一歩

綺麗な瞳だ

華奢な腕に頼りない脚

君の表情はいつも儚げだ


そんな君を見つめている

君から見れば僕も切ない顔をしているのだろうね


想いは伝わらない

君に、端的に言ってしまえば惹かれた

こうして惹かれ続けている

どうしてだろう、伝えられない

そう、伝わらないんじゃない伝えられないんだ

恐怖かそれとも自信の無さか

わかっているんだ、理解しているつもりなんだ

君のその表情の理由

だからこそ伝えられない

僕は強くないから

この気持ちを沈め、奥へ奥へと追いやる


窓辺に佇む君はいつも儚げだ

その目線に何を見ているのだろう

虚空じゃないのだろうね

僕やほかの人間には見えない何かが見えている

理解できてしまう自分が嫌になる

優しいから気遣いが出来るから、いやそうじゃない

怖いんだ、この関係が壊れるのが

いずれ死をもって壊れる関係

だから今のままでいい、このまま見つめるだけの僕でいい

そう考えると胸が痛み切なさが胸から全身へと波紋する


君を救えるのは本当に僕なんだろうか、僕以外に適任が居るんじゃないか

終わりのない問答を続ける

諦められないくせに諦めようと努力する僕は道化だろう

いや、道化にすらなれていない

君にとっての何になれただろうか、始まってもいない関係を勝手に終わらせている

終わらせられたらどれほどいいのだろう


虚ろな君に声をかけようと思う

意味があるかわからない、反応があるかもわからない

一歩踏み出すためには行動しかないんだ

在り来たりな答えに辿り着く

凡人だ、凡庸な答え

だからこそ愚者のように生きる

一直線に進むしかない

奥歯を噛み締め速くなる鼓動を落ち着かせつつ

踏み出し、言葉にする


「僕じゃだめですか」


儚げで虚ろな君は少しこちらを見た

その目に僕は映っているだろうか

反応が返ってくるまでの間、ほんの数秒が恐ろしく長く感じる

鼓動が激しく脈打ち、頬が赤くなっていく

うるさくも静寂な時間

君が口を開く


「喜んで」


儚げだった彼女の表情が綻び、瞳には僕が映っていた

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