで、意外と何も考えていないのね・・・天然ね、きっと」


――ルージュ、お前には言われたくない



「でも昨日、荷物をまとめていた時、私もてっきり後で取りにくるものだと思ってました。どれも不思議な魔道具ばかりですし。置いて行くのは心配ですが、それが一番楽だと思いましたから」

 アマリージョにも言われてしまった。


「・・・そうなんだ」


「はい。今は最低限のものだけ持ち出して、村に着いたら馬車を借りて戻ってくるのが確実で良い方法だと思います。村に空いてる馬がいれば、すぐにでも戻ってこれると思いますし」


「アマリージョが言うならそれでもいいか」


「・・・私も同じこと言ってるから!」


「ごめん、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど」

 ルージュは少しふてくされたように腕を組み、頬を膨らませた。


「ヒカリはどう思う?」


『もし、馬車が借りられるとすれば、距離にもよりますが、その方が良いかも知れません。ただ、その場合、ここにある荷物だけですと、逆に少なすぎて馬車を出すこと自体がもったいないという事になりかねませんね』


「・・・そうか、持つには多すぎ、馬車では少なすぎか」

 腕組みをして考える。


『そこで提案ですが、馬車を持ってこられた場合、ここの荷物にプラスしてマンションの荷物を追加するというのはどうでしょうか?』


「おぉ、そうか。いやでももう役に立ちそうなものは、だいたい運んじゃったよ」


『そうですね。でもそれはここで生活するために必要な物でしたので。定住して使うことを前提とするといろいろあると思います』


「まあ、そうか。じゃあ、ほかはどんなものを持って行く?」


『村で家を借りられる事が前提となりますが、まずは家電製品です』


「家電? でも電気ないし使えないよ」


『電力でしたら、私が大丈夫な様に、いずれなんとかなると思います。大規模には無理でしょうが、家一軒程度ならなんとか』


「うそ、マジで? テレビは無理にしてもビデオとか見れちゃう感じ? レンジや冷蔵庫も使えるかな」


『運べさえすれば問題ないと思います』


「ていうか、冷蔵庫とかこの世界にはないのかな・・・ねぇ、ルージュ? 食べ物とかを冷やして保存する場合、普通はどうしてるの?」

生活レベルが分からないので、それとなく聞いてみた。


「冷やす? 水魔法が使えれば氷も出せるわよ」


「というか、なんだろ。例えば肉とかを保存したりする時とか」


「肉は干し肉にしたり、塩漬けにしたりはするけど、冷やして保存したりはしないわよ。たまに肉を氷漬けにして保存する人もいるって聞くけど、魔力をそんなことに使うくらいなら、新鮮な獲物を狩ってきた方が早いじゃない」

 当たり前だと言わんばかりにルージュが答えた。


「そうなのか・・・ちょっと答えが違うような気もするけど。まぁわかったよ。ありがとう。じゃあ準備も出来たし、そろそろ出発しようか」


「わかったわ」

 そう言うと、ルージュはアマリージョと洞窟の外へ出て行った。


「でも冷蔵庫は小さいのでいいから欲しいな。魔法があってもなくても、物が常に冷やせるのはうれしいもんな」

 改めてヒカリに言ってみる。


『そうですね。一応候補としましては、テレビ、DVDプレーヤー、冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、掃除機、電子レンジ、トースター、ポット、照明器具、パソコン、携帯電話、音楽再生機器、扇風機、クーラー、ゲーム類、CD、DVD、ゲームソフト、それと玄人くろとさんの私物ですね』


「娯楽用品多いな・・・なんか生活が楽しくなりそうだ、ほかには何かある?」


『管理人さんが裏庭で小さな菜園を作っていましたので、食糧になりそうな種などがあれば欲しいですね』


「あぁ、そういえばなんか育てていたね。食糧か・・・そんなもの作ってたかな?」


『何を育てていたか、念のため確認はしてください』


「よし、なんだかワクワクしてきたね。朝から映画見たり、音楽聞いたり・・・引きこもり生活になりそうだよ・・・ん? あれ。それヒカリがいれば今も出来るじゃん」


『出来るのですが・・・』


「何か、ほかの理由があるの?」


『もうすぐ、新しい魔石が作れそうなので家電を魔物にして配下を増やそうと思っていました』


「え? マジで? すごいな。いや待ってよ・・・それってテレビとかが喋るようになるの?」


『いえ、その辺は最初に調整できますので・・・』


「うーん・・・ならいいか。後は、馬車で戻ってくるときに具体的に考えるよ」

 そう言って、荷物をまとめ直して外へ出る。


 洞窟の前では、ルージュとアマリージョが待っていた。


「じゃあ、これ、悪いけどルージュの荷物ね。アマリージョは怪我のことがあるから手ぶらで。最後に湧き水だけ汲んでから、村に向かおう」


「えぇ」

「はい、わかりました」

 

「じゃ出発しよう」

 俺はそう言った後、一瞬振り返り、最後に洞窟に対して心の中でお礼を言った。


――また、すぐ戻ってくるけど、今まで住まわせてくれてありがとう

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