第三話『自身を機械化させる程のコミュ障』
「良かったら手伝おうか?」
「え?」
そう謎の声がかかり、ネフリスは振り返った。
そこに居たのは……五人の集団だった。
「誰ですか?」
どうやら、ネフリスに声を掛けてきたのは中心の黒髪の男の様だ。
咄嗟にネフリスは名を尋ねた。
「ああ済まない。俺はアサナト・レイミン。こいつらは俺の仲間で、全員鉄ランク」
そう言うと、彼らは首に掛けられた鉄のタグをちらつかせた。
五人が五人、言う通り全員鉄ランク。
ネフリスより一ランク上の冒険者。
六段階ある内の五段階目。
『銅ランク→鉄ランク→銀ランク・・・』の内の鉄ランク。自分よりも実績を積んだ、初心者を抜け出した冒険者。
言う通りパーティだ。
だがその中には、子供の様な少女だっている。
「で、聞くが君。見る限り初心者なんだろ?俺たちのパーティーに入って、クエストを一緒にやらないか?報酬も分け与える」
そう言う彼。
聞く限りでは信用は出来なくも無い。
しかも、何故かご自慢の人見知りが発動しない。
考える価値はありそうだ。
「……ちょっと、皆さんの役職と名前、役回りを教えてください」
ネフリスは、パーティ全員の名前や役職と役回りを念入りに聞いた。
そして分かった事を頭の中で整理した。
先ずは前衛に位置する人達。
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『前衛』
〈アサナト・レイミン〉
黒髪。葵色の瞳。成人男性。
役職は武闘家兼パーティリーダー。
一応魔法も使えるらしい。
〈エセウナ・ローレッジ〉
白髪ロング。紫色の瞳。成人女性。
役職は剣士と魔法を併用した、魔法剣士。
前衛と後衛を移動できる。
〈イェネオス・アーサイド〉
茶髪。黒色の瞳。成人男性。筋肉質。
役職は戦士兼商人。
盾や鎧を用いた戦闘スタイルを取り、最前線にて敵のヘイトを買う役回り。
前衛は二人+αらしい。
そして、後衛。
__________________________________________________
『後衛』
〈ナミア・レフィナード〉
金髪ロング。エメラルド色の瞳。成人女性。
役職は魔導師。
〈シリアン・フィスィ〉
金髪。桃色の瞳。十二歳ぐらいの少女。
役職は魔導師兼、癒しキャラ??
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……という訳らしい。
シリアンという少女だけ何故鉄ランクを取れたかが分からない……が直ぐに分からせられた。静かく立ち昇る清廉なる魔力で分かる。
かなりの実力者だと。
取り敢えずこれを踏まえて、僕は了承の意味で名を名乗る。
「僕はネフリス・フェンリシス。役職は剣士ですが出来るなら後衛にして下さい」
前衛を担う筈の剣士なのに本人は後衛希望。
そうネフリスが矛盾した言葉を言うが、彼達の口からは理由を聞く言葉は出てこなかった。
銅ランクだから腕に自信が無いんだろう、と察せられた様に感じた。
「了解ネフリス。という事は俺たちのパーティに入ると言う事で良いのか?」
「はい。それで異議なしです」
「じゃあパーティ登録を済ませましょう?」
そう魔導師のナミアが良い、そのまま受付嬢の手続きでパーティ登録を済ませた。
♢
……で。
ここからが本題。
あの人達に僕の能力を教えるかどうか。
教えるべきか否か……うん。
迷う。
だって教えたら腫れ物扱いされてパーティから追放されそうだし……。
かと言って教えずに行ったとして、万が一僕の能力がバレた時に「何で最初に言わなかったんだ」と反感を食らってこれまた追放されてしまいそう……。
ネフリスの頭の中を渦巻く被害妄想の数々。
取り敢えず、今現在の仲間の位置を半目で確認した。
全員クエストボードの前でクエストを吟味している。
(くうっ……!)
僕はもがく様に、テーブルに頭を擦り付ける。
行けない。
もどかしい、けど決めなければいけない。
だが、持ち前のコミュ症と被害妄想を発揮して、悪い方向への想像しか出来ない。
次々と浮かぶネガティブな感情。
怖い。
追放されたらどうしよう。
あああぁ……!!!
そこでネフリスは、自分の脳内をまっさらに消去した。
全て。何も思い浮かばない様に。
無です。無。
ネフリスは、無我の境地へと至った。
意識なんてとっくのとうに消え失せた。
ガタッ……。
機械的に腰を上げ、ブリキの様に仲間の元へと歩み寄り。
「ボク……時ヲ止メラレルンデス」
そのままコンピュータの様に暴露した。
♢
そして、今は。
「時を止められるが一.五秒だけ。その後激しく疲労か……どうだナミア。上手く使えそうか?」
「ええそうね。それならーーーー」
ネフリスの能力について仲間達が入念に使える作戦を立てている。
「それならばこれが良い」「いや。もっと良い使い方が……」などの論争を繰り広げている。
そして、それを暴露した当の本人は。
「あ、あ。ハハハ。ぁぁぁああ……」
と小声で赤面しながら呟いている。
しかも大粒の涙を流しながら、最高級の被害妄想で己の頭を支配していた。
それが、五分間続いた。
他の冒険者の口からは「ヤベェよあいつら」「真正面で泣きじゃくってるガキがいるのに無視してやがる。どんな胆力してるんだか」と引き気味のコメントが飛ばされる。
そして、やっとその地獄からネフリスは戻される事になる。
「……それが一番良いな。ネフリス、お前の役回りが決まったぞ」
パーティリーダーのアサナトだ。
「……ふぇ?」
ネフリスは泣きすぎて充血した目を見開き、掠れた声で答えた。
真面目にネフリスを見つめる仲間全員。
……どうやら、ネフリスの立ち位置が決まった様だ。
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