第48話 褒賞式
まったりとした一日を過ごした翌朝、俺たち三人はエドガー国王との約束のため、歩いて王城へ向かっていた。
「もう少しで城に着くけど、二人とも問題は起こさないでね? 特にフラム」
「何故私なのだ?
「「……」」
俺はフラムの言葉に何も答えることができない。ディアも同じ気持ちなのだろうか、視線をフラムから逸らしている。
「何で黙るのだ!」
そんなやり取りをしながら歩くと、王城がすぐ目の前にまで近づいていた。俺はここに来るのは二度目とはいえ、やはり圧倒される大きさだ。
ディアは城を興味深く眺めている。だが、それに対してフラムはあまり興味がなさそうだった。
「フラムはあんまり興味無さそうだけど、もしかして来たことあったりするの?」
「いや、来たことはないぞ。ただ竜族のいる場所にもこういった建物はあるからな。見慣れない光景ではないのだ」
なるほど。しかもフラムは炎竜王だし、もしかしたら城に住んでいる可能性もありそうだ。
「早くお城に行こう」
そんな事を考えていると、まさかのディアが俺とフラムにそう促してきた。余程王城が気になっているようだ。
「わかった。とりあえず、そこにいる城門を守ってる衛兵の人に入城許可を取ろう」
俺たち三人は城門へと近付き、衛兵に話しかける。
「すいません。エドガー国王陛下と約束をしているのですが、入っても構いませんか?」
「約束ですか? 失礼ですが、貴方のお名前を伺っても?」
衛兵の男性はおそらく俺が来るということを通達されていたのだろう。特に怪しむ様子はなく、本人確認のためなのか名前を聞いてきた。
「コースケと言います。隣にいる者たちは同じ冒険者で、パーティーを組んでいる仲間です」
「コースケ殿ですね。それでしたらお通しするよう通達が来ています。どうぞお通り下さい」
お礼を衛兵の人に言ってから俺たちは王城の敷地内へと進む。
まさかこんなにもあっさりと入城を許可されるとは思っていなかったのもあり、拍子抜けした気分になる。
身分証とか確認しなくてもいいのかな? 言葉だけの確認で入れるなんて警備が緩すぎる気が……。
だが、そんな考えは杞憂に終わる。王城内には社交界の時とは違い、多くの兵士がそこら中にいたのだ。
おそらく、社交界の時は兵士が表立って警備をせず、貴族の目につかないようにしていたのだろう。
確かに兵士がここまで多くいるところを見るのはあまりいい気分はしない。元の世界でも警察官が自分の周りにいたら、何も悪いことをしていないにも関わらず、緊張をしてしまうあれと一緒だ。
俺たちが王城内に入ると一人の兵士が近付いてきた。その兵士の格好は他の兵士とは違い、立派な鎧を装備している。十中八九、その兵士は騎士だと思われる。
「コースケ殿ですね。陛下が玉座の間でお待ちです。どうぞこちらへ」
そう言われ、俺の人相が知れ渡っているのかと僅かに思ったが、その騎士の顔を見て、ふと思い出す。
この人は確か、社交界で国王様を護っていた四人の騎士の内の一人だったかな。道理で俺の顔を知ってる訳だ。
騎士に着いていくと、やがて巨大な両開きの扉の前にたどり着き、その扉の左右を挟むように兵士が立っている。
俺たちを案内している騎士がその兵士に頷くと、何の躊躇もなく兵士二人が扉をゆっくりと開けた。
「只今、コースケ殿とそのお仲間が参られました!」
扉が開ききると騎士が大声を上げ、俺たちの到着を報せる。
その扉の先の光景は社交界の場とは違い、荘厳な雰囲気であった。入り口から真っ直ぐと敷かれた赤いカーペットに、天井には規則的に並ぶいくつものシャンデリア。そしてカーペットを挟むように左右には何人もの兵士が直立不動で俺たちを出迎えている。
カーペットの敷かれた最奥には数段の階段があり、その階段の上にエドガー国王とセリア王妃が玉座と思われる椅子に掛けており、さらにエドガー国王の近くには貴族と思われる人物が側で控えている。
「どうぞ、そのまま前にお進み下さい」
そう言われてもこの雰囲気で先に進む勇気は中々出ないんだけど……。でも待たせるわけにもいかないし、腹をくくるしかないか。
俺は覚悟を決め、エドガー国王の元へと進む。
歩いている途中で気付いたけど、国王様の前まで進んだ後はどうすればいいんだ!? 騎士の人にはその辺を教えておいて欲しかった……。
そんな事を考えていると、エドガー国王の元へとたどり着いてしまっていた。俺は開き直り、膝をついて頭を下げればいいかという結論を下し、階段の少し手前で立ち止まって実行に移す。
だが、俺のそんな行動に続かないディアとフラムが頭を下げている最中にちらりと見えた。
この二人には礼儀作法を期待していなかったとはいえ、ここまでダメだったとは……。
途方に暮れていると、エドガー国王から言葉を掛けられる。
「コースケ、よく来たな! 別に頭を下げなくても構わないんだが」
そんな砕けた口調で気軽に俺に話し掛けてくれるエドガー国王。しかし、そんなエドガー国王の態度に隣に座るセリア王妃はひきつった笑みを浮かべていた。さらには側で控えている貴族と思われる人物も。
だが、このまま頭を下げ続けていても埒が明かないため、俺は立ち上がって挨拶をすることに。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。後ろにいるのは私の冒険者仲間である、ディアとフラムと申します」
『俺』でいいと言われていたが、こんな雰囲気の中で『俺』と言う勇気はない。
「ディアとフラムって言うのか。えらく綺麗な二人だな。コースケは所謂ハーレムってやつか?」
エドガー国王の「綺麗な二人だな」という言葉を聞いたセリア王妃の顔は更にひきつっていた。だが、怒られるのは俺ではないので気にしない事にする。
「違いますよ。たまたま知り合う切っ掛けがあって、パーティーを組んだのです」
「たまたまでそんな綺麗な女性と組むなんてツイてる――」
そうエドガー国王が話そうとした時、その隣から咳払いが聞こえる。
「申し訳ありません。つい咳が……」
これは絶対にわざとだ。たぶん国王様への最終通告ってやつに違いない。その事に国王様も気付いたのか、少し顔を青くしてるし……。
「気になさらないで下さい。王妃様」
俺は少しでも空気が良くなるようにフォローをしたのだった。
「ゴホン、まずは当初の目的である褒美を渡そう。オーバン、あれを」
エドガー国王は何事もなかったかのように話題を変え、オーバンという側に控えていた貴族と思われる五十代の男性に声をかける。
「冒険者コースケ、エドガー国王陛下を窮地から救った褒美として三等級勲章と王都にある屋敷の所有証明書を授与する」
この言葉と共に、玉座の間にいた兵士たちから拍手が起こる。
オーバンと呼ばれる男性は俺に近付き、金色に輝く勲章と証明書を手渡す。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げ、それを受け取る。
「これにて褒賞式を終了とする。兵の者たちは下がってよい」
エドガー国王がそう声を上げると、兵士たちは一礼した後に玉座の間から出ていったのだった。
この場に残るのは俺たち三人とエドガー国王、セリア王妃、俺たちを案内してくれた騎士に、オーバンと呼ばれる男性だけになる。
「これでコースケたちと気兼ねなく話せるな」
いや、逆に重要そうな人物だけが残ってるんだけど……。
そうは思ったが、エドガー国王の言葉に頷くことにした。
「それでコースケ、仲間の二人と直接話してもいいか?」
「構いませんが……」
「なら二人にはコースケからではなく、自分で自己紹介をしてくれないか? まずは俺たちからだな。俺はこの国の王様をやってるエドガー・ド・ラバールだ。隣に座ってるのが妻のセリア。俺の側にいるのは宰相のオーバン・クール侯爵で、そこにいる騎士は近衛騎士団副隊長のダニエル。これから何かとコースケたちとは縁があると思っている。よろしく頼む」
オーバンと呼ばれる男性は侯爵だったのか。国王様が名前で普段呼んでいるところを見ると良い関係みたいだ。
「私はディア」
ディアの自己紹介は一瞬で終わる。これではあまりにも短すぎるのでディアに耳打ちをして、もう少し頑張るように促す。
「私はこうすけの仲間。魔法を使える」
ディアにはこれが限界の様だ。まあ元々口数が少ないし、しょうがない。
次はフラムの番となり、フラムは一歩前に出て自己紹介を始める。
「私の名はフラムだ。私は剣と魔法を使って戦う。エドガーと言ったか? こちらこそよろしく頼むぞ」
「「……」」
フラムの態度に宰相のクール侯爵とダニエル副隊長は唖然としていた。俺はというと頭を抱えるのだった。
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