第三十話『イエロウズ・タワーの秘密』
イエロウズ・タワー。
499.999.987年に建てられたとされる、この空間で一番高い建物の様だ。看板を見る限り。
そして、その看板には『お陰様で三十周年!皆様の応援のおかげです!』と書いてあるところを見ると、今は五億年と十七年の年らしい。
……未だこの空間が五億年続いている実感が湧かない、その上に、なにかドロッとした気配を感じる。
その正体は分からない。でも「行かない」と決め込んだとしても見てみない事には偏見として捉われてしまうからね。
だから僕達は、イエロウズ・タワーの門を通ってみた。
♦︎
待ち構えていたのは魔族に魔族。そして魔族。
魔族しか居ないのは当たり前の事だけど……少し僕達に向けての視線が痛かったりもする。
蔑みや、排他的な視線ではない。
魔族達の目には大スターを目の前にしてはしゃぐファンの様な……そんな感情が垣間見える。
やはり、人間というのは珍しいのだろうね。
僕は暑苦しい視線を感じつつ、タワー内の解析に移ってみた。
まず目についたのは所々に散りばめられた露店かな。
ショッピングモールの様な感じで、合間も無いくらい色々な店が立ち並んでいる。
上を見上げると天井。でも、見上げる程には高い天井だね。
僕達の左横辺りにはエレベーターがある。これで上へ上がる様だ。
科学力は、今のリアン王国と比べても結構進んでいる……けど。
やっぱり、五億年経ってる様に見えない。良くて約二千年位経った文明の技術力だよ。この発展具合は。
……まあ、技術や文明が一番集結しているであろうイエロウズ・タワーなら、まだ何かあるかもだから、期待はしておくけど。
そんな訳で僕は気を引き締める様に言った。
「よし、探索開始だ。証拠を探そう」
「了解!」
そして、僕等は探索を開始した。
♦︎
ーーーでは、探索結果を言おう。
……いや、その前にこのイエロウズ・タワーの階層について説明しようか。
このタワーの階層は六十二階層。主に三つのエリアで構成されていた。
一つ目は、一階から三十階までが市民に無料で解放されている商業エリア。
二つ目は、三十一階から五十階までが宿泊エリア。
そして最後の三つ目は、五十一階から六十二階からは、一般公開されていない謎のエリア。
では、それを踏まえて五十階まで探索してみての結果を言おう。
ーーーー結果は『何もなし』
そう。何もなかった。ただ一つとして、魔族達が機械的になった証拠は無かったんだよ。
……半日もの時間を費やしても尚、何も得られるものは何も無かった。
魔族達の日常には、その立証足り得る、確固たる証拠が無いのは……時間を無駄にして、身に染みて理解したよ。
なら、調べるべきは……。
「この先、関係者以外立入禁止……ここしか無いだろうね」
五十階の端っこに存在する、非常階段への扉にデカデカと貼られた『立入禁止』の壁紙。
それを見てガレーシャは、
「……行きましょう」
彼女は覚悟を決めた様で、即答した。モイラもそうだ。
普通に「不法侵入します」宣言をしているけど僕は頷いて、進入禁止とか言う壁紙を無視してドアノブに手を掛けた。
そしてひね……れない。
「やっぱり、鍵かかってるよね」
当然の事だよねー。鍵が掛かってるのは。
……でも、こっちには魔法がある。
それは鍵開錠魔法。……難易度が以上に高いくせにパッとしない魔法だ。
だけど、こう言う場面ではその真価を発揮する。
僕が魔法を発動してから僅か数秒足らず。
たったそれだけで、この鍵の開錠に成功。
ガチャリ、という音と共に、その扉は開けられた。
「……開錠成功。行こうか」
彼女達も頷き、扉の先へと足を進めた。
ーーーさて、違法捜査の始まりだ。
♦︎
五十一階。
……と、される所に僕達はいる。
でも。
「なんですか……この空間は……?」
そんなガレーシャの声からしても、この空間が異質なのは、火を見るより明らかなんだ。
だって『広過ぎる』から。
確認すると、ここはイエロウズ・タワーの中。
僕達が『立入禁止』と書かれた扉の先にあった階段を登った所を見ると、それは確実に証明できる。
でも、階段の最後にあった扉を開けると、そこにはビルには入りきれない程広大なエントランスがあった。
魔族達は誰一人としていなかった……だが、それが更に不気味さを感じさせるのは何故だろうか。
空気が詰まる程に人気が失われたエントランス。
それなのに、汚れが全く無い赤いカーペットや、白亜の壁。
隅々まで手入れされていて、最近まで人がいた形跡もある。
だけども、人が居ない。気配すらない。
あるのは、赤白で構成されたエントランス。
……それも、このタワーに入りきらないほどに巨大な間取り。
天井も異常に高く、横幅も大きい。僕達がありんこだと錯覚するくらいの巨大さだ。
この空間をタワーに、外見を変えずに収めている技術は、恐らく魔法に依るものか、事象操作によるものだろう。
でもそれ以上は、魔力反応に依る感知ではなく、もっと高度な魔法やらで解析を重ねないと断定はできない。
つまり、かなり高度な技術でこの空間は形成されている。
僕は軽く笑う。
ーーーやっと、古代遺跡らしくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます