第45話 そして彼らも、鷺ノ宮事件へ至る
ちょうど一年、イヅナは一足先に
だから、そこから半年後のことだ。
日本に存在する
認定試験は明日だが、特に身構えることはない。何故なら、認定証を所持せずとも、ベルは
中に入って逢うのは、
「で、面倒な用件か?」
腕を組まれて言われたので、ベルは吐息を落とす。
「たとえば?」
「……レインの返品とか?」
「確かにそいつは面倒な用件だ。それと、妙に野雨がざわついてる」
「へえ? そりゃ――ん?」
そこで、
エグゼ・エミリオンだ。
戻ってきてから挨拶を交わし、煙草に火を点ければ。
「――気が重いぜ。エルムも戻っているのか?」
「そのうちに来る。どうせ俺には手出しができない」
ちらりと見れば、ベルの持ってきた車の設計図とにらめっこしている双海と、この男はたぶん、年齢が近い。
それと、もう一人。
「見上げる必要がなくなったのは、俺の背丈が少し伸びたからか……あんたがアクアか、あまり話は聞いていないが」
「あら」
「ウェルは、なにかと口を開けば、ガーネが知っていると胸を張ってた。お前が覚えておけと殴っておくのも、二回目からは面倒だな……」
「そうか、ウェルの荷物はお前が受け取ったのか」
「まあな。俺にも手に余る代物だ――が、親和性は高い。だが、どうであれ俺は駒だ。特別な何かになったとは思えない」
「自覚があるのか」
「見極めは重要だ。特に、今日みたいにざわついてる時にはな」
「世界にも
「世界、ね。知らずに済ますつもりはないが、俺みたいな凡人はできることもねえよ。エルムやブルーに任せる」
「……なるほど、な」
小さく、エミリオンは笑った。
「当時の俺よりも、きっとお前の方が賢いんだろう。魔法師なんかに劣等感を抱く必要はない」
「――いや、違うな。俺だって蜘蛛やスノウが傍にいれば、その違いに目を反らしたくもなる。だが俺の傍にいる連中は、節穴の間抜けばかりだったからな。よっぽどアブの方が面倒だ」
「アブ?」
「お前が拾った野郎だ」
「……、……ああ、あの時のガキか。お前とは同期で、まだ生きているのか?」
「おう」
「そうか。刃物が必要なら顔を見せろと言っておけ、そのくらいの縁はある」
「伝えてはおく」
「得物は?」
「あいつは両刃のロングソードだ。といっても、細身で二振り、1000ミリ前後」
「だったら動きを見てからだな、ガーネに任せるか。変更だ、来いと言え」
「わかった、わかった。いずれにしても、これから起きるだろう問題が落ち着いてからな」
「知っているのか?」
「どうなるかは知らない。ただ、俺は鈴ノ宮とそれなりに仲良くしていてな、内情を知っている。だったらそこから、
「そうか」
そうかと、もう一度呟いて。
「……アイツのことは、やっぱり知ることはないんだな」
そんな言葉を、足元に落とした。
「なんだ
「まさか。どうであれ、あいつはそういうヤツだ。俺やお前が知っている、それでいいんだろう。それとも、双海は感謝でもしてるのか?」
「それこそ冗談だろ」
「名前のない女のことは、スノウから聞いたが、存在そのものは掴んでいない」
「それでいい。仮に掴めたのなら、それは、案内板を見つけた証拠でもある。エルムや、それこそ
「駒として、そっちに行くつもりはないな」
「駒、か」
「あんたは違ったのか?」
「さあな。少なくとも、動き回って仕事をするようなことはない。俺はただ、刃物を創っていただけだ」
「そうかい。ただ――駒としてでも、知らないで済まそうとは思っちゃいねえ。野雨が騒がしいなら、それなりに動く」
「そうしておけ。俺も、見届ける必要がある」
「何かあったら連絡しろ、護衛って名目くらいはできそうだ」
「――だとして」
ふいに、思いついたかのよう、エミリオンが問う。
「お前はその先に、何を求める」
「わからん。早めに継承者を作っておいて、暇を潰しながら――その継承者が俺と越える機会まで、だましだまし生きるくらいなもんだ」
「そうか」
ベルは無茶をしている。
片腕、片目、それだけじゃない。普通の人間が魔術回路を譲渡されたり、魔術品を移植されたり――そんなの、壊れるに決まっているじゃないか。
隠してはいるが、一日に一度は必ず、ベルは激痛で呼吸が止まることがある。まだ生きているんだから充分だと思ってはいるが、当たり前の人間が耐えられる代物ではない。
それが、ベルの人生だ。
「簡単に死ぬなよ、ベル。最後の花火を、今か今かと待つくらいが丁度良い」
「俺はともかく、お前も無茶は控えるんだな」
「お前に頼まれた仕事は、早くしなくても良さそうだ」
「言ってろ」
その翌日、ベルたちは認定試験を受ける。三日間続いたその、三日目の日付が変わる頃。
鷺ノ宮事件は起きる。
ただしその内容はまだ、少し先だ。
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