第17話 魔石製作/Pietra magica produzione

 

「で怪我のほうは?」

 魔石の報告も段落がついたので、ヒカリが言っていた怪我についての提案について、改めて聞いてみた。


『お聞きしますが、先ほど湧き水を傷にかけた時、治りましたか?』


「治ってはないけど、少し楽になった感じ。でも血は止まったみたい」

俺は先ほど感じたことをそのままヒカリに伝える。


『これは、魔素の流れから分かったことですが、おそらくあの湧き水はなんらかの不純な物を打ち消しているものと思われます』


「不純なもの?」


『分かりやすく言うと、魔石生まれの邪悪な魔物の体液や唾液に含まれていた魔素のことです』


「魔石を食べたりして魔物なった場合は、その邪悪な魔素がないってこと?」


『はい。同化した私にはありませんので、おそらくは』


「じゃあの湧き水は、不純なものを清めるような、いわゆる聖水みたいな役割があるってことかな」


『その通りかと思われます』


「だいたい理解出来たような、出来ていないような。まあ、魔物は危ない奴と大丈夫な奴がいて、どうせ倒すなら大丈夫な奴のほうが、魔石も肉も手に入ってラッキーってことだよね」


『はい、大体そんな感じです。ただ、魔石生まれの魔物は魔素の濃度も比較的濃く、倒したとき出る魔素を浴びることで、身体をより強化するという特徴がありますので、一概にどちらが得かは分かりかねます』


「ん? なんか今さらっと言ったけど、今日一番の報告じゃない? それ」


『何がでしょうか?』


「今言ったのって、危険は伴うけど、魔石生まれの魔物を倒すと倒した自分が強化されるってことだよね?」


『はい。魔素を効率よく体内に吸収していくので、体内の魔素量が飛躍的に上がり、その魔素量に応じて、身体能力が上がったり、魔法が使えたりするようになります』


「もしかして、今日一匹倒したから、強くなったってこと?魔法とか使えるようになってたりして。そうか、それで回復魔法とか使えるようになって・・・・それか。怪我についての提案って」


『いえ違います。一匹くらいでは強くもなりませんし、魔法も使えません。ただ、地球人は元々身体に魔素を持っていないので、吸収はしやすいようです。実際、体内に少量ですが魔素を感じられますし』


「それって・・・もしかしていずれ魔法とか使える可能性があるってこと?」


『魔法がどんなものか分かれば、可能かも知れません』


「・・・・わかった。で、怪我の方は?」


『こちらは、提案になりますが、湧き水の性能を考えると、これ以上を使っても、痛み止め程度の効果しか得られないと思われます。怪我の程度を考えると左手は後遺症が残る可能性もあります。そこで怪我を治すために、魔石を食べませんか?』


「魔石を?おれが?・・・・だめだよ。そんな事したら、魔物にナッチャウヨー」

 昔活躍したサッカー選手風に言ってみた。


『種類でいうと魔物なのかもしれませんが、大丈夫だと思います。ウサギの魔物と同様で、元の自我は残りますし、魔石のサイズにもよりますが、魔素が体内を巡るため、身体能力の向上と魔力の増大、そして怪我の回復が見込まれます』


「・・・・うーん」

 確かに左手は痛い。

 湧き水のおかけで痛みが引いている実感はものすごくある。

 でも、よく見れば腕の肉はえぐれているし、傷が治っても自由に動かせるとは限らない。

 それに、一番の問題は完治するまでの間に、もしまた魔物に襲われたら死んでしまう確率が高いということだ。


どうするべきか


「ちなみに魔石って、さっき拾ったネズミのやつを食べるの?」


『いえ、あれでは大きさが足りなすぎですので、私が用意します』


「用意ってどうやって?」


『作ります』


「・・・え・・・魔石って作れるの?」


『前に説明しましたが、上位の魔物は魔石を作ることが出来ます』


「ヒカリって上位の魔物なの?」


『一応、これでも希少種のブルードラゴンの魔石と同化していますので。あと、空気中の魔素の濃度が濃くなってきたことと、ネズミを倒したことで、同化が一気に早まり、現在ほぼ完全に同化出来ています』


「ちなみに作れる魔石ってどんなやつなの?」

 

『大体8センチほどです』


「そんなの食えるかよ!」


『それともう一つあるのですが・・・』


「なに?」


『ネズミと戦ったとき、私は何も出来ませんでした。攻撃の手伝いはもちろん、指示を出したり、話しかけることさえも・・・』


「うん、まぁ」


『実は、上位の魔物が自分で生成した魔石をほかのものに分け与える時、一緒に能力も付与できるようなのです。私自身は、現在、感知くらいしか出来ませんが、私とリンクするような形で魔石を体内に取り込んで頂ければ、直接魔石を通じて会話も出来ます。少なくとも感知の能力は私とほぼ同等に使えると思いますので、きっと戦闘の際にも役に立つと思います』


「感知か・・・まぁそれが出来ないから、そもそも危険な訳だし。直接会話出来るのも楽だな。もしそうなると、ヒカリは洞窟に置いたまま、一人で出歩いても会話出来るようになる?」


『距離にもよると思いますが、現在の行動範囲くらいなら、間違いなく出来ると思います』


「しかし、まぁ8センチか・・・」


『口が無理なら、お尻からどうですか?』


「・・・・・・・」


『なるべく細い形に作りますね』


「入るわけ無いだろ! 想像だけで痛いよ」


『となると、やはり口からでしょうか』


「口から石とか、どんな拷問だよ、ほんと」


『・・・わがままばかり言わないでください』

何故か急に怒られた。


「なんかこう、頭に乗せておいたら吸収されるようなシステムとかないの? そもそも普通の魔物はどうやって魔石を体内に入れてるの? 口から? 絶対、頭とかお尻じゃないよね?」


『吸収ですか・・・。そもそも自身で魔石を取り入れるときは基本的に口からです。ですから飲み込める大きさのものしか取り込むことが出来ません。逆に言えば、知らないうちに魔石を食べてしまい魔物になるという事もあると思います』


「そうなんだ・・・じゃあ魔物が作った魔石を取り込むには?」


『その場合は魔石のサイズが大きくなりますので、口から飲み込むのは少し大変です。身体が大きければ問題ないと思いますが、小さいと喉を通らない大きさですので。ですからその場合には、魔石を血液に直接触れさせることで同化させます。さすがに頭を割って入れるのは無理なので、配下を増やしたいときは、腹を裂いて直接入れるみたいです。傷は後で治りますし』


「うーん・・・・お腹は切りたくないし、血か・・・。あっ!腕の傷口からはダメかな?」


『まだ少量ですが血も出ていますし・・・。湧き水をかけなければ傷もまた開いてくるでしょうから、魔石の先を傷口に差し込んでおけば大丈夫かもしれませんね』


「ここが妥協案かな・・・ギリギリだけど・・・。本当に害は無い?」


『害はないと思います。むしろ生きるには必要な措置かと』


「・・・だよな・・・・・・仕方ない・・・仕方ないか・・・うーん、仕方ない。やろう」


『了解しました。では魔石を生成しますので12時間ほどお待ち下さい』


「え!?・・・すぐじゃないの?」


『はい。12時間後ですね』


「あ、そうなんだ・・・」

 覚悟するのって、そうそう何度も出来るわけじゃないと思うんだけど・・・。

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