第2話 箱崎玄人/Hakozaki Kuroto

 俺の名前は、箱崎玄人はこざきくろと

 今年で35歳。彼女なし、独身。

 賃貸マンションのワンルームで一人暮らし。

 趣味はパソコン。

 

 でも今は家でテレビを見ている。

 なぜってパソコンが使えないからだ。


 毎日のように遊んでいた愛用のノートパソコン。

 かれこれ5年の付き合いになる。


 何か調べ物をするときも、

 家で仕事をするときも、

 ゲームをするときも、

 動画やちょっとHなモノを見るときも、

 全ての作業をそつなくこなしてきた、ハイスペックのノートパソコン。

 結構高い値段を出して購入したもので、なんといっても処理能力と解像度が素晴らしい。



 その愛用の「ノートちゃん」。


 彼女は今、青い液体まみれのまま、部屋の隅のビニール袋の中で眠っている。

 そして、あろうことか彼女の胸の中ではアイツが潰れている。

 そう考えると、とてもじゃないが中を開ける気にはならない。

 

 だからそのままビニール袋に入れた。

 若干、炎も吹き出ていたし。


 最終的に廃棄するにしても、データは移しておきたい。

 だから、新しいノートパソコンを買うまではあそこに置いたままの予定だ。

 申し訳ないが、しばらくは部屋の隅で余生を送って貰いたい。


     ♣ 


 テレビのニュースでは、最近起きている不可解な事件の特集をしていた。


 その事件は、都内近郊で人が忽然と姿を消してしまうというものだった。

 事件は早いときで3日。

 長くても数週間に一度、突然起こる不可解な事件だった。


 先週の金曜日に確認されたものが5件目。

 次起これば6件目という事になる。


 人が姿を消す歳の共通点は無く、ある時は、車が複数台事故を起こした現場から。

 またある時は、結婚式の会場から。

 またある時は、人だけではなく、家全体が丸ごと消えてしまう、というケースもあった。


 ただ、その全てに共通しているのは、「突然」無くなったという事。

 そして、目撃者も全て消えてしまうため、誰一人として目撃者がいないという事。

 防犯カメラなどの電子機器は、その前後、映像が乱れて何も映っていないという事。

 

 そして最大の特徴として、今は7月だというのに人が消えた現場は決まって氷の欠片が散らばっており、あちこちの建物などが所々凍結しているという事だった。


 最初は数人、今や数十人規模。

 範囲が大きくなっていることだけは確かだった。


 謎が多い事件だけに、テレビでは様々な憶測が語られていた。

 ちなみに今、番組内で語っているのは、宇宙人と交信出来るという宇宙人研究家だ。


「テレビってこんなのばっかりだな…」


 不安だけ煽っても仕方がないし、映像も無いから、宇宙人陰謀説でさえ信憑性があるように聞こえるのは、ある意味仕方ないことなのかも知れないかった。


 今日は結局、何もせずゴロゴロして1日が終わってしまった。


 やはりパソコンがないと暇だ。

 明日は思い切って新しいパソコンを買いに行ってみようか。

 

 でもハイスペックでカスタマイズするなら、注文には少し時間がかかるだろう。

 かといって、自作で作れるほどの知識も無い。

 

 ベットの中で予定をあれこれ考えていたら、そのまま自然に眠りについてしまった。


     ♣


 夜中、何かの音で目が覚める。

 携帯電話のバイブがなっているような音だったが、携帯ではなかった。

 気のせいかと思い、再び目をつむる。

 目を閉じて数分・・・


 意識が夢の中へと消えていく中で、

――もしかしてパソコンが起動しているのか?

と思ったが、自分で壊したことを思い出し、それ以上考えるのをやめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る