第4話 誤解
結局昨日は一時間くらい見ず知らずの『こま』さんとラインを続けていた。最初は面倒と思っていたが、知らない人物の相手も悪くないと思い始めたりしている。年齢、性別不詳だが、なんとなく会話の端々から女の子っぽいかもと思い始めたからかもしれないが。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
母親に見送られながら今日も学校だ。父親はいつも俺よりも早く家を出るため、朝は会わないことも多い。
徒歩一分かけて古墳前にある駅へと向かう。相変わらず乗った電車は境内を通るが、そういえば昨日は神社に誰かいたんだっけ? 何気なく観察していると、満開に咲いた桜の木の陰にちらりと人影が見えた。長めのストレートの黒髪というくらいしかわからなかったが、髪型からすると女性だろうか。
そんなことを考えながら学校へと向かった。
教室に入ってざっと見まわしてみるが、どうも夕凪遥はまだ来ていないようだ。ひとまず安心した俺は自分の席へと向かう。
「おーっす白石」
席に着くと、空閑が何事もなかったかのように挨拶をしてくる。そしてそのまま手に持ったスマホをいじりだした。こいつは昨日自分で言ったことを覚えてないんだろうか。
「空閑ぁ……。昨日ライン登録したけど番号違ってたぞ」
「えっ? あれ? そういや昨日連絡きてないと思ったけど……。そういうこと?」
スマホから顔を上げてすっとぼける空閑だが、やっぱり俺が番号を間違えたんだろうか。まぁ今となってはどっちでもいい。
大爆笑する空閑にツッコミを入れつつももう一度挑戦だ。
「んじゃま、改めて」
「へいへい」
画面にQRコードを見せてきたので読み取って登録完了だ。今度こそラインの友達一覧に『空閑』の表示が増えた。
「で、結局昨日は誰にラインの友達登録したんだ?」
まだ半分笑いながらも昨日の顛末を尋ねてくる。
「知らねーよ。『どちら様ですか?』って返事がきて焦ったよ」
「ぶはははは! そりゃそうだ!」
「笑うんじゃねーよ。お前のせいだろうが!」
笑う空閑にイラっと来た俺は、もうコイツのせいにすることにした。焦った時の俺の気持ちを考えれば、空閑にすべてを
「くくく……、まあ落ち着けって」
「お前が笑うのをやめたら落ち着いてやるよ」
「んで、そのあとどうなったんだ?」
俺の言葉をスルーして続きを促してくる。あのあと結局ラインを交換してやりとりしてたなんぞ言ったら、今度は内容を追及されそうだ。
「なんもねぇよ。番号間違えてごめんなさいで終わりだよ」
「えー、そりゃつまんねー」
不機嫌そうに答えてやると、空閑も不機嫌そうにぶーたれる。お前もしかして俺にわざと違う番号を適当に教えたりしてねぇだろうな。
ちょっと追求しそうになったが止めた。会って二日目で疑いすぎるのもよくないな。にしても空閑の扱いは俺の中で下がっていくばっかりだ。
「お前なぁ……」
ちょうどチャイムが鳴り響き、ため息をつきつつも今日の授業へと意識を切り替えるのだった。
午前中の授業が終わり、このあとは新入生に対する部活紹介の時間となった。が、帰宅部の俺たちはもう学校に用はない。どうやら空閑も帰宅部とのことだったので一緒に帰ることにした。
「ちょっと帰りにマックでも寄っていかね?」
「ん? あぁ、別にいいけど」
うちは両親が共働きだからどっちにしろ昼は自分でなんとかする必要がある。誘われたんであれば、付き合ってやらないこともない。
二人で昇降口まで向かうと、そこには昨日と同じく不機嫌そうな夕凪遥の姿があった。
「……どうした?」
思わず身構えて立ち止まってしまった俺に、空閑が疑問の声を上げる。
「いや……、なんでもない」
落ち着け俺。昨日言われたことは気にするんじゃない。あれは不可抗力なんだ。
「えーっと、白石くん……だっけ?」
自分を落ち着けていると、予想外のところから不意打ちで名前を呼ばれてしまった。と思ったがよく見ればほぼ真正面だ。夕凪遥のほうからもう一人女の子が近づいてきていたようだ。
「俺が白石だけど……」
内心のドキドキを悟られないように、できるだけ冷静に返事をする。
髪はセミロングのストレートでどこかおっとりとした雰囲気の女性生徒だ。若干のたれ目と小柄な体格も相まって、第一印象でおとなしいと感じられる。
「昨日は遥が変なこと言っちゃったみたいでごめんなさいね」
「えっ?」
思わず出てきた名前に、後ろにいる本人へと視線をずらす。
「わたしも見てたんだけど、あれはどう考えても転んだ遥の自業自得よね」
思わずといった感じで苦笑する目の前の女の子に俺はついていけていない。
「ちょっと
さらに後ろから当の本人である夕凪遥が、ポニーテールの髪を揺らしながら口を出してきた。普段からツリ目がちなのかわからないが、怒った今の表情からはきつめな性格を想像してしまう。
「ちょっと、何がどうなってんのこれ?」
空閑も俺の後ろから口を出してくるが、俺も何がどうなってるのか知りたい。もうわけがわからなくて頭を抱えるしかなかった。
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