J582要塞エリア攻略戦

 敵防衛ラインを破壊するべく、出撃を開始する。

 御統のプレイアデス隊はすべて鏖龍を配備。


 五行重工業は可変機シェイプシフター零式の後継機、一一式を短期間で構築。愛称は颶風ぐふう。この新型可変機を大量に生産して配備までこぎ着けた。爆轟駆動対応だが金属水素貯蔵庫式で、量産性を優先した機体だった。


 ファミリアには朱電スデン。レッドスプライトを参考にして、大気圏再突入能力は無くしたが、航続能力を上げている。シルエットを搭載して飛行は可能だが、アナライズアーマーとしての機能は有していない。


 構築担当は御統重工業と五行重工業とも関係が深く、BAS社と提携していた新甲子しんこうし工業だ。五行重工業のプロジェクト十色計画の一部も引き継いおり、二式航空艇をより輸送に特化した後継機澄空ちょうくうも新甲子工業が担当だ。


「敵は籠城戦。陸軍アーミーと名乗るだけあって、陸上戦力は豊富ですね」


 クルトが敵兵器を分析する。

 新型戦車はアルゴアーミーに配備されていたようだ。新型のシルエットも確認できる。


「採掘場を兼ねている要塞ドームだ。地盤が崩れる可能性もある。幸いコウ君はドリル兵器のスペシャリストだ。ドリル編隊も借りてきたよ」


 アシア大戦時に開発された地中用戦闘機兵器。ドリル戦車と地上地中両対応のドリル特化シルエットであるアダックスだ。今回は坑道崩落事故対策に用意した。旧式機だが、存分に活躍できるだろう。


「我々にも主力戦車がもう少し欲しいところでしたね」


 現状、ヒヨウに搭載している車両のみ。200輌は搭載しているが、敵の数はその数倍はある。


「そのかわり制空権はこちらが支配している。まずは外周を丸裸にしてやろう」

「そのあとは大砲鳥部隊の出番ですね。彼らのために大砲鳥カノーネンフォーゲルドライを構築しました。要塞エリアのなかでも猛威を振るうでしょう」


 カノーネンフォーゲルドライは大砲鳥をもとに再構築した重攻撃機。簡易型のLDライフルからDライフル砲身二門に交換。120ミリレールガンを一基搭載しており、ミサイルマックスクレイマー対空ミサイルも六発に増発した。

 戦車を殺すために生まれてきたような攻撃機になったのだ。

 

「敵も最初は要塞エリア外周に配置しています。あとは戦線を下げて籠城でしょう。ここまでは予想通りです」

「我々は外周の防衛ラインを掃討語、要塞エリア内に侵入。坑道を抜け、封印区画へ駆け抜けたいところだが、坑道に戦車を配置するかだな」

「封印区画も坑道もシルエットサイズです。必要であれば防衛のために配置するでしょう。アルゴアーミーの本気度が問われますね」


 アルゴアーミーの布陣を見る。シェルターの外側まで、おそらくA009要塞エリアよりも強固な布陣となっている。この地域は広大なパイロクロア大陸の一角に過ぎないが、J582要塞エリアを失えば北東方面の支配を喪失する。

 レアメタル資源などを考慮すれば、象徴ともいえるA009要塞エリアよりも重要な地域かもしれない。

 ストーンズ側についた勢力が多いという特徴もある。彼らはストーンズの軍備を背景にに建国を狙っている。


「我々もこの要塞エリア攻略にはアレオパゴス評議会や南極攻略部隊と匹敵する戦力を投入している。投入される構築技士資格保有者にいたっては最大だ。これでアシアを救出できなかったら言い訳もできんよ」


 地上戦力はJ006要塞エリアから向かっているが、数時間は必要だ。

 J582要塞エリア攻防戦が始まろうとしていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「第一戦から微速に切り替え。低空飛行に移行する。アイギスをもとに、防空網を形成せよ」


 ヒヨウ艦長のジョーが部隊に命じる。

 シルエットサイズの小型ドーム状の施設が無数に点在している。


「トーチカですか。ヴァーシャの薫陶を受けた者でしょうか」


 背後にそびえ立つ山岳からも敵の大型のミサイルが撃ち込まれるが、アイギスによる防空網によって阻まれる。


「対艦戦を想定していますね」


 P336要塞エリアを狙った空中空母は、シルエットベースの防衛網に配備された無数のミサイルによって迎撃されている。

 戦闘用の宇宙艦には有効打にはなりにくいが、要塞エリアからウィスを通した有線ミサイル。無傷というわけにはいかない。


「対艦ミサイルの数が多い。これは全弾被弾するわけにもいかない」


 クルトとキヌカワの間に緊迫した会話が流れる。

 敵防衛網は想定を遥かに上回るものだった。対艦攻撃用のミサイルが連続してヒヨウを狙うが、アイギスにサポートされた戦闘機が迎撃している。


 可変機部隊や攻撃機部隊はトーチカや防空部隊の排除が優先目標だ。

 ドーベルマン型のファミリアから報告が入る。


「厄介だな。新型の超重戦車と対空砲装備のシルエットが連携していやがる」


 プレイアデス隊も防空部隊の排除に回らねばならない。森林地系を利用して、対空部隊が戦闘機を狙っているのだ。

 

「くっ」


 見ている傍から新型の颶風も撃ち落とされる。両肩に対空型レールガンを装備した敵シルエットにやられたのだ。

 対空装備のシルエットは即座に森林に逃走する。


 追跡すると、物陰に隠れて砲弾を撃ち込まれるのだ。


「レーダー対策でダミーを用意している。注意せよ!」


 前線のパイロットが味方に指示する。ステルスは諦め、無数のダミーを配置することでレーダー網を攪乱しているのだ。


「超重戦車もあるな。盾代わりか」

「シルエットサイズの塹壕も用意してあるぞ!」


 報告が飛び交う。


「シルエットでのゲリラ戦術か。厄介だな」

「アルゴアーミーは、アシア大戦を教訓にしているようですね」


 キヌカワとクルトも最前線にいる。

 アルゴアーミーの司令官はアシア大戦を研究している。戦術的に、根本から違うのだ。


「今回のアシア解放。アルゴナウタイ全軍がこの練度なら、一筋縄ではいきませんね」

「ここまでの練度とは思わなかった。侮りすぎたか」

「彼らとて戦士。学んだ者はいるのですよ」


 今回は同時作戦。クルトとキヌカワは知る由もなかったが、練度という面ではアルゴアーミーが群を抜いていた。

 A009要塞エリアのアレオパゴス評議会は同士討ちを初めており、T341要塞エリアにいたっては宇宙艦で逃走したのだ。

 

「それでもだ。もとより戦争とは防衛側が有利。我らは技術的優位な新兵器も多数保有している。戦力的に劣っているわけではない」

「私達の目標は封印区画への潜入。邪魔する敵を殲滅することではありません。突破口さえ開ければ」

「簡単には通してくれなさそうだ」


 会話しながらもフラフナグズは防空部隊の敵シルエットを両断した。

 敵シルエットは適度に散開して距離を取る。高性能アサルトシルエットに対する、防衛側の布陣だ。

 主兵装は大口径のレールガン。連続被弾していい代物ではない。


「倒しがいがあるってもんさぁ!」

「おうよ!」


 アナライズアーマーのアヤメを操縦するハイノがDライフルで敵を攻撃して、ハバキリを駆るヤスユキが斬る。

 不可能と思われたシルエットパイロットとファミリアの二人羽織をキヌカワは完成させていたのだ。


「キヌカワ。これはまた類を見ないシルエットを構築しましたね」


 思わずクルトが尋ねるほどだ。

 ハイノの援護によってヤスユキのハバキリは斬撃に専念できる。


「少しコツがあってね。アヤメが攻撃モードに突入したら、ハイノが載っている主機体はわずかに分離しているのですよ」


 よくみると、稼働状態だけアヤメが若干ハバキリから離れている。鯉口を切ったような僅かな隙間しかない。


「接続されているように見えてアヤメは分離しているということですか」

「試行錯誤中はケリーには色々言われたがね。爆轟機構解放で目処がついた。アナライズアーマー部分とは接続しているから、完全分離とはいえない。これも一種の裏仕様だろうね」

「普及すれば、これは……」

「難しいな。アヤメも金属水素生成炉を採用してようやくですよ」


 渋い顔をするキヌカワ。本来なら普及させたいところだが、コストがそれを許さなかった。鏖龍の総数八機は生産コスト的にも限界であった。

 それならそのコストを割いて颶風を大量に製造したほうが良い。


「コストですか。それなら仕方ありません」


 クルトは些細な問題だと信じている。

 金属水素貯蔵型でも実現可能になるかもしれない。ファミリアやセリアンスロープは文字通り一心同体で戦えるのだ。


「キヌカワさんよぉ! この新型戦車とシルエットの組み合わせは厄介だぜ」

「あいつら、後退しながら間接攻撃もきっちり加えてきやがる」


 ハイノとヤスユキが苛立っている。

 アルゴアーミーは戦闘機こそないが、対空追加装甲を施したシルエットや榴弾砲を装備したシルエットを潤沢に配備していた。


「深追いすると囲まれるな。防衛戦術の基本だ。絨毯爆撃をするには範囲が広すぎるか」

 

 大きく破損した戦車やシルエットは後退している補修に向かったのだろう。


 ヒヨウ艦長のジョーから連絡が入る。


「敵の司令官は転移者ですね。用兵があまりにも半神半人と違いすぎます。半神半人の組織が転移者を起用するとは。ヘルメスの息がかかった者に違いないでしょう」

「そうだろうね」


 キヌカワも苦虫をかみ潰したかのような表情で、認める。シルエットによる間接攻撃を採用した敵など、ヴァーシャぐらいだ。


「このままではらちが明かない。どうするか」


 ヒヨウ艦長のジョーもまた、この状況に焦燥感を隠しきれなかった。

 

 

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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。


本年は読者の皆様には大変お世話になりました! 来年も定期的に更新できるように頑張ります!

本当に今年は色々ありましたね。図らずも再出発の年となりましたが、変わらぬご愛読をよろしくお願いします。


J582要塞エリア攻略戦。航空機が得意なクルトと衣川コンビによる突入作戦です。制空権支配はお手の物。


しかし今回の敵は今までにないパターン。一筋縄とはいきません。

アシア救出作戦の地上作戦においては、ある意味最大の激戦区かもしれませんね。

構築技士二人にとっては貧乏くじ。クルトさんは幸運のパラメータが低い疑惑があります。


屠龍の機構については予想されていた読者の方もいました。

裏仕様じみた機構ですが、アナライズアーマーでドリル系巨大兵装という例もあります。あれは大型重機系でしたが、今回は純戦闘用です。

アヤメは分離すれば戦闘機にもなります。推力はハバキリを上に載せて飛べる、贅沢仕様です。ドラゴンスレイヤーの完成形です。


敵は新型戦車、新型超重戦車、新型シルエットと従来のシルエットや戦車など、掻き集めたような戦力です。

トライレームと殴り合う覚悟を決めています。


今回の戦場も気合いを入れて執筆中です。年明けの次回予告を。次回は敵指揮官も初登場。

新たな、正統派の強敵です。期待してお待ちください! それでは皆様よいお年を!


来年も応援よろしくお願いします!

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