後方師匠面

「崩しとは腕を上げたなコウ。最初は三所避けに近い構えだったから守りに徹するかひやひやだったぜ」

「そんな戦術は一突きで終わるさ。言った通りだったろ」


 後方師匠面をしている兵衛とヤスユキの二人だった。モニタでセレモニーを見ている。

 三所避けは彼らのいた時代、中学剣道では2000年代後半に禁止されている構えだ。


「兵衛さん。コウの勝利を確信していたからな」

「あたりめえよ。もうアシア大戦のコウ君じゃねえ。どんな敵にも即時対応できる余裕がある。死線をくぐりぬけた差ってヤツさ」


 悠然と笑う兵衛。コウの成長にふと孫の姿を重ねてしまう。


「――強敵との場数がな。違うんだよ。コウ君と今のヴァーシャでは埋められない程にな。ヴァーシャのシステマとやらが実戦戦闘術であればあるほど、その差は出るだろうさ。コウ君とヴァーシャは。ストーンズは人材が不足過ぎる。あいつが前線に出ていたら、もっと接戦だったろうよ」

「オッズはヴァーシャのほうが上だったぜ」

「ヘスティア曰く。『わけがわからない古代兵器を倒した男と百人斬りだと人は後者に強さを感じます』だと。さすがは商売の女神だ。よく見ている。俺もそう思うぜ」

「ぼろ儲けさせてもらいましたがね!」

「俺もだ」


 二人は悪い顔で笑い合う。


「本人は気付いているかどうか知らないが。――強敵相手にはどのような技にもある程度対応できる。おそらく試合では発揮できない部類の強さだよ。ヴァーシャの敗因は実戦故だな」


 もし敵がヘルメスだったとしたら、試合なら違った結果になっただろうと兵衛は思うが、口には出さない。

 実戦派に対応するために最適化された業が剣術なのだ。


「抜刀を読まれているからこそ、合気に対し崩しを用いた戦術に切り替えたんだな。ヴァーシャとしても神速の抜き撃ち、軌道変更の抜刀、カウンターは想定していただろう。しかし崩しまでは無理だった」

「今のコウ君には勝負強さがある。言い方は悪いが剣客というよりはしぶとく生き残った戦国武将に近いな。どこまでも泥臭く、実戦的だ」

「稽古でもあれほどの腕前を見せてくれたら、なあ」

「無茶を言うな。――気持ちはわかるぜ」


 剣道の稽古だと、セリアンスロープたちよりも弱いコウだった。基礎体力さえ違う。


「アナザーレベル・シルエットはなんとなく強敵を倒した程度の実感だっただろう。今日ヴァーシャを倒したことでより自信になったろうさ。――忙しくなるぜ」

「そうですね。惑星アシアは動きます」


 ヤスユキも真顔で応じた。

 コウの成長。それは惑星アシアでの均衡を崩すものだ。


「バルバロイかなんだかしらんが惑星エウロパの動きもあやしい。早めにトライレームも強化しないとな」

「ストーンズもですよ。ここは傭兵たちが集まりますからね。ヘルメスの出現によってアルゴフォースと半神半人の指導者層であるアレオパゴス評議会が対立しているそうです」

「ちとヘルメスは自由奔放すぎるわな。あんなヤツァ絶対平等とは相性悪いに決まってらぁ」


 ヘルメスを間近でみた兵衛だからこそ確信できる。彼は極めて魅力的で、野心があり、貪欲だ。絶対平等のストーンズとは相容れないだろう。

 何故彼らストーンズを作ったのか、そのほうが理解できない兵衛だ。


「もうすぐヘルメスのコンサートがステージでありますね」

「興味ねえな。今からみんなで祝い酒だろ?」

「ですね!」


 二人がコウの祝勝会会場に向かおうとした時、忍び寄る影があった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「コウ! 百舌鳥落とし! 当て身!」


 珍しくエメが興奮していた。コウは約束通り百舌鳥落としを披露してくれた。

 見事な勝利を収めたコウに、アストライアクルーも賞賛の言葉を口にする。


「半ば失敗だったけどね。さすがはヴァーシャだ」

「五番機の動きが違ったね」


 今やエメもすっかり五番機マニアだ。


「スラスターを用いた斬撃の応用だよ。地下闘技場の決勝戦で想定して強化はしていたんだ。今までは進む、刀を振る速度上昇のみ。今は引く速度も上げている」

「振る速度ではなく、戻す動作?」

「そう。俺は考えを少し変えた。必要だった疾さは別にもあるってことに気付いてね。敵に対応するためには構えに戻す、姿勢を制御する――逆噴射にも対応できるように対応していたんだ。ただ爆轟だけではアクチュエイターにはならない。そこは装甲筋肉の性質と工夫した。あくまで補助的なものだよ」

「よくそんなことを思いついたね。単純なようで、なかなか思いつかないよ」

「これは宇宙戦から着想を得たんだよ。宇宙空間の姿勢制御。360度移動しなければならないし、レールガンを構えるためにも全身のスラスターが発動する。斬撃も構えも疾さを重視した。必要な時だけ、爆轟によって装甲筋肉の限界を超えた駆動を行うから、相手のどんな動きにも対応できる。それだけの話だよ」


 フェンネルOSの姿勢制御は優秀だ。その分、宇宙戦に適しているかどうか如実に動きが違ってくる。

 攻撃はよかった。宇宙では次の操作に移行するタイムラグを痛感したのだ。


 今代のシルエットは地上戦しか想定されていない。キヌカワが用意した追加装甲が無ければ、あそこまで戦えなかっただろう。


「実戦で使えそう?」

「相手の剣を巻き取り、もしくは弾きながら斬る技だから、囲まれた時には使えそうかな」

「五番機相手に斬りかかってくれる相手がいるかな?」

「いるさ。五番機の装甲は簡単には抜けない。それなら斬るしかないだろ?」

「今の高次元投射装甲を抜く射撃武器はそうないしね」


 Dライフル砲弾ならまだ有効だが、あれは生産コストも高く普及品とは言い難い。簡易型のLDライフルも高級機のみに限定されている。


「爆轟駆動は試験的に使ってみたが、ブラッシュアップしてC型として採用したい」

「コウの居合いは抜刀速度だけじゃなくて、隙を無くす動作を重視していたもんね」

「突き詰めればその考えそのままだ。隙を少なく、どんな状況にも対応する。――五番機頼りとはいえ少しは師匠の教えに近づけたかな」


 エメは微笑みながらコウの話を聞いている。コウが過去を語ることは少ない。


「コウ。祝勝会の準備ができたにゃ。バーベキュー形式にゃ」


 祝勝会の準備に勤しんでいたにゃん汰が二人を呼びにきた。


「そのほうが嬉しい。ありがとうにゃん汰」

「準備を続けるにゃ。待ってるにゃ!」


 にゃん汰が小走りに走り去り、コウとエメが視線を合わせる。


「みんな主役を待っているよ」

「そろそろ行こうか」


 コウとゆっくり話が出来たエメは珍しく浮き足立って、コウの手を引いて会場に向かった。


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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです!


後方で剣の師匠たちがドヤ顔しています。三箇所除けは突きが禁止の中学剣道ではかなり有効らしいです。


五番機は魔改造状態なので量産形態に落としてアップデートの必要がありますね。補給や修理が困難になりつつあります。

F-35やF-16やF/A-18はブロック表記ですがF-22はインクリメント表記。F-16は数字が30や32、40とか42単位ずつずれます。現在はブロック50ですね。

F-35Aはブロック3です。法則性は機種事によって違います。マイナーチェンジはアルファベッドがつくのでF35Aのブロック1Aという表記。

ちなみにF-35B型とC型はブロック表記はまだないそうです。ややこしいですね!

ツインリアクター機になったり運用によって仕様違いが多発していそうなTSW-R1ラニウスC型はやはりブロック表記でしょうか。


作者も混乱しそうなので振り返りします。アシア大戦初期、エメ救援初登場C強襲飛行型がブロック0。

量産型としてエースパイロットに支給された機体がブロック1。

次に軌道エレベーターのアシア解放によってツインリアクターになったブロック2。

尊厳戦争あたりはブロック2A。今の五番機は無理矢理改造した爆轟駆動なのでブロック2Cぐらい。基本追加装甲で対応しています。

補助として爆轟補助内蔵した次の機体がブロック3ですね。


そして絡み酒に巻き込まれた次回に、些細な、そして大きな事件が発生します!

ヴァーシャとバルドがいたら当然、あの人もね?


私事ながらアーマー○コア6の発売日が決まりました! 何回か言及していますが作者が本名がクレジットされているので思い出深いシリーズです。

ネメシス戦域が影響受けたゲームいくつかありますが、影響を受けたゲームはフロン○ミッションシリーズ、とくにオンラインが顕著ですね。リーコン(レコン)導入などその最たるものです。

あとはギ○ンの野望やガン○ム戦記などやはりゲームが主ですね。兵器が徐々に発展していきますからね!

水星の魔女といい、メカ物が熱い夏になりそうです!


今章は残り三話ぐらい予定です! 応援よろしくお願いします!



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