超重戦車攻略戦
主力部隊の主戦場は膠着状態にあった。
超重戦車を中心とした敵防衛線に、大量のシルエットが投入されたのだ。
防御陣形における歩兵は強力な火力だ。
「く。うかつに近づけないか」
ジェニーも焦りは隠せない。
何よりリックが相当無理をしている。被弾した仲間の修理を優先し、最後まで自分が最前線に残ろうとしているのだ。
そこへコウから通信が入る。脳のなかに響く声。
『コウ。五番機。そしてみんな! ありがとう!』
直接頭のなかに響く感謝の言葉。
すぐにわかった。
惑星管理コンピューター、アシアの声だ。
コウは成し遂げたのだ。
「リック! コウがやったわね!」
「見事だ、コウ。さすが我らの依頼主だ」
リックは相好を崩した。凶悪ともいえるセントバーナード犬の笑顔は愛嬌がある。
「作戦は成功。リック、離脱を!」
「まだダメだ。コウたちが脱出するまでは。我々は残置部隊となって、戦線を維持せなばならない。ここで引いてバレたら元も子もない」
「あなたの車体、限界だってば!」
「あと少し、少しなのだ……」
今前線で戦闘している戦車は三輌。バランスが崩れると、一気に敵が攻めてくるだろう。
もしくはコウを狙いに転進するかもしれない。それだけは防がねばならなかった。
超重戦車が予想以上に厄介だったのだ。火力は虚仮威しだったが、移動する壁として有能だった。
主砲もシルエットが弾倉を交換している。カートリッジ式のため交換は容易。常に戦場に居座っている。
さらにリックたちと同型の戦車が常に護衛にいるのだ。この防御ラインは実に強固だった。
「リックさんかい? 前線観測員が近づけないみたいだな。あんたの位置からみえる超重戦車の正式な座標くれよ」
ヴォイからリックに通信が入る。
「転送しよう」
「俺が行ったらいったん引いてくれ。ジェニー。シルエット隊の突撃準備を。隙ぐらいなら作ってやれるぜ」
「了解した。到着を待つ」
「わかった。何か策があるのね」
ジェニーは端末を動かし、シルエット隊に突撃準備を促す。
戦車と装甲車たちの負担を減らすべく、シルエットは準備を整えた。
「火力支援は任せてくれたまえ」
リックは支援車両にメタルアイリスのシルエットの火力支援を行うよう指令を出した。
「おう。すぐに行くからな!」
戦場に異変が起きたのは、数分後だった。
「ん? 攻撃アラートが鳴っている」
超重戦車の運転手役を務めているパイロットは、背後にいる砲手に話しかける。
「受けているな。――底面か!」
「馬鹿な。熱源反応はないぞ。何の攻撃だ、これは!」
軽くパニックになった。
確かに攻撃は受けている。だが成形炸薬による対戦車地雷の反応ではない。そもそも彼らの陣地だ。地雷の有無など確認済みだ。
「物理的な掘削による攻撃だと? ありえないアラートがでやがった!」
運転手が悲鳴をあげる。理解できない攻撃を受けている。
シルエットによる物理攻撃ですらない。
耳を塞ぎたくなるような金属の掘削音。底面の金属をえぐっているのだ。
超重戦車が浮いた――
地中から、ヴォイの掘削装甲車が、巨大なドリルを回転させながら現れた。
超重戦車の底部をえぐりながら。
「くらえ! ドリールゥ!」
ヴォイの絶叫が轟く。
「おいあれなんだ」
「コウさんとこのファミリアだ」
「落ち着いて。あれは味方!」
「超重戦車攻略にドリル戦車だと? 正気の沙汰じゃないぞ!」
メタルアイリスとストームハウンドも、見たことがない兵器の登場によって呆気にとられていた。
敵陣地の、超重戦車周辺のシルエットが狼狽えた。地面からドリルだけが突き出ているのだ。
攻撃しようにも超重戦車を巻き込んでしまう。肝心のドリル装甲車の車体はほとんど見えない。
何より超重戦車の車内は大パニックだった。パワーパックが損傷し、完全に停止する。
確認したのち、ヴォイは車体をバックさせた。
いったん地上に潜ったヴォイの車体が、のそのそと別に場所に地面から這い出してきた。
車体は筒状のシールドに囲まれている。
集中砲火を喰らうが、高速に回転する強固なシールドは全ての攻撃を跳ね返した。
「今だっ!」
ヴォイが叫ぶ。
敵防衛戦に近付いてた戦車の背後から、シルエットと装甲車が走り出す。
メタルアイリスのシルエットは巨大な斧を抱えていた。
その後ろを装甲車たちが支援射撃を行っている。
「はっ!」
頭上から舞い降りる一機のシルエット――ジェニーだった。
この混乱の隙に空高く舞い上がり、急降下。
そのまま超重戦車の砲身を高周波ブレードで斬り飛ばす。
ジェニー機に対する砲撃が飛んでくるが、超重戦車を盾にして回避を行う。
もう一機の戦車の砲身を斬り飛ばし、スロラームしながら距離を取る。
追いかけようとする敵シルエット隊だったが、そこに突撃してきたメタルアイリスのシルエットと戦車駆逐仕様の装甲車群が攻撃を仕掛けた。
メタルアイリスのシルエットはその持った巨大な戦斧で、履帯を、砲塔を切断しようと強襲してきたのだ。
重金属をふんだんに使い重さを増した対戦車用戦斧は、至近距離が苦手な戦車の天敵といえた。
戦車があっという間に無力化され、スクラップに変わっていく。
「いったん引け! 超重戦車は放棄。MCSを引っこ抜け!」
敵指揮官が叫ぶ。
敵部隊のシルエットが超重戦車のMCSを引っこ抜いて抱えて走り出す。もうこの戦車はただの鉄の箱だった。
敵が防衛ラインを下げるべく、後退を開始する。
「敵が後退を開始します!」
通信車より連絡が入る。
「あの狂気の珍兵器によって突破口は開けたか」
リックが呟く。
「しかし、これで狙い通りだ。せいぜい後方に防衛ラインを構築してもらおう。もうX463に用はないのだから」
実質の勝利宣言だった。
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