STOM決行

 海を割り、大型の船影が姿を現す。

 それは強襲型移動基地艦キモン級だった。


 強襲型移動基地艦よりSTOM――上陸侵攻作戦Ship To Objective ManeuVerを決行。

 敵マーダー部隊と交戦し殲滅するのが目的だ。


「カタパルト2より、早期警戒機フォックス1出撃します!」


 戦術指揮所より連絡を受けたパイロットハウス内に緊迫が走る。

 遂に実戦であった。

 巨大なレドームを搭載した早期警戒機が先行して情報を集める。


 報告を受けるロバート。じっとモニターを見つめる。


「カタパルト3より、電子戦機出撃します!」


 一方指揮所でも、出撃する機体の選定を進めていた。


 通称ウィジャ・ボードと呼ばれる出撃する艦載機出撃システムを、複数人のファミリアとセリアンスロープがせわしなく動かしている。

 

 コウは五番機のなかから、緊張した面持ちで出撃する機体を見つめていた。

 急造した偵察機と電子戦機、そして制空するための戦闘機。様々な対空兵器が充実し、航空機が絶滅したとまで言われている世界での運用だ。

 高度のコントロールも難しい。高高度過ぎると惑星防御衛星に引っかかり、撃墜されてしまうのだ。


 果たして、偵察機から送られた映像は、防衛ドームに迫るマーダーの群れだった。

 アントワーカー型を中心に、ソルジャー、コマンダー型ともにいる。マンティス型も確認できた。

 背後に見える粒のようなエニュオ。この映像の群れは一種の尖兵だ。


「エニュオ確認。総員、戦闘配置へ!」


 ロバートの号令が飛ぶ。


「敵航空戦力なし。制空権問題なし。どうぞ」


 早期警戒機のフォックス1より、狐型のファミリアから通信が入る。


「各部隊、展開準備。空輸揚陸部隊、準備!」

「ヘリコプタースポット、1から8同時展開します!」


 ロバートの指示に、オペレーターたちが次々と確認し合い指示をだす。


「次に重攻撃機を出撃させる。エレベーターナンバー5と6を準備! 1から4は戦闘機用だ、気をつけろ!」


 出番のようだ。コウの五番機を乗せたA1サンダーストームが所定の位置に付く。

 同型機三機も、同様だ。


キモン級は全容を解明されないよう、海面には三胴艦中央主船体のメイン飛行甲板にあたる部分しか露出していない。

 甲板の各地にあるエレベーターは、ヘリコプタースポットが八カ所。大型機用エレベーターが二カ所、通常サイズの航空機用が四カ所となる。


「航空機が出撃したら、揚陸部隊準備。防衛ドームしか見ていない虫けらどもを横合いから殴りつけるぞ!」


 ロバートの指示が艦内に響く。


 格納庫では、シルエット、装甲車、戦車が次々と配置についていた。

 

 ホバークラフト型のハンガーキャリアーが、副船体のウェルデッキから出撃する。


「電子戦機、敵機による無差別広範囲妨害攻撃確認により戻ります!」

「わかった。すぐに戻せ。偵察機もだ」


 敵機も無差別の電波障害を引き起こす。無人機による殺戮が任務だ。自前のセンサーで対処することが多い。

 その場合、こちらも同様に電波障害を引き起こす必要はない。電子戦機と偵察機は引き返す。


 その間にヘリコプタースポットにより、ティルトローター採用の輸送攻撃機が飛び立つ。

 

「ヘリコプター輸送隊出撃確認! 航空部隊、出撃準備!」


 オペレーターの声により、まずコウたちの5番エレベーターが上昇する。


「こちらサンダー1、出撃する」

「電磁カタパルト2、準備オーケー」


 ブルーが戦闘指揮所に連絡を行う。レールカタパルト2は大型機と通常機兼用。

 指揮所から通信が届く。


「進路確認。クリア。サンダー1、発進せよ!」


 二十一世紀では数十名近くの人員が必要な飛行甲板の作業だが、ここではすべて自動化済みだ。

 所定の配置につき、レールカタパルトに接続される。

 ホールドバックバーが現れ、サンダー1の射出準備が整った。

 電磁カタパルトの加速は約時速800キロ。サンダー1が発進し、エアボーン完了。空を舞い、さらに加速していく。


 その光景を野外のシルエットが監視している。今回は初運用ということで、飛行甲板に不具合がないかシルエットが確認しているのだ。

 キャットウォークと呼ばれる整備用通路をシルエットがたまに通行している。


 二番機、三番機、四番機が順に発艦していく。

 編隊を組み、目標地点に向かう。


 先行する輸送ヘリ隊を前方に確認する。

 輸送ヘリ隊は、ホバリング飛行に切り替えて地面ギリギリを飛んでいる。


 地面すれすれの飛行から、次々と機兵戦車が投下される。着地の衝撃も苦も無くこなし、荒れ地を走行する。

 輸送ヘリ隊は任務を終え、終了する。


「フユキさん、付き合わせてすまない! 準備はいいか!」

「構いませんよ!」


 重攻撃機サンダーストームが低空飛行に移る。

 そこから次々に投下されるシルエット。残り三機はアッシュグレイの新型機であった。


 敵の尖兵との交戦レンジに近付いていく。


 サンダーストーム隊は、シルエットたちを支援するべく上昇に転じていた。


「怖いくらいね、この戦力」


 その様子をモニターで確認していたジェニーが呟く。


「この惑星での、最大戦力の一つだろうな」

「ええ。そしてこれで、キモン級の二割ぐらいの戦力ってところもね」

「我らの裏ボスの非常識さがよくわかるというもの」

「何をどうしたら、こんな試作兵器の山を用意できるのか問い詰めたいね」

「転移社企業への技術開示や販売もあったばかりだ。そしてどの兵器もその技術をふんだんに使っている。贅沢な限りだ」

「戦力アップは良いことと捉えましょう。ここで立ち止まってられないからね。これからもっと人も兵器も運用できる。エニュオ程度、軽く倒せないと」

「そうだな。我らの出番はないさ」


 今回の作戦は予想外の救援依頼だった。

 偶然哨戒に出ていたアンダーグラウンドフォースが、エニュオを発見。進軍先にはD516要塞エリアからの避難民を多数収容していた、小型の防衛ドームがあった。

 防衛ドームのドーム長は傭兵機構を通じ、救援依頼を発したが応じるアンダーグラウンドフォースはなかった。


 そこで今回は戦力もある程度整い、緊急展開可能な場所だったこともあり、メタルアイリスがギリギリの時点で駆けつけたのだった。


 シルエットベースはアリステイデスとバリー、ある程度の戦力は残してある。

 キモン級に搭載している兵器もシルエットより、車両が中心だった。


「コウ君。頼んだわよ」


 ジェニーの呟きは、自信の表れであった。

 

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