第二十話『扱い辛い二人』

 

 僕達は、横二メートル位の通路を滑り降り中だ。


 僕はガレーシャを抱えて滑り、横には楽しそうにはしゃいでいるモイラがいる。


 本当に、万年精神年齢女子高生なんだから。


 そして僕達はそこを滑り降り切って、ガレーシャを立たせる。


 ガレーシャの口から掠れた悲鳴の様な物が聞こえた気がしたけど、気にしない。


 僕達には、確認することがあるから。


 ここは、以前見た未来視の最終到達点の奥だ。


 つまり、僕の未来視が途絶えたポイント。


 だから下見として、実験として、僕は使ってみた。未来視を。


 多少手や体の調子を確認し、僕は眼を光らせた。


 左眼が煌き、その力を発揮させる……と思いきや。


「……っ!?」


 ブチッ、という音が頭の中に鳴り響き、切る様な頭痛がして……僕の能力は、何の未来も視せずに霧散した。


 左眼の光は消え、その目にはただただ普通の光景が映る。通常の左眼の視界だ。


 つまり、僕の満目蕭条ノ眼ボーダムアイは、何の未来も映さずに、何らかの妨害によって中断されたという事だ。


 僕の眼は記憶上、妨害や障害無しに未来を映し出せなかった事は無い。だからこれは自然に妨害か障害によるものと推測できる。


 そしてモイラも、神眼を使って見ようとしているが……。


「……ダメだぁ。前と比べて全然見えない」


 モイラも通路の壁の材質とかを調べようとしていた様だけど、そんなに見えない様で、目を擦っている。


 完全に見えない訳では無い様だが、かなり機能が制限されている様だ。


 それを確認した瞬間に、モイラから長い息が漏れ出ているのを感じた。


 何か心当たりがあるのだろうか。


「モイラ、この現象について心当たりとかあるの?」


 なので僕はモイラに聞いてみた。腐っても創造神だから何か知ってそうだし。


 そして、モイラは分からないの?みたいにあざとく僕を一瞬見て、言った。


「事象操作の影響だよ。恐らく古代兵器が発動した強力な事象操作だと思う」


 そのモイラの言葉に、僕は感心するように呟く。


「ただ一世界の古代兵器でこんなにも僕達の力を抑制するとは……結構凄いね」


 僕はガレーシャの事など知らずに、古代兵器の力について考え込んでいた。


 そして案の定、ガレーシャから声が掛かって来た。


「あのー。何言ってるか全然分からないんですが……」


「ああ。気にしなくて良いよ。こっちの話だからね」


 僕は困惑しているガレーシャをなだめる様にして、忘れてもらえるように流した。


 そして、ガレーシャと話している僕の間に入り込むように、モイラは言う。


「あ……そうだ!」


 モイラはガレーシャの肩を軽く叩き、話しかけた。


 どうやら目標はガレーシャの様なので、部外者の僕は下がってその様子を観察する。


「え……何ですか?」

 ガレーシャはモイラからの突然のコンタクトに困惑の意を示した。


 まあ、これが初対面なので仕方ないのだろうね。


 しかも、創造神だよ?


 そして、その創造神様からの第一声が、


「ガレーシャちゃんだっけ?」

 ただ名前を聞いて来ただけだった。


 まあ、双方の情報交換は大事だしね。


 だけど、創造神の第一声が名前を呼ぶだけだと、肩透かしを食らった様に白けてしまうのは仕方がないね。


 数秒置いた後にガレーシャは、


「何で名前を……って神眼ですか」


 ガレーシャは、自分の名前を知られていることに驚いたが、直ぐに創造神の力だと納得した。その透き通る瞳を見た所為でもあるのかな。


 やっぱり、モイラ=創造神と言う事を、深く頭に刷り込み過ぎている様だね。


 後で矯正は必要そうだけど、この世界の人々からしたら当たり前だし、本当の事だから仕方ないね。


 そして、モイラは無垢なる笑顔で、


「私、ユトのパーティーに入る事になったから、宜しくね」


 そこで僕は聞き捨てられない言葉が入り混じっていた事に言葉をあげた。


「あれ、僕そんな事許可したっけ?」


 そんな僕の困惑に困惑を重ね、モイラは言った。


「え!?私が来る前に言ったあれって、仲間に加わって良いって物じゃないの!?」


 モイラは頭の上にハテナマークが出てきそうな顔で僕を見た。


「まあ大丈夫だけど」

 そんな僕の言葉にモイラは早く、深く礼をして言った。


「有難う御座いますユト様!」

 変なテンションを見せるモイラに僕は無意識に溜息をつく。


 はあ……と。


 そしてモイラは素早くガレーシャの方へ振り返り、さっきのやり取りなどなかったかの様に、


「私はモイラ・クロスティー。モイラって呼んでね!」

 テンションの上がり下がりが激しいモイラにガレーシャは一瞬疑問を示したが、モイラの差し出した手を取り、


「……あ。宜しくお願いします!モイラさん!」


 そして同じ仲間と冒険者候補を見つけたガレーシャは目をキラキラさせながら笑った。


 僕はその様子を見て、無意識の内に頭に手を当ててしまった。


(扱い辛い二人が入ってしまったね。って……ん?)


 僕は謎の気配を察知した。モイラも感知した。



 ーーーーその瞬間、狭苦しい通路の壁が無残に吹き飛ばされた。


 そして残ったのは……広大な草原だった。


「あれまぁ……綺麗な草原だぁ」


 モイラもふざける位の綺麗さの様だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る