挽回か贖罪か

 タキアン大陸のT341要塞エリアには、強襲型移動基地艦キモンと多くの強襲揚陸艦が併走している。アシア救出作戦ではもっとも戦力が薄い。

 地域的にはタキアン大陸の南方に位置し、諸島が連なる地域だ。


「こちらトライレーム総司令バリー。協力に感謝する」

「こちらは大陸内部に巣くっているマーダーを排除します」

「ありがたい。内部への突入は少し待ってくれ。合図はそうだな。見たらわかるレベルの攻撃が始まる。すぐに飛び込むと危険だぞ」

「アシア大戦での大量破壊兵器ですか? いえ。今は問いますまい。了解いたしました。バリー総司令」


 画面の向こう側にいる男が敬礼し、バリーも敬礼で返して通信を終える。


「ビッグボスが惑星アシア中に檄を飛ばしてくれたおかげで、紛争中の要塞エリア同士も当面の敵はストーンズとして参戦してくれる。かなり楽になるな」


 彼らは内陸部からマーダーと交戦中だ。現行シルエットはマンティス型すら敵ではないとはいえ、数が多い。

 大量のマーダーを請け負ってくれるだけでも消耗はまったく違う。


「タキアン大陸はただでさえ戦乱の大地。もっとも厄介なアルゴフォースは共通の敵ではあります。このタイミングで潰しておきたいのでしょう」


 オペレーターであるネレイスの少女が苦笑する。現金なものとは思うが、立ち上がらないよりはよほど好感がもてる。


「パイロクロア大陸も相当数の要塞エリアや防衛ドームの兵力が助力してくれることになったそうだ。惑星アシアの人類が一丸になる。それがたとえひとときでも、重要だな」


 内心では大した策士に成長したとコウの成長を喜ぶバリーだった。とはいえコウにいわせれば心理的駆け引きは戦場の常なので、そう変なことはしていないと言い張る。


「偵察機アウル・アイから索敵情報を受信。私達も負けていられないわね。ルーサント部隊、出るわ」


 高高度偵察機アウル・アイは作戦開始直後から情報収集に出ている。次はジェニーたち制空部隊の出番だ。


 新型可変機のルーサントが配備に間に合った。ケリーがジェニーのために構築した、速度と美観、なにより戦闘力を追求した機体だ。


 装甲筋肉などの技術は採用していないが、爆轟駆動による高機動と運動性能が両立可能となった。推力頼りの面もあるが、そこはケリー。航空機としての完成度も高めてある。

 武装は有線の対空/対地ミサイルと、Dライフル機構を用いた連射型のDマシンキャノン。


 液体金属の体積を減らし、連射型にしたものだ。切り替え式で通常のDライフルとしても運用可能という点でも、Dライフル兵装においては上位機種に相当する。


 要撃として出撃したコールシゥン編隊を瞬く間に撃破し、制空権を支配するルーサント部隊。


「いくぞ。一気に上陸だ!」


 バリーの号令により、キモンを先頭に浜辺を目指すトライレーム編隊。航空支援は盤石の状態だ。


「ラニウスC部隊、出撃する!」


 ファミリアによって選抜されたパイロットが駆るラニウスC部隊が、揚陸前に海上を飛翔して上陸を目指す。

 数を揃える高性能機としてはラニウスCは非常に使い勝手が良かった。アシア大戦での活躍もあり、長きに渡るコウとヒョウエの愛機。トライレーム所属傭兵たちはシンボルとしてラニウスCを目指していた。フッケバイン系統と違い手に届く価格帯でもあったからだ。

 

 海上を飛翔するラニウスC部隊は、エイバー1やバイソンといった敵の湾岸警備部隊と交戦を開始する。


「ずいぶんと旧式機だな。罠じゃないのか」

「タキアン大陸は要塞エリア同士の衝突が激しい場所です。アシアを封印している要塞エリアとしては潤沢な装備ですが、他大陸の封印地の防衛隊と比較しても質は低めでしょう。パイロクロア大陸ほど侵攻は激しくありませんからね」

「立地に恵まれていたな。比較的小さな大陸に、諸島に囲まれマーダーが苦手とする地形が多かった。ストーンズもアシアと周辺の要塞エリアだけを制圧して放置している」

「重要軍事鉱物のレニウムも、ストーンズ側に与した要塞エリアから入手も可能でした。無理をして奪取する意味は薄かったと思われます。アシアが封印されている要塞エリアが存在しないイルメナイト大陸など、主要拠点制圧後は放置に近いですから」


 セリアンスロープの少女がバリーと大陸の状況を話し合う。


「それにエイバー1やバイソンもアシア大戦中に運用されていた兵器ですよ。旧式機扱いは危険かと」

「そういやそうだったな。ビッグボスが近くにいるだけで感覚が狂っちまう」


 コウとA級構築技士たちがあらゆる試作機を作り、技術の日進月歩を見せつけられているバリーにとって、アシア大戦中に導入された兵器は遠い昔のように思えるのだ。

 バイソンは旧ジョン・アームズがベアの後継機として製造していたが、鹵獲されアルゴフォースに採用されたものだ。


「それはいえますね」


 バリーが特段号令を発しなくても、トライレームキモン部隊は順調に作戦行動を遂行中だ。

 タキシネタやブレードスイフト部隊が制空権を握り、そのまま対地支援に移行している。

 アサルトシルエットが沿岸部に上陸して、現在は各強襲揚陸艦から水陸両用の新型機兵戦車ヤヒロが採用されている。陸兵器はウンラン担当だが範囲が広く、地球ではバギーや小型船舶なども手がけていたTAKABAの川影が今作戦用にヤヒロを構築したのだった。

 

 連携しているシルエットはバトルシルエットのウルサス。これこそがゼネラル・アームズが開発したベアの正統後継機であり高い汎用性を誇る。

 ラニウスC型が先行し、バトルシルエットで海岸沿いを襲撃、揚陸部隊が制圧する段取りだ。


「こちらウルサス1。沿岸部の制圧完了」

「了解。これより上陸を開始する!」


 キモン部隊に号令をかけ、随伴する強襲揚陸艦も含めて次々に海岸に乗り上げる。

 ウルサスやラニウスA、主力戦車のファイティングブルA2だ。ファイティングブルの改修機ではあるが、機動力が向上している。

バリーは攻略対象の要塞エリアのなかで、手薄なT341要塞エリアを堅実に制圧するつもりだ。TAKABAの構築技士たちにアシア解放のための時間を稼ぐためだ。


「ストーンズがあまり力を入れていなかったT341要塞エリアに奇策は不要。確実に制圧して他の攻略部隊と合流したいところだ」

 

A009要塞エリアは半神半人が三勢力に別れているらしい。分裂自体はコウの予想通りともいえたが、三勢力に別れたとはバリーにとっても意外ではある。単純に戦力が削がれるからだ。その分A009要塞エリアの攻略部隊は当初の想定よりも優位に進めることができるだろう。


 キモン級のモニタでは岸と砂浜が迫り、陸地に乗り上げた。衝撃はほぼない。


「キモン級。上陸完了」

 

 ネレイスの少女が報告する。


「戦闘基地形態へ移行。後続の強襲揚陸艦の援護を」


 量産された強襲揚陸艦は放棄されたAカーバンクルを採用しているが、現行技術の装甲のため、宇宙艦ほどの防御力はない。

 随伴シルエットとともにファミリアが操縦する火力支援車両が降下する。

 

「爆風の効果は薄いが、こちらにはオウル・アイの目がある。直撃狙いで敵防衛網を削っていけ」


 火力支援車両は200ミリの徹甲榴弾を採用した榴弾砲と、有線ミサイルを備えたATMだ。

 

「バリー総司令。現地の傭兵部隊もT341要塞エリアを攻撃中です。その数300以上で、現在も増え続けています。マーダーと交戦中の模様ですね」

「想像以上に集まったな。こちらの数を確認して慌てて参戦要請もきている。勝ち馬には乗りたいだろうが、今回ばかりは助かるな」

 

 唇の端を歪ませ、笑う。


「トライレームは制圧のみ行い、アシア救出後は要塞エリアは放棄すると宣言しているからな。傭兵たちや要塞エリアの重鎮は目の色を変えているだろうな。俺たちはアシアを取り戻す。それだけだ」


 各要塞エリアや現地のアンダーグラウンド・フォースからも戦後のT341要塞エリアの処遇を確認する連絡は山のようにきている。

 バリーとしてはアシア解放後撤退するからそちらで話し合って欲しいとだけ伝えるのみだ。


「戦果をあげた要塞エリアの傭兵やアンダーグラウンド・フォースが発言権を増すだろう。やはり撒き餌は必要だな」

「大義名分もありますね。我々はアシア救出に手を貸した、と」

「そうだな。惑星アシアの住人は超AIアシアへの負い目がある。少しでも挽回したいと思っている人間は多かっただろう」


 アシア救出。惑星アシア住人の悲願でありながら、動こうとする者はいなかった。

 超AIアシアは惑星運行に専念し、彼らの日常を守っていたにも関わらず、人々は動こうともしなかった。いわば世界の管理者を見捨てたのだ。

 無人の殺戮マシンに逃げ惑い、または自分達が標的にならないように祈るだけだ。


「もしくは贖罪か。行動で示すしかない。立ち上がった者はまだ間に合うさ」


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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。


今回はキモン級とバリーの出番ですね。

戦場ではもっとも抵抗が薄いと予測されていた地点です。


アシア大戦の兵器を型落ちと感じてしまうトライレームはコウのせいです。

ジェニーにも新型ルーサントが用意されました。駆動系に爆轟機能の可変機能が使えることによって多少の重量はごまかせるようになっています。

スペックはタキシネタとも違い盛りすぎなぐらいですね。


傭兵たちの戦力は完全な旧式機です。ベアやエレファント、バイソンなどですね。ですからマーダー相手にも命懸けにはなります。マンティス型もレールガン標準装備ですからね。

ラニウスAやカザーク程度なら流通しています。生産量が違うので、過剰兵器はこのように消化され、新たな火種にもなります。


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