第524話 群れのボス

「くっそー! 俺にもっと魔力があればなぁ……」

「派手に火を吹き上げるから~。もっと絞って魔力を薄~くまとえばもう少し使えるんじゃない~?」

「そんなの火の剣じゃねえ! だって火なら派手な方がいいだろ?! 水だったらな~! 近くに川や湖があればさ、もっと活躍できんのに!」

戦場を駆け回って一旦戻ってくると、タクトは魔法剣でなく普通の剣士として戦っていた。どっちにしろ混戦になってしまうと危なくて魔法剣は使えないんじゃないかな。


「お、ユータもういいのか?」

「おかえり~」

賑やかな声を聞くに、2人ともまだ余裕はありそうだ。

「ただいま! 2人は大丈夫?」

「余裕だぜ! 魔力はエビビでぎりぎりだけど!」

「まだ大丈夫だよ~。タクト、エビビは送還すればいいんじゃないかな~?」

エビビは一応召喚獣なので微々たる魔力を消費している。タクトの魔力が増えたのは寝ても覚めても常に消費する魔力のおかげもあるけれど、水を使わない戦闘時くらい送還してもいいんじゃないだろうか。


「エビビは相棒だろ? 送還なんて言うなよ!」

「いや~相棒でも普通は召喚獣ってそういうもの……ああ、身近にだめな見本がいるもんね~」

砲撃の合間にちらりとオレを見て苦笑する。

そっか、召喚獣って普通は必要な時だけ喚び出すものだもんね。召喚し続けているのは普通ではなかった。

でもオレの場合、送還したってみんなオレの中に戻るんだもの、同じじゃないかな。また召喚の魔法陣から呼び出すのは面倒だもの。


『だけど、これだけ召喚獣が多くなるとゆうたに負担じゃないかしら? 送還して構わないのよ?』

『ぼく、イイコで待ってるよ!』

「大丈夫だよ、オレの中にいれば魔力消費しないし」

それに、万が一戦闘なんかで消費が多くなった時は、周囲の魔素から補うことも出来る。

今はまだ余裕があるけど、生命魔法は割と魔力を食うので疲れる。戦闘はまだ続くだろうし、今のうちに魔素を取り込んでおこうか。


「……あれ」

周囲の魔素を吸収しようとタクトたちの後ろへ下がったものの、広げかけた腕を下ろした。

「なんか、嫌だな。魔素って変質したりするのかな」

食わず嫌いは良くないかもしれないけど、ここの魔素は何か嫌だ。魔素は魔素だけど……汚れている、と言ったらいいのか。


「なんだか、『嫌な感じ』に似てるかも」

嫌な感じとか呪いっていうのは、邪の魔素みたいなものだってルーは言ってた。シロの咆吼でここら一帯の重苦しい感じはかなり薄まっていたのだけど、いざ感覚を尖らせてみると、やっぱり淀みは残っている気がする。戦場の雰囲気と臭いで気付かなかったけれど、うっすら嫌な感じがするような……。

これを凝縮したら、それこそ呪晶石ができそうで――


「あ、もしかして、こういう所で呪晶石ができるのかな。ワースガーズの群れの時だって……」

ワースガーズは『草原の牙』と一緒に受けた依頼だったけど、本来数匹の群れのはずだったのに、もの凄い大群になっていて……。ならそもそも、この魔物の集まり具合からして呪晶石の影響があったりしないだろうか。

オレの脳裏には、先日のドラゴンと見紛うばかりになったアリゲールの姿がよぎった。


「ね、ねえ! もしこの魔物が呪晶石に集まってるんだったら、あのアリゲールみたいなのがいるかも!」

慌てて2人に説明すると、どこか納得したような顔でオレを見た。

「あるかもなー、お前がいるし」

「オレは関係ないよ?!」

そもそもこの戦闘に参加したのだって偶然なんですけど?!

「ユータがいると色んなことがあり得るもんね~。だけどそれならギルドの方でも可能性は考えてるんじゃないかな~?」

オレたちは依頼内容の詳細までは知らない。ひとまずレイさんを探して視線を彷徨わせると、たなびく淡い金髪が目に留まった。


背の高いレイさんだけど、戦場ではとても身軽だ。力の強いモノアイロスには細身の剣が不利に思えたけれど、ごく小さな魔法を多数併用してスピードと手数重視の戦法のようだ。

安定した戦いに、つい『草原の牙』を思い出してくすりと笑った。レイさんがDランクなら、彼らのランクアップはもう少しかかるかもしれない。


「レイさーん!」

危なげなく一体を屠ったところで声をかけると、振り返った彼女が笑みを浮かべた。

「やってくれたな。これなら、あとはもう問題ないだろう。君たちは後方で――」

駆け寄るオレたちに言いかけたところで、飛びかかる一体に向き直った。

手の平サイズの火魔法の連撃、怯んだ所へ――。

「レイさんっ?!」

あろうことか、そのモノアイロスは火魔法をものともせずに突っ込んだ。簡単に振り払われ、受けた細剣と共にレイさんの身体が宙を舞う。


「っし! ユータ!」

自分よりも大きな身体を難なく受け止め、タクトがオレに視線を寄越した。入れ替わるようにラキが魔物の前に立ち塞がる。だけどラキは後衛だもの、近接戦闘は少々難しい。

「すぐ戻るから! モモ!」

『任せて!』

その場をラキとモモに任せ、戦場把握と周囲の掃討にシロを派遣して走り出す。


抱えられたレイさんは、脂汗を流しつつ立ち上がろうとしていた。

「だい、じょうぶだ。すまない、剣がなくとも魔法が使える……」

全然大丈夫じゃない! その手! ぶらりとした腕を含め、まとめて回復の光で包み込んだ。

「ああ……ありがとう。守るはずが……本当にすまない」

ほうっと息を吐いたところで、呪晶石のことを尋ねてみた。

「いや、可能性はあったが、群れは移動している。呪晶石に集まるのなら一カ所から動かないのが普通だ。報告では群れに特殊な個体もいなかったために、呪晶石関連は否定されている」


ほっと安堵したところで、悲鳴に振り返った。

そこでは一匹のモノアイロスが冒険者たちをなぎ払っている。きっとレイさんを吹っ飛ばしたやつだ。

「あれが群れのリーダーだろう。最も強い個体のはずだ」

もはやこちらの勝利も時間の問題となったことで、マズイと思って出てきたのだろうか。

『主ぃ、ボスってあんなに強いのか?』

屈強な冒険者がまたも吹っ飛ぶ様に、駆け戻りつつ首を傾げる。確かにモノアイロスは力が強いけど……個体によってあそこまで差が出るだろうか。


もはや他のモノアイロスなど比較にならず、他へ襲いかかるのを妨害できているのはラキだけだ。それも、妨害にしかなっていない。

「なんか、変だよ~!」

一気に汗が浮かび始めた額を拭うこともせず、ラキが休む間もなく砲撃を打ち続けている。苛立ったモノアイロスが、ピタリとラキに視線を定めた。

「ぐうっ!」

咆吼と共に突っ込んできた身体を、タクトが真正面から受け止めた。ぱぁんと弾けるような鈍い音と共にお互いの身体がぶつかり合う。

折れると判断したのだろう、鞘ごと用いた長剣でこん棒を押し返そうとしているけれど、その足がずり、と下がったのを見て目を剥いた。


「タクト?!」

身体強化したタクトの力は、並の冒険者以上だ。そうそう力負けなどしない。

「お、かしい、ぜ! モノアイロスの、力じゃ……ねえ!」

食いしばった歯の間から漏れる台詞に、ハッとその魔物を見つめた。

「他のモノアイロスなら貫けるのに、いくらなんでも固すぎるよ~」

言いつつタクトの背後からの足先、指先を狙った精密射撃に、今度は魔物が悲鳴をあげて飛びすさった。


「ねえ! そのモノアイロス、きっと呪晶石を取り込んでるよ!」

アリゲールほどではないけれど、確かに感じる嫌な気配。オレの台詞に、じりじりと周囲を囲んでいた冒険者も目を見張った。




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今日9/23はコミカライズ版更新予定日ですね!!楽しみ~!


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