第198話 魔法植物
「ねえねえ、今度のお休みにバーベキューしない?」
「「ばーべきゅー??」」
「うん!この間シロが取ってきたお肉、すっごく美味しかったんだよ!だから、みんなも食べよう!お外の依頼の時に焼いて食べたらいいなと思って!お外でお肉を焼く料理をバーベキューって言うんだよ!……多分。」
「この間の肉って…アレだろ?!」
「そりゃあ美味しいよ…僕たちも食べていいの~?」
「もちろん!あ、二人の分もオレが持ってるんだけど、どうする?必要な時に言ってね?」
「ああ…ユータの収納袋は腐らないんだっけ…。オレたちの分って…分けてくれるのか?どのくらいあるんだ?」
「このくらい。」
どーんと取り出したお肉はカロルス様のお腹いっぱい3回分くらい。
「多すぎるわ!!!父ちゃんにあげる分だけもらう…。」
「ユータ…そんなにもらっても腐るだけだから…。僕、家に帰る途中で腐ると思うし、いいよ~。」
そっか、確かに二人に渡してもオレの収納がなかったら腐っちゃう。
「じゃあパーティの貯肉にしておくね!食べたい時は言ってね!」
「貯肉……斬新だね~……。」
「…俺らってさー冒険行ったら街中より良いモン食えるな。」
今度のお休みはバーベキューに決定だ!お天気が良かったら良いな~。
「―そのため、神信教と回復術は深い関係にあるとされ、高ランクの神官になるには回復術の習得が必須となり―。」
ツィーツィー先生の授業は座学だけなので、けっこう眠くなるんだけど、今回は回復術のことを話してくれたのでお目々ぱっちりだ。回復術師イコール神官ではないけれど、神信教だと回復術は神様の神秘って考えてるそうな。だから使えないと高位の神官にはなれないんだって!信心深いけど素質のない人もいるだろうに…。ちなみに神信教は創世の神様を奉っていて、貴族を中心に最も信者の多い宗教だそうな。
生命魔法は本当に細分化されていて、なんだかおかしな対立まであるみたい。その神信教では、ゴーレムとか疑似生命を作るのは教えに反しているそうだし、召喚士と従魔術師はなんとなく対立している雰囲気があるし…。全部同じ生命魔法なんだって分かったらどうなるんだろうね?生命魔法の色々な適性をもってるのって、何もオレだけじゃないと思うんだけど、きっとみんな思い込みがあるんだろうね。
先生の話がまた貴族の歴史に戻ったので、オレの眠気も舞い戻ってきた。眠気を覚ます魔法ってないのかな…オレは割と切実に考えるのだった。
「あふぁ~…眠かったー!」
「まるで寝てないみたいな言い方だね~。」
「あはは!ユータ、デコが真っ赤になってるぜ!」
ええっ!頑張って耐えていたと思ったのに…!それもこれも、きっと幼児の体が睡眠を欲しているからに違いない。
「これからの授業は大丈夫だよ!」
「そりゃそうだろうね~。」
「実技で寝てたらスゲーよ!」
今日はメメルー先生の魔法生物学…と言っても、1年生なので主に魔法植物だけで、実技ではお外の畑を耕したり、いい土の作り方を習ったり、なんだかのほほんとしていて好きなんだ。害虫害獣が魔物だったりするので、駆除方法とかは中々バイオレンスなこともあるけど。大根を守るために魔物に立ち向かう農家…結構ワイルドだ。大根自身も魔法植物なので、葉っぱを振り回して多少自衛できるのだけど。
「魔法植物ってかわいいよねぇ。」
「……そうか?気持ち悪いぞ。」
「かわいくは……ないかな~。外で蔦なんかに巻き付かれたら大変だし…。」
そう?お水をあげたら葉っぱをパタパタさせて喜んだりするんだよ?
「お豆さん~久しぶり!」
声をかけながら近寄ると、あたかも振り返るようにわさっと豆の低木がこちらに反応する。にこっとすると、お豆の蔓をうにょうにょさせて歓迎してくれている。ほら、かわいい。
「うげー!気持ち悪!」
「なんかユータって魔法植物に好かれてるよね~!」
『きっとユータから漏れ出る生命魔法を感じてるのよ。』
へぇ、植物って敏感なんだなぁ!魔法植物も魔物になると、トレントって言う木のお化けになったりするので、森の中だと中々厄介なんだそう。オレ、森の中にトレントがいたら、すごく狙われるってことだろうか…。
「まあ、ユータ君は植物の世話も上手なのね!この豆とっても元気で素直よ~!かわいいわね!」
「うん!お豆さんかわいいね~!喜んで踊ってるみたいだね。」
「…なあ、あれかわいいか?めちゃくちゃうにょうにょしてるけど…。」
「元気がよくてかわいいらしいよ…。」
今日はお豆さんのお手入れをして、魔法植物の種を植えるんだって!
どんな植物なんだろう?オレたちはお外の作業台に集まってソワソワしている。目の前に置かれたのは手の平サイズのごく小さな鉢。
「さて、では今日から皆さんに育ててもらうのは、この種です。なんの種でしょう?」
はいはーい!とみんなの手が上がる。親指の爪くらい、大きくてころりとした種は、特に何の変哲もない。
生徒が口々に思い付くままに植物名を挙げていく。答えを知っていて手を挙げてる訳じゃないんだね…。
「お、マンドラが出ましたね。そう、これはマンドラゴラです!」
きゃーっと楽しそうな悲鳴が上がる。マンドラゴラと言えば、根っこが手足のように枝分かれして、なおかつ人の顔みたいになっている不気味な植物だ。しかも、引っこ抜くと恐ろしい悲鳴をあげ、魔力を根こそぎ持っていかれて気を失うそうだ。
「ええ~!先生、マンドラゴラなんて大丈夫なのか?!」
タクトは興味本意で引っこ抜きそうだもんね。
「うふふ、この種は引っこ抜いても気絶するほど魔力を持っていかれないので、安全な方です。でも、成長したら気をつけてね!充分育ったら、今度はマンドラゴラの抜き方も勉強しますからね!」
このマンドラゴラは、安全な代わりに成長しても小さくて保有魔力も少なく、あまり魔法植物としての価値がないらしい。主にマンドラゴラを抜く練習に使われるそうな。
小学校の時の朝顔を思い出すなぁ。自分で育てるのってすごくワクワクするよねぇ!鉢植えは各自持ち帰って毎日お世話するように、とのお達しだ。お世話自体は朝顔と大差ないので簡単だ。
「わ!ラキ!!すごいよ、もう芽が出てる!」
「ホントだね~!魔法植物だからあっという間に大きくなるよ~ひっくり返さないように気を付けないとね~!」
魔法植物ってすごい!じーっと見てたら伸びていくのさえ分かるかもしれないね。
「大きくなーれ、元気になーれ。」
嬉しくなってたっぷりとお水を出してあげる。
「ユータ、魔法植物は魔素を吸ってるからいいけど、普通の植物だったら水魔法の水だと痩せちゃうよ~?」
「えっ?あ、そうか!」
水魔法の水だと栄養素が溶け込んでないもんね。
「ピピッ!」
なぜか窓辺に止まったティアも、水をかけてくれと言うので、手の平に水を生み出してはかけてあげる。
「ピッ!ピピッ!」
嬉しそうに羽を震わせて水浴び?するティア。苔だった頃でも思い出してるんだろうか。お水が好きなんだね、マンドラゴラと一緒に毎日水浴びするといいかもしれないね。
「よ、起きてるな!行こうぜ!」
「「うんっ!」」
今日はお休みの日、バーベキューの日だ!ギルドで薬草の依頼を受けたら、お野菜を見繕ってから出発だ!
「お、白犬の配達屋さんじゃないか。今日は外に行くのか?」
この間とは違う門番さん、オレが配達してる所を見かけたみたいだ。
「うんっ!薬草取りに行って、バ……むぐ?」
サッと左右から口を塞がれて、キョトンとする。
「じゃあ行ってくるぜー!」
「夕方には戻ります~!」
「おう、気をつけてな!」
門から離れることしばし。
「ユーータ!外でバーベキューとか言ったらダメだろ!」
「外で冒険者が食べるのは何ですか~?」
「あ…保存食…。」
危ない危ない……せっかくのバーベキューがふいになるところだった…。
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