第七十話『僕は放浪の身』

 

 そして、朝。


 日はすっかり上り、朝の匂いを伝えてきている。


 これも、一時の戦いが終わった、という証左なのだろう。


 そんな朝の日差しを浴びながら、僕はゆったりと駄弁っている。


 セリアの村にある、小さな公園のベンチの上で木漏れ日を浴びながら。


 少しずつ暖かくなってきたな、とか思っていた、そんな時。


 まあまあ聞き慣れた少女の声が入ってきた。


「姉ちゃーん!また公園使わせて貰うねー!」


 背後から。


 返答の来ない宣告を告げ、僕の背中で騒ぐ少女がいる。


 ……少年?少女?まあどうでも良い。


 それは、真っ先に僕の座っているベンチを横切るや否や、


「さぁて……今日も修行修行ーーってうわぁっ!……師匠!?なんでこんな所に!?」


 疑う様に目を擦り、僕を懐疑的な目で見つめてきた。


 この少女は。



 ……いや、この弟子は、アンビ・リワーズ。



 登場初期、自分を『男』だと偽っていた、正真正銘の『少女』だ。


 そんな少女に、僕は軽く手を振り、


「お早う、我が弟子……アンビ・リワーズ君?」


 と、ちょっと紳士の様に挨拶をしてみた。


 すると、アンビはぎこちなく頭を数回上げ下げしながら、


「お早うございます!……って言うか、なんでここに?まだ帰ってくるのは早い筈じゃ?」


「ああ、それはーー」


 と、答え切る前に。


 ドン、と。


 扉を勢い良く開け「アンビーー!どうしたの!」と、叫びながら宿屋から出て来る女性も居た。


 大方、さっきのアンビの叫び声を聞いて飛び出してきたんだろう。


 ああ、そうだ、そうだ。あの子の紹介もだったね。


 あの、すっごい土煙を撒き散らしながらこっちに向かって来る女性。


 あれが、セリア・アリーシャ。


 僕が、この世界に降り立って始めて出会った、第一村人。


 さっきの少女、アンビ・リワーズを拾った張本人でーー。


 ここらでやめておこう。


 とまあ、兎に角。



 ……色々と収束が付かなくなってきたので、ここで説明してやることにしようか。




 ♦︎



 睡眠不足で、目を擦るガレーシャ。


 後ろの公園で遊んでいるモイラ。


 そして、ベンチに座っているアンビとセリア。


 騒ぎ立てていた二人を抑えた僕は説明中。


 今までの軌跡をね。


 主に、メイゼラビアン王国に至ってからのことだね。


 まあ古代兵器の辺りとか王族と出会った事とかは、流石に虚偽を含めたけど。


 流石に、世界を破壊する兵器ぶっ壊して来ました〜。


 とか、王族達と仲良くなりました〜。



 ……とか、死んでも言えないからね。



 と言うわけで、僕はこう説明した。


「普通に古代遺跡は攻略出来たけど、宝物とかは手に入らなくてね……代わりに、あの特産品だけが詰まっちゃってね」


 それにセリアは激しく頷き、


「……ああ!宿屋に、知らない物資が沢山あったので爆弾とか思ってましたが、あれ、フトゥールムさん達が持ってきた特産品なんですね」


 続き、アンビは不思議そうな声を上げる。


「だとしても師匠、それだと予定よりも早く帰って来た理由が分からないけど」


「ああ、それはーー」


 ……と、これは隠さず言うべきなのかなぁ。


 大陸を跨ぐ程の転移魔法使って来ました、とかはギリギリラインか。


 ちょっと横であくびしているガレーシャに聞いてみる事にしよう。


 小声で。


「ってガレーシャ。転移魔法使ってきた事は言わない方が良いかな?」


 と、ガレーシャはあくびをしながら、


「ふわぁー……確かに、言わない方が良いのかも知れませんね。多分、セリアさん達が驚き死んでしまいますし」


 ……だよね。


 僕もそれに賛成するとして。


 ポーカーフェイスを浮かべながら、二人に説明した。


「ああ、僕達が予定以上に早く帰って来たのは……それ以上に重要な予定があるからだ」


「重要な予定ですか?」


「なにそれ?」


 セリア、アンビと決められた運命を辿る様に、二人は首を傾げる。


 と、ここまでは良いのだが。


「え、重要な予定?」


 何故か、それを知っている筈のガレーシャも、意外そうに声を上げてしまった。


 だから当然、


「……え?ガレーシャさんは知ってるんじゃ無いですか?」


 セリアに気付かれる。


 そこで、やっとガレーシャは過ちに気付いたのは、ぎこちなく笑って遮り。


「いや、まあ……ははは」


 ……確かに、ガレーシャには何も言ってなかったけど、そこは空気読んで欲しかったなぁ。


 少しくらいは機転の利く子に育って欲しかった。


 そして、もっと更にボロが出そうになったガレーシャを、僕は咳払いで咄嗟にフォロー。


「……ゴッホン。とにかく、僕達は直ぐに首都リリアンへ向かうから」


「え?もうですか?」

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