設計意図と失敗の原因

「昨日は星空のデートだったようね」

「そんなロマンチックなもんじゃありません。いきなり重攻撃機に乗ってくれって頼まれて驚きましたよ」


 コウたち三人は戦術指揮所で昨日の戦果を分析していた。


「コウ。失敗作の理由を教えてもらえるかしら。とても使いやすい機体で気に入ってたから余計気になる」

「動かないとか不具合があるって意味じゃないんだ。だけど意図したものとは違うものが出来てしまった」

「シルエット運搬能力を持つ、重攻撃機。いいと思うけどな」


 ジェニーも昨日のデータを見た限り、問題ないと判断した。

 航空機の欠点である防御もある。何よりエンジンが二発だ。コウによるとシルエットがなければ一つでも生き残れば航行可能だという、生存性に特化した攻撃機だ。


「ファミリアたちが乗れないんだ」

「え? 飛行機系ならMCSで制限指定すれば乗れるでしょ?」

「それがダメだったんだ。最初はいけると思ってたんだけどな。空中戦闘機動を重視して、偏向ノズルを利用のポストストール機動、高迎角や高旋回やら出来るようにしていたら、フェンネルOSから利用不可を受けてしまった」

「飛行機を超えた姿勢制御がいるってことね……」

「それ。だからA1は攻撃機に見えるけど中に作業用シルエットそのままぶっこんだ。シルエットが飛行機型追加装甲を着込んでいるみたいな感じ?」

「感じって曖昧すぎじゃない?」


 ブルーの冷たい視線。大雑把な性格がこういうところに出てしまう。


「少なくともフェンネルOSはそう認識している」

「用途は主に対地攻撃でしょ? そこまで機動力いるの?」

「惑星アシア運用の対地攻撃だからだよ。低空、低速度運用する重攻撃機で、敵の対空攻撃はレールガンにガスガン、マッハで飛んでくるミサイル。それなりにぶん回せないと、航空機なんて運用できない」

「確かに。でも没にするには戦闘能力も高いから、確かにもったいない」

「巨体だけど、キモン級にも搭載できる。シルエット運搬機と同じ三十メートル級で作っているんだ。キモン級の積載を考えると戦闘機を百機前後、運搬機三十機は搭載できるはず」

「採用に問題はなさそう」

「元々はファミリアやセリアンスロープたちに乗ってもらう予定だったからね。にゃん汰やアキが本当に落ち込んで」


 乗れないとわかったとき、にゃん汰が泣きそうになったのを知っている。

 アキは耳も尻尾も垂れて落ち込んでいた。


 なんとかしてやりたいと思ったが、生半可なものには乗せたくない。


「コウはあの子たちを戦場にやりたくないでしょう?」

「そうだな。それをいうならブルーやジェニーだって、そうなんだが」

「そういう心遣いは好きよ、コウ。ね、ブルー」

「はい」


 目的があるジェニーと、人類の危機のために立ち上がったネレイスのブルー。二人が戦わないという選択肢はない。だが、コウの気持ちは好ましいものだった。

 コウは面と向かって言われて気恥ずかしい。ジェニーが察し、話題を変えてやることにした。


「偵察機も良かったみたいじゃない」

「軽偵察機と、重装攻撃ヘリの二種類を設計してたんだ。ようやく、レールガンの直撃でも即死しない目処が立ったからね」

「新型の装甲材ね」

「車両もシルエット用も航空機用も開発中。ある程度形になったら、他の構築技士に投げるよ」

「そうね。ここの生産能力は試作機を作る程度、ぐらいだったっけ」

「そうそう」


 封印区画の奥から送り出される試作機の数々は、ジェニー以外は把握していない。

 

「A1は装甲は戦車並にあるの? レールガンの直撃でも問題なさそうだけど」


 ジェニーはデータを見て興味津々だ。


「軽戦車並はあるかな」

「そういえば、A1は何をしたら、あんな風になるの? 推進剤は水素じゃないですよね。減らないかと思うぐらいほぼ無限で、たまに回復してる。装甲だってケーレスの放ったレールガンの弾芯なんか、蒸発したかのように爆発して消えるし」

「推進剤が回復しているってどういうこと?」

「燃料は水素だよ。完成したら教える。今は研究中なんだ」

「おかしすぎる」


 燃料は水素だ。嘘は言っていない。


「いきなり航空戦力が有効化っていわれると敵も味方も混乱しそうね」

「戦闘機も急いで作る。制空権取られてたらあんな巨体は的だ」


 ジェニーが呟いた。高次元投射装甲を持ってしてもレールガンは無効化は無理なのだ。

 コウがまたやらかしている予兆すらする。

 

「装甲はかなり厚くしたよ。シルエットの運搬能力も付けたから大型化だしね。超音速がやっとの性能」

「三十メートルぐらいでしたね。そうだ。いっそのこと、中のシルエットを規格化したものを作ったらどう? 飛行機を着込むっていってたから。じゃあ、着込む前提機体で。私のスナイプ乗せても役に立たないだろうから」

「いいかもしれない。二重に乗り込む方式は無駄ではあるんだけど。ん、高性能化も可能かな。その方式なら」

「私変なこと口走った? 作ってくれたら機体にMCSを入れ替えることにする。期待しています。構築技士様」

「様はやめてくれ。だが、重攻撃機用の専用設計か……単体でも追加装甲つけて戦えるようにして、売れるようにしたら面白いかもな」


 ジェニーが悪戯っぽく笑った。


「いっそ変形しちゃったりして」

「さすがに無理かな。研究はしてる」

「変形機は予約しておくね」

「できたらね!」

「私達、試作機の実験部隊みたいね! 楽しみがあっていい」

「はは」


 コウは乾いた笑いを出すのが精一杯だった。

 そろそろ金属水素の管理や生成方法も表に出す時期かもしれない。


 次は彼が得た技術の拡散が急務だ。

 シルエットベースが出来た今、彼一人で開発してもよいものは作ることができないのだ。

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