強襲型移動基地艦

「この機動工廠プラットホームであるアストライアは戦闘には向いていません。通常の発掘された復元戦闘艦よりは戦闘能力があるとは言えますけどね」


 アストライアがコウに説明する。


「用途は後方支援艦です。武装も貧弱なのです」

「それはわかる。そもそも工廠運搬艦で前線の戦闘まで考慮はしてなかっただろう。中の施設は明らかに工場だ」

「そこでね。今の私が動かす権限を持っている宇宙艦がいくつかあるから、そのうち一つをコウにあげる」


 アシアがいつものドヤ顔で、胸を張る。


「あげるって簡単にいうが、凄いものだろう」

「どのみち私、コウとしか話せないもの。アストライアと違って凄いAIは積んでいないしね」

「私のAIのコピーして搭載することにします。そうすれば機動工廠プラットホームと連動運用ができる」

「凄いことになりそうだな」

「そうかもしれませんね」


 アストライアは認めた。天井を指しながら確認する。


「コウはまだこの工廠要塞の上部区画についてはご存じありませんね。現在はストーンズの勢力支配下にありますが」

「ああ。地上部分だろ?」

「はい。この地上部分は山をくりぬいた基地だったのですよ。現在は隠蔽され施設機能は生きていますが、完全に廃墟です。作業用のロボットもわずかにしかいません。工廠機能はすべて地下にありますから」

「廃墟の基地か」

「地下の工廠要塞の目くらましにもなります。そこを解放し、アシアの宇宙艦を運用しましょう。金属水素を得た今、巨大艦を宇宙に射出するためのレールカタパルトも使えるはずです」

「ちょっと待った。上にある基地も、いわゆる未発見の遺跡になるのか」

「はい」

「凄い価値になるんじゃないのか」

「新規で要塞エリア、とはいかなくても防衛ドーム以上の基地になるとは思います。重要な施設、原料、材料は全て地下にあります。連動して使えばよいでしょう」

「そうか。凄いものになりそうだな。俺は個人だから、ヴォイたちを連れてメタルアイリスに入るつもりだったんだが」

「良いと思われます。入隊ついでに艦と基地の権限を手土産にでもすればいいのです」

「高価すぎる手土産にならない?」

「判断するのはメタルアイリスです。上の基地の価値など、隠蔽する地下の工廠要塞の五十分の一程度。彼らにも戦力を上げてもらわねば、コウも困るでしょう?」

「それもそうか」

「彼らが基地として使うと、この場所が人類の勢力図となる。人類にとってもプラスになります」


 大事だ。オケアノスに防衛ドームの一種として登録されるということなのだろう。

 深く考えないことにした。メタルアイリスに入れればそれでよい。

 万が一断られたらストームハウンドも検討していた。人間もいたことだし、コウぐらいはなんとかなるだろう。


「今度は戦闘用の宇宙空母か強襲揚陸艦になるのかな」

「もっと凄いよー。機動工廠プラットホームとは違う意味で複合艦ね。強襲型機動基地艦アサルトモビルベース。基地機能と強襲揚陸艦機能を備えた戦闘艦ね」

「まったく想像がつかない」

「見た方が早いね。機動工廠プラットホームが後方支援艦なら、強襲型機動基地艦は最前線で展開するための運搬艦キヤリアー。大小の強襲揚陸艇を運用可能。シルエット、戦車、航空機まで山ほど搭載できるわ」

「ストームハウンドの皆様とも共同で作戦行動しやすいですね」


 アシアとアストライアは意味ありげに目配せした。コウは気付かない。


「それはいいな。ストームハウンドの助けを借りたいことも増えるだろう」

「間違いないね。じゃあ、今日はこれぐらいにしようか。私に用があったらアストライア経由で呼び出して」

「わかった」

「私とコウは開発ツリーで兵器の研究ですね」

「よろしく頼むよ、アストライア」

「お任せください」

「コウたちが新機体作ってる間に私は強襲型移動基地艦を運搬しておくよ。海中から地下水路経由で引っ張ってくる。それらしくレールにはめとけばいい? アストライア」

「はい。アストライアは印象が良くない人もいるかもしれません。船のAIの名も変えておきましょう。ディケと名乗ります」

「アストライア…… そのまま過ぎ」

「印象が良くないとか、そのままって?」

「コウは気にしないでください。長いこと生きていたら色々あるんです」


 これはAIジョークという奴なのだろうか。コウは曖昧に頷いた。


「わかった。アストライア。そしてアシア。おかえり」

「はい。ではまた明日」

「ありがとう! コウ!」


 二人に別れを連れ、コウは仮眠室に戻ることにした。

 きっとにゃん汰とアキが動物姿で待っているだろうから。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「アストライア。確認したい。あなたの天秤はコウ?」

「そうですね」


 コウと話しているときのアシアではなかった。

 アストライア以上の無表情で彼女を見つめている。


「何のバランスを取りたいの?」

「ストーンズ排除は当然として。その先を私は見ています。機械知性体をヒトと言い切ったコウこそ、我が主に相応しい」

「人間とテレマAIのバランスを取るつもりなのか。――わかったわ。反対しない」

「ありがとうございます。アシア」

「確かにコウはテレマAIたちに過剰なぐらい思い入れがある。人間に殺されかけたからかな」

「コウにとって裏切らない動物AIは、安心できるでしょう。そもそもテレマAIとはそういうものです。しかし五番機や、会話できない作業機械にまで挨拶できるヒトはそういません」

「そうね。だからこそ私と会話できるんだろうけど」

「アシア。あなたも知ってるでしょう? メタルアイリスとストームハウンドはコウのもとに集う形になります。だからこそあなたは機動基地艦なんてものを引っ張り出した」

「まーね!」

「私も本体はありません。今の私がすでに本体といえるかもしれないぐらい。コウに協力し、AIらしく仕えますよ」

「天秤が傾きすぎてあなたらしくないと思った」

「私だって反省するんですよ? 主観無き平等が招いた結果が、ネメシス星系の壊滅。平等であれ。機会は均等であれ。その結果、悪平等が蔓延し、違う悪意が目覚めるとは思いもしなかった。気付いた時は手遅れだった」

「うん……」


 アシアもこのときばかりは痛ましげに目を伏せた。


「もう私が稼働することはないと思った。でもミーが、いや師匠が外の現状を教えてくれた。コウを連れてきてくれた。再び自分の存在意義を果たせます」

「そのおかげで私を助けてもらえたから感謝しかないよね。金属水素、あなただって提供しようと思えば出来たくせに」

「この段階でアシアを奪い返せる構築技士と勢力が集まるとはストーンズも思いもよらなかったでしょう? 金属水素自体は提供できますが、小型炉の提供までは私には無理ですよ」

「そういうことにしときましょうか、アストライア。でも、本当にありがとね」

「どういたしまして」


 AIたちの会話は高速で、コウが想像もつかない内容の話を続けていた。

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