第257話 学生枠参加

「みんなみんなー!最近冒険者界隈でみんなのこと話題になってるんだよ!すごいよね?!この学年は優秀だって!もーっ先生鼻が高いったら!!」

朝からルンルンでやってきたメリーメリー先生が、小さな身体でめいっぱいに喜びを表現してくれている。

確かに、ギルドに行ってもクラスメイトたちと顔を合わせることが結構あるし、たいてい上のランクのパーティに入れて貰っていたりする。それはやはり実力を認められてのことだろう。まだ7歳なのに立派に働いていて、本当に偉いなと思うよ。


「それでねっ!将来冒険者として活動しようとする人限定なんだけど、ギルドも学生を育てるのに意欲的になってくれてるの!色々交渉してるんだけど、複数パーティで参加する依頼に学生枠を組んでくれるって!ただ、勉強を兼ねてるから、もらえるお金は少ないんだけど…」

複数パーティでの依頼は、商隊の護衛とか大物の討伐なんかが多くて、実入りがいいし責任も分散されるから人気の高い依頼なんだよ。ギルド側としても複数パーティがいるなら学生の安全も確保しやすいってことかな。


すごく勉強になるいい機会だと思うんだけど、最初色めき立っていたみんなは、「もらえる額」の詳細を聞いて、かなりトーンダウンしている。うーん、将来冒険者を目指す子だと、余裕のないご家庭が多いから…それなら普通に稼ごうって思うのかもね。見習い期間はお給料なしってとこもあるんだから、もらえるだけいいかなって思ったんだけど。

「――で、希望者は後で先生のところに来てねっ!あ、絶対行けるわけじゃないよ?依頼と君たちの実力を見て、先生が行ってもいいかどうか判断するからねっ!」



「なあ!早く行こうぜ!」

休憩時間になった途端、ばん!とオレの机に手を着いたタクトが、目をきらきらさせてオレたちを急かす。そうだろうね…タクトはノリノリだと思ったよ。

「行くこと決定なんだね~」

「当たり前じゃん!お前らちゃんと聞いてた?!いいか、『これはとても貴重な機会だから、依頼の間は授業が免除される』って!!そう言ってたろ?!」

「えっ?そんなこと言ってたっけ?タクト珍しくしっかり聞いてたんだね!」

授業が免除されても、タクトは後で勉強しておかないと試験がクリアできないと思うけど…。


オーバーリアクションでビシリ!とオレたちに指を突きつけたタクトは熱弁を振るう。

「そんな大事なとこ聞き漏らす方がどうかしてるぜ!いいか、これは金に換えられない価値がある貴重な機会だ!…そうだろ?」

「うん…そうだね、オレも絶対将来役にたつと思うんだ!確かに経験ってお金に換えられない価値があるもの!」

「そうだね~授業がなくなる貴重な機会だもんね~」

えっ…そっち?!ラキの胡乱げな瞳に、タクトが視線をさまよわせた。

…タクト……オレちょっと信じてたのに…。



「やっぱり君たちは来てくれると思ったんだ!先生嬉しい!うんうん、提示されてる依頼なら君たちが参加できないものはないよ!先生が行くよりきっと役に立つから!」

「本当~?それで、どんな依頼があるの~?僕たち、選べるんですか~?」

「うん、みんなあんまり来てくれないから、結構色々残ってるよ!どれがいい?先生はこの護衛がオススメだなぁ~危険が少なくて、その上に勉強の機会は多いよ!」

タクトはきっと討伐がいいのだろうけど、他の依頼をちょっと覗き込んで興味を失ったようだ。

「複数ったって…ゴブリンの集落とかじゃつまんねえもん。ゴブリンしかいねえじゃん…」

そうなのだ。さすがに危険度の高い討伐には参加させられないってことで、ゴブリンやせいぜいそのレベルの魔物討伐しかない。数が多かったり生息地を探すために複数パーティが必要ってことみたいだ。

「じゃあ、護衛でいいね~?えっと5日後からで…結構期間が長いけど…タクト大丈夫~?」

「おう!一番長いやつにしようぜ!大丈夫大丈夫!」

それ、絶対大丈夫じゃないでしょ…そんなオレたちの視線をものともせずに、タクトは一番期間の長い依頼を提出してしまった。

仕方ない…道中で勉強してもらおう…教科書類一式持参だね。


「君たちなら先生なんにも心配してないんだけど、でもでも、十分に気をつけるんだよ?あのね、怖くないって思ってる時が一番怖いから、そういうときは、近くにドラゴンがいると思って気を引き締めて!」

えっと、油断している時が危ないってことかな?油断大敵って、本当にそうだね…こちら風に言えば油断はドラゴンってことわざが出来そうだ。

「先生…わかりにくい~」

「え?怖くない時は側にドラゴンがいるかもしれないのか?!」

だ、大丈夫、先生そんな落ち込まないで!オレにはちゃんと伝わったから!机の下から出てきて!



* * * * *


「ねえねえ、何を準備したらいいかな?!テントでしょ、寝袋でしょ、食糧でしょ、あとタオルもたくさんいるよね、図鑑もいるし食器とお鍋に…お布団はどうする?馬車用のクッションもいるよね?あ、いけない、魔物図鑑と植物図鑑と…あとどの本が必要?」

「あ!ユータなんで教科書入れるんだよ!いらねーって!」

「ちょっとユータ!なんでもかんでも入れないでよ~!高性能収納は狙われやすいから、大きなカバンに入るぐらいの物にして~!」

前日は3人で大騒ぎだ。とりあえず持っていけば困ることはないと思うんだけど…。でも取り出すのは気をつけないといけない。だからお布団なんかは却下されてしまった…。馬車用クッション、絶対必要だと思うんだけど…。

「ねえ、帰りは好きにしていいんでしょう?楽しみだね!」

「ちょっと遠いから心配だけどね~!行きで大丈夫そうなら、帰りは馬車の護衛とかやってみる?乗合馬車の護衛なら僕たちでもできるからさ~」

「海も近いんだろ?何して遊ぶ?」

今回受けた依頼は、ハイカリクより北東の方にある港町までの護衛だ。ごく小規模の商隊が買い付けに行くらしい。商隊は港町でしばらく滞在するので、オレたちは往路の護衛のみとなる。

「ねえねえ、宿にみんなで泊まるのって初めてだね!どんなとこに泊まる?お風呂はあるかな?」

「お風呂付きなんて贅沢だよ~!普通の安宿でいいんじゃない~?」

「寝るだけだろ?俺別に野営でもいいけど。そっちの方が飯美味いし!」

う…それは確かに。でもせっかくだから宿に泊まりたいと思うでしょ?!お食事は自分たちで作ろうか…。

ついに明日に迫った依頼の日に、オレたちはそわそわして落ち着かない。どうしよう、明日早いのに眠れそうにないよ…。


* * * * *


「おーいねぼすけさんよ、今日は大事な日だって言ってなかったっけ?」

ほっぺをぷにぷにされて目を覚ますと、アレックスさん…朝にアレックスさんと会うのは珍しい…いつも依頼を取りに行ってるから……って、依頼?!

一気に目が覚めてがばっと起き上がったら、アレックスさんが苦笑した。

「だーいじょうぶ大丈夫、まだアレックスさんがいる時間だ。ちゃんと起こしてあげたでしょ?」

「あ…びっくりした…アレックスさんありがとう!目覚ましお願いしといて良かった…」

「テンチョーに怒られるぞ~!きちんと起きるのも冒険者の仕事だ!って言うからな」

それは間違いないです…はい。オレはどうも朝の早起きが苦手で、いつも誰かに起こされている。もう少し大きくなったらきっと起きられる…と思うんだけど…。

「ユータ、忘れ物ない?ちゃんと椅子とテーブルは収納から出しておいた~?」

ラキ、それって忘れ物って言うの?大丈夫、椅子もテーブルもテーブルクロスもちゃんと出しておいたよ!お布団も……全部は持って行ってないよ。

「っはよー!起きたか?!行くぞ-!!」

バーンと勢いよく扉を開いたのは予想通りのタクト。テンチョーさんいないときで良かったね…背中に氷の刑になるところだよ。


「頑張ってな!気をつけるんだぞ~!」

ニッと笑ったアレックスさんは、ぽんぽんぽんとオレたち3人の頭に手を置いて送り出してくれた。



言いつけ通り右肩に目印のバッジをつけ、門の前でソワソワしていると、他の冒険者パーティらしき人達も集まってきた。





――――――――――――


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