X463要塞エリア反攻作戦

再会

 アストライアにあったハンガーキャリアーでやってきたコウたちが指定の場所で待っていると複数のハンガーキャリアーや戦車、装甲車が合流した。大隊と呼べる勢力にあたる。

 メタルアイリスとアキの推薦で依頼したアンダーグラウンドフォースだった。


 コウは安全を確認し外で待っている。隣にはにゃん汰とアキ、ヴォイも並んでいる。エメは車内だ。

 メタルアイリスと、別のアンダーグラウンドフォースの代表も近付いてくる。

 メタルアイリスはジェニーとブルー。別の代表は犬型のファミリアだった。セントバーナードがモデルだ。


「ハーイ!」


 ジェニーたちと先に合流する。ジェニーが笑顔で出迎えてくれる。片手を振りながら挨拶した。


「依頼受諾ありがとうございます」

「相変わらず堅苦しいなあ。ねえ、ブルー」

「本当。連絡もたまにしか来ないし。リクエストしか書いてない」

 

 ブルーは不満げのようだ。


「私のほうに来てないし?!」

 

 コウは苦笑するのが精一杯だ。ブルーのラジオはアストライアで受信できるので聞いているのだ。

 美女と美少女に連絡する内容など考えも付かないのだ。地球にいたときでは考えられない。


 そしてもう一方、セントバーナード型のファミリアが近付いてきたので挨拶する。


「はじめまして。モズヤ・コウです。今回の依頼を受けていただきありがとうございます。リックさん」

「よろしく、コウ。『ストームハウンド』のリックだ。ああ、敬語は不要だよ」


 ストームハウンド。アキが探しだし推薦した、ファミリアを中心とする傭兵部隊。大変気難しい隊長で、依頼主を選ぶという。

 

 コウは片手を差し出した。

 リックは若干戸惑ったが、手を差し出す。コウが握りしめる形になった。


「君は我々をヒトと認識しているんだな」

「この世界にきて間もないもので。ファミリアに助けられた。俺にとってはファミリアは喋る動物ではなく、動物の形をしている人間のような感じかな」

「そうか。そのままでいて欲しいものだな」

「それは約束できる」


 リックは重々しく頷いた。犬型だが、頼れる父親のような雰囲気の男だった。犬に家長のような――父性を感じる者は転移者なら多いだろう。

 隣にいるジェニーとブルーとも挨拶を交わし、本題に入った。


「今回は危険な任務。機甲隊による前線の押し上げが要と判断しているんだ」

「ならばシルエット部隊に依頼するより、我々のほうが適任だろう。どうも、ネメシス戦域では人型万能論が存在し、そこらの認識が甘くてね。メタルアイリスも戦車部隊を運用しているのは好ましい」

「シルエットは万能なようで器用貧乏。運用次第とはいえ、正面からの撃ち合いは戦車には敵わないからね。それこそ惑星間戦争時代のアンティーク・シルエットなら万能なのでしょうけど」


 野外活動が危険な惑星であるアシアでは歩兵はかなり少ない。シルエット基準で設計されているのも関係しているのだろう。

 転移者がくるまでは戦車を運用していなかった人類は、シルエット万能論に固執している者も少なくない。


「でも意外だな。ストームハウンドは全員戦車だと思っていた。シルエットも装甲車もあるんだ」


 コウはストームハウンドの兵器群をみて感想を告げた。ファミリアはシルエットに乗ることはできない。

 

「オールタンクドクトリンなど二十世紀には否定されているよ。諸兵科部隊運用コンバインドアームズはこの戦域でも変わらない」

「そこらへんは全然わからないんだ。色々教えてくれると嬉しい」

「いいとも」

「補給の作業機械はシルエットなんだ?」

「さすがに補給はシルエット運用だと便利だから、人間を雇用させてもらっているな。部隊混成の最適化も重要だぞ、コウ君。とくに我々のような独立傭兵隊はね」


 アキがいうには、ストームハウンドのリックは戦術家ともいえるレベルで博識らしい。

 学ぶことは多そうだった。師匠のように、ファミリアは人を教え導く役割を持つ者も多い。


「あら、私達には聞かないの?」

「シルエット戦闘について聞くさ。ようやくライフル装備したんだけど、いまいちなんだ」

「いまいちって……」

 

 ブルーが呆れている。


「私とブルーでみっちり鍛えてあげる」


 リックは三人が会話している間に、アキに近付いた。


「君が連絡をくれたアキだね」

「はい、リック。どうでしょうか。我らのマスターは合格でしたか?」

「ふむ。予想以上だな。まさか握手を求められるとは。自然に手が出た感じだから君の入れ知恵でもなかろう」

「まさか。コウはそんな器用ではありません」

「だろうね。わかるよ。ふふ。ペット扱い動物扱いは当然として慣れているが、人扱いとはよほど物好きしかいないのだがな」

「機械扱いもね。セリアンスロープすら千数百年前は酷かったですよ」

「ほう。君はあの時代の。ならば惚れ込むのもわかろうと言うものだ。良い人物を紹介してもらい礼を言う」

「こちらこそ、今回の依頼、受諾感謝します」


 ストームハウンドは特殊な傭兵だった。気難しく依頼主を選ぶと言われている。

 とくにストーンズ戦に特化している傭兵隊だ。

 参加者は、仕えるあるじを殺されたものが多く、ストーンズに対して復讐心を持つ者が多い。ストーンズはファミリアを徹底破壊する面からいっても天敵だ。


 リック自身、傭兵部隊を創設してからかなりの時間が経過している。

 彼もまた、マスターを殺され復讐に燃える一人なのだ。人間に寄り添う、という基本項目は生者とは限らない。そして、この戦いは人間を守ることにもつながるのだ。


 アキからのファミリアにシンパシーを持つ人間という情報を受け、リックは詳細が明瞭とは言い難い、危険度が高い仕事を受けることにした。

 本当であれば少なくとも自分たちを捨て駒にすまい、という判断だ。

 

 ファミリアから構成される傭兵隊という特性上、捨て駒扱いの運用前提の依頼もかなり多かったのだ。

 必要があるなら率先して前線に、殿しんがりに、人間のために戦うが、あからさまな人間には従いたくはないのが本音だった。


「これだけの部隊だ。目立つだろう。出発しようか」


 リックがコウたちに声をかけた。三人は頷いてそれぞれの場所に戻っていった。

  

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