第18話 入学4

 現在午後五時

 カトウが入学式の後に、滅茶苦茶落ち込んでいたため、慰めをかねて飲みに行くことになった。

 ベルとメグミは先に帰らせたため、今はこいつと二人っきりである。


「マルクトはどこか行きたいところでもあるのか?」

 

「いやべつに、そこそこうまければどこでもいいよ。言っておくけど俺は、ここら辺の美味しい店なんて知らないからな、今日の晩飯の成否はお前にかかっていると思え」


「あれ? お前ここら辺に住んでなかったっけ? てっきりお前なら、超一流の店知ってるかと思っていたんだが」

 

「確かにこの辺に住んではいるが飲み屋に行くこと事態、あんまりなかったからな」


「なるほどね。なら俺のオススメの店に行こうぜ!」


「別にいいけど、あんまり高い店は困るぞ。最近出費がかさなって今は持ち合わせが少ないんだ」


「大丈夫だって、安くてうまい店なんだよ」


 そういうことなら任せよう。

 そう思い、カトウにその店まで案内させた。

 やがて一軒のお店が見えた。

 看板には『Gemini』(ジェミニ)と書いてあって、見た目は最近できたような雰囲気の食事処だった。

 

「五ヶ月前にオープンしたばかりの店なんだよ。ここの看板娘がかわいいんだよなー」

 

 そう言ってカトウは店の中に入る。

 どんな看板娘なのか少し興味があるな。

 そう思いながら俺もカトウに続いた。

 中に入ると店主と思われる女性が料理を運んでいた。

 

「カトウ先生いらっしゃい。今日はお連れさんがいるのね」


「やあ。エリカさんこんばんは。今日は親友を連れて来たんだよ」


「あら。カトウ先生お友達いらしたんですね。では奥の席にどうぞ」

 

 カトウはひでぇと言いつつも笑いながら、奥の席に向かった。

 俺もカトウと向かい合う形で椅子に座りメニューを見た。


「ご注文はお決まりですか?」


「俺は麦酒。マルクトもとりあえず麦酒を一杯飲んでみろって! ここの麦酒はすごくうまいんだよ」


「そうなのか? なら俺も麦酒にしようかな」


「わかりました。すぐ用意しますね」


 店主のエリカさんは、すぐに麦酒を持って来てくれた。

 

「やっぱりここの麦酒はうまいなー!!」


「確かにうまいな。これ程うまい麦酒は飲んだことないですよ」


「ありがとうございます。うち自慢のお酒ですから」


「ところでエリカさん今日は二人はいないの?」


「あら? カトウ先生。奥さんいるのに私の娘たちに手を出したら許しませんよ」


 そういえばこいつ三年前に結婚してたな。

 あんな美人の奥さんいて、近くの店の看板娘にご執心とは、


「浮気者ー。奥さんに言いつけてやろ」


 マルクトはなんとなく腹が立ったのでカトウをからかうように言った。

 マルクトの言葉にカトウは慌てて


「!? ちょっと違うからね。浮気じゃないからね。エリカさんもそんな目で見ないで。さっきこいつに教えたんですよ。ここの看板娘がかわいいって」


 お前あのとき、看板娘目的のおっさんにしか見えなかったけどな。


「そうなんですね。でも、すみませんね。二人はまだ学校から帰って来てないんですよ」


「まだ学生なんですね」


「そうなんですよ。今日高等部に進学したばかりなんですよ。じゃあ二人が帰ってきたら、挨拶させましょうか?」


 エリカさんはそう言って俺たちの追加注文を作りに裏に向かった。



 それから一時間くらいたった。


「だから俺は女の子にモテたいわけ。わかる?do you understand?」


「……なに言ってんだおめえ?」


 飲み屋にて、俺たちは酒を飲みながら近況を話し合っていたのだが、カトウは若干酔いつぶれかけていた。

 酔っぱらいながら、カトウは女の子からモテたいんだとそう言っていた。

 結婚生活でなんかあったのかと聞くと結婚生活は充実しているんだと。


「ならいいじゃん別に」


 とマルクトはうんざりした様子でカトウに言う。


「そんなこと関係ねぇんだよ!! 結婚していようがしていまいが、女の子にモテたいんだよ!! この気持ちはイケメンにはわからないだろうがな!!」


 その言葉を聞いているとなんかもうどうでも良くなってきた。

 酒が美味しいなー。

 俺が適当に聞きながしているのが気に食わないのか、カトウは急に、


「お前こそどうなんだよ?」


「何が?」

 

「結婚だよ、結婚。お前もいい年だし、それなりの地位もある。お前なら、引く手数多なんじゃないのか?」


 とカトウは聞いてきた。

 ちなみにこの世界では、貴族かそれ以上の地位の者にしか家名はつかない。

 そのため、俺の地位がそれなりに高いのは、家名があるため、誰にでもわかる。


 カトウへの答えに、正直今はそんな人いないと答えようとして、なぜか、シズカの顔が思い浮かんだ。

 なぜ今シズカの顔が浮かんだのだろうか?

 そんなことを考えていると、俺が答えないことを不審に思ったカトウは、


「え!?」


 と大きな声で驚いて、


「お前にそういう相手がいるなんて初耳だぞ! 誰なんだよ? 俺の知っている奴か?」


 とか聞き始めた。


「そんな相手いないよ。今は忙しすぎて、例えそんな人がいたとしても結婚なんて無理だね」


 と言うと、カトウがニヤニヤした顔で


「へぇー」


 とか言ってくる。

 何こいつマジムカツク。


 そんなやり取りをしていると、店員の女性が、

 

「先生に彼女いないんだったら私が立候補しちゃおうかな」


 と言ってきた。

 振り返ってみるとそこには銀髪で長い髪の見覚えのある女性が給仕姿で立っていた。

 よく見ると、うちのクラスのエリスという女子生徒だった。

 学校では、一番俺に熱心に魔法のこととか色々質問してきた生徒だったのでよく印象に残っていた。

 なぜこんなところにいるのか聞いてみると、ここは、彼女の母親が経営している店で双子の妹のエリナも奥にいるらしい。

 なるほどカトウの言っていた看板娘はこの二人か。

 

「冗談はあと五年たってから言いな。麦酒もう一杯頼むよ」


「ちぇー。八番卓麦酒一杯追加」


「はーい。お姉ちゃん、料理持っていって」


 と告げる銀髪のエリスよりも短い長髪のエリナが奥から顔を出した。

 そんなエリナと目があった。


「あれ? 先生がなんでいるんですか?」


 と奥に引っ込んだ姉と入れ替わりで俺に話しかけてきた。

 活発な姉に内気な妹、そんな第一印象を抱かせる二人は確かに美少女でカトウが楽しみにしてろって言うのもわかる。


「ちょっと食事に来たんだよ」


「そうですか。ゆっくりしていってくださいね」


 そう笑顔で告げ、奥に下がっていった。

 そんでカトウのほうに振り返ったら号泣していた。


「羨ましいぞー。イケメン破ぜろー」


 と捨て台詞を吐いて店を飛び出していった。

 なんだかんだ言ってやっぱり面白いなアイツ。


「カトウ先生どうしちゃったんですかね?」


「さぁ?」


 と麦酒を持ってきたエリスに苦笑い。


. . .


「アイツ勘定払わずに行きやがった!!」

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