第2話 神様の借金取り
お互い目をそらさず一触即発の沈黙が続く中、ベルゼが先に沈黙を破る。
「何甘っちょろい事言ってんだよ？ 死にたいのユウシ」
「ベルゼ、女の人に乱暴しちゃいけねぇって母ちゃんに習わなかったのか？ そういうのは俺の
「へぇ、子供の腕を斬り落とすのはいいのかい？」
「――ただのガキじゃねぇんだろ？」
ベルゼを睨みつけると、俺の身体を包んでいた炎の色が突然変わった。その色は普通の炎と違い、白い炎だった。
「これは、神炎の加護じゃない？ 白い炎……馬鹿な、まさかこれは……
ベルゼが初めて
「そうだユウシ！ 僕の仲間にならない？」
「冗談だろ？ 俺はガキが嫌いなんだよ」
「あははは、リクルート失敗かぁ残念だなぁ。まぁ面白いものが見れたし、今日の所はこれで帰るとするよ、腕もとれちゃったしね。でも最後にこの街は壊していかないと、ルシフに怒られちゃうからさ……これは置き土産だよ」
召喚魔法【リムドブルム】
ベルゼが残った手を上げると、空に巨大な魔法陣が
「後はあの子に任せて、僕は退散するよ。じゃあねユウシ、また遊ぼう！」
ベルゼはそう言い残し、一瞬で姿を消す。斬り落とした腕と黒い鎌も同様に消えてしまった。
何が『また遊ぼう』だ、これだからガキは嫌いなんだ。それより、人間――いや人間かわからんが、腕を切り落とすなんて事どうして何の
自分でも驚きだ。今まで刃物なんざ、脅す道具くらいにしか思ってなかったからだ。
しかしそんな事考えてる場合でもない、状況はどんどん悪くなっている。俺は空を見上げて、バサバサと飛びまわる化け物に視線を合わせた。
ちっ、あのクソガキ……それよりあの化け物をどうにかしないと、みんな死んじまうよな？
街の住民はドラゴンを見て、逃げ惑っている。
「あ、ありがとう、あなたは……やっぱりベルゼの仲間じゃないのよね？」
リリアは
俺はベルゼをここに連れて来てしまった事に、責任を感じているのか？ それとも彼女を――もう自分の事がよくわからなくなってきた。
こういう時は『自分が正しいと思った事をする』もちろんそれが間違ってた事もあるが、俺はそうやって生きてきた。大事な決断をする時は、自分の気持ちに真っ直ぐ向き合うべき……か。
俺は彼女の綺麗な青い瞳を見つめた……答えはすぐに出る――そうか。
――俺は彼女を守りたいのか。
「仲間じゃねぇけど……あのガキを連れて来たのは俺だ。だからあの化け物は俺一人でやる。悪りぃけど、お前の剣もうちょっと貸しといてくれ」
「何を言ってるの！ あれは
俺はリリアの言葉を無視してリムドブルムに向かって歩き出す。
「ち、ちょっと聞いてるの！？」
『倒せる訳がない』本当にその通りだ――普通ならあんな巨大なドラゴンが、優雅に空に飛んでいるのを見たら、戦う事より逃げる事を考えるだろう。
何故かわからない、
この世界に来るまでの俺とは比べ物にならないくらい、身体能力ははね上がっている。
――お前さんの
こう言ったあのジジイの言葉に嘘はなかった。
だがそれだけじゃない。この白い炎に全身が包まれてから、感覚的にどう戦えばいいのかわかる。
その時、空からドラゴンが街に降りて来て口から炎を吐き出した。
「させるかよ！」
ドラゴンに向かって突進すると、炎が火
しかし身体の周りの白い炎が、バリアのようになって炎を無効化している。こうなる事も感覚的に何故かわかっていた。
身体が勝手に動く、まるで覚えているみたいに……昔の記憶を辿るように。ドラゴンの炎をものともせず距離を詰めていった。
ドラゴンは
よけた爪は地面を抉り、粉砕された石が舞う。もし直撃したら身体は引き裂かれて、即死するだろう。
すれ違いざまに腕を斬りつけて身体を回転させる。その遠心力を利用してドラゴンの横っ腹に、剣を突き立てた。巨体を
「ギャアアアアアアアアアアアアアア！！！」
ドラゴンの血がべっとりと俺の手に付着した、それは生々しく殺し合いという事実を実感させる。俺も死にたくないし守らなきゃいけないものがある、こいつも死にたくない。だから殺すしかない――その瞬間俺の中に明確な殺意が生まれた。
俺の思考が死で染めあげられ、急激に頭の中が冷たくなっていく。
――殺す殺す殺す――ころすころすころす――コロセコロセコロセ――
俺は自然と口角が上がり、笑顔になっていた。
「また飛ばれたら厄介だな、まずは飛べないように翼を斬り落とすか」
ドラゴンは爪で攻撃を繰り返すが、動体視力が上がってるのかいくらでも回避出来る。爪をかいくぐり、何の
「嘘でしょ……リムドブルムをたった一人で圧倒するなんて」
倒れたままのリリアは、俺の戦いぶりを見て驚きを隠せない様子だ。
翼の結合部から血しぶきが舞い、俺のスーツに血が付着した。
「汚ねぇな……」
もう感情は殺意に支配されていた、何も感じない。怒りも憎しみも悲しみも、何故戦ってるかもどうでもいい。どこを斬って、どうやって殺すか、この瞬間はそれだけだった。
翼が取れるとドラゴンは狂ったように暴れ出す。そして俺に向けて口から炎を吐き出した。
「グォオオオオオオオオオオオオ！」
「全然熱くねぇよ。早いとこ死んでくれ」
俺は巨大なドラゴンの身体を駆け上り、ジャンプしてドラゴンの頭上に舞い上がる。体重を乗せた渾身の力で、ドラゴンの首の付け根に刃を入れる。
――俺はドラゴンの首をはねた。
俺はリリアの元に歩いて行き、何も言わず借りていた剣を手渡す。
「――――」
返り血を浴びた俺の姿に、リリアは一瞬恐怖に怯えたような表情をした。彼女を顔を見てふと我に返る、すると俺の身体を覆っていた白い炎も消えた。
俺は顔についた血を袖でふき取り、彼女に手を差し伸べる。すると
「あなたは、一体何者なの？」
リリアを引き起こし、一呼吸して質問に答えた。
「俺は……神さまの借金取りだよ」
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