第94話 露店めぐり


「ねえ、ユータは他にどこ行きたい?僕、ちょっと露店の方を見たいんだけど行ってもいいかな?」

幻獣店を出てから少し歩き、表通りでごはんを食べているとセデス兄さんがそう提案してくれる。

「うん!オレも行きたい!」

以前カロルス様と行ったときはお金を持ってなかったし、さらっと見て回っただけだったから是非とも見に行きたい!

「ちょっとちょっと、ごはんはゆっくり食べてから行こう?休憩も必要だからね?」

つい気が急いて大きなお口で詰め込んでしまった。そうだよね、作ってくれた人も味わってほしいだろうし。

ちょっと反省して腰を落ち着けると、もぐもぐとよく噛んで食べる。今日のお昼ごはんは、雑穀のスープを選んでみた。聞いた感じはヘルシーだけど大きなお肉もごろごろ入ったお腹満足なスープだ。雑穀って本当に雑穀なんだよ・・お米が入ってないから、言葉は悪いけど鳥のごはんによくあるような・・あんな感じ。麦もこっちではもっぱら小麦粉として使うことが多いみたいだね。・・そうだ、せっかく麦があるんだから、脱穀した麦とか露店に売ってないかな?白米はなくても麦があれば麦ご飯ができる!オレはさほど白米にこだわりはないから、麦ご飯があれば十分だ。

ちなみに、セデス兄さんはサラダにでーんとお肉の塊を乗せたようなものを食べている。あれはあれでバランスが取れているんだろうか・・華奢に見えてよく食べる人だ。


しっかりと休憩をとって、お腹を落ち着けたら露店に向けて出発だ。

セデス兄さんと手を繋いで表通りを歩いていると、チラチラとこちらを見られるのが気になってくる・・イケメンめ・・少しばかり恨めし・・羨ましくなってくるよ。でも、オレだってまだまだ成長するからね!きっと背が高くて逞しくて、セデス兄さんだってひょいっと持ち上げられるようなナイスガイになるんだ。


「ユータといると色んな人に見られちゃうね~、こうしたらどうかな?ふふん、みんな羨ましいだろう!」

セデス兄さんがひょいとオレを抱え上げる。足とお尻ばっかりだった視界が、急に開けて街の様子がよく見えるようになった。それにしても・・・少し呆れてドヤ顔のセデス兄さんを見やる。無自覚だなぁ・・彼がイケメンだと自覚したら奇妙な行動も減るんだろうか?それはそれで少し悔し・・・寂しい気もする。きっと彼はこのままが一番いいのだと、一人納得して特等席を堪能することにした。

「露店までまだちょっと遠いよ?重たくないの?」

「ふふっ!鍛えてるからね・・ユータは羽のように軽いよ。」

確かに重そうにはしていないけど、オレだって大きくなってきてるからそこそこ体重あるんだけどな。華奢に見えるけれど、片腕でオレを支えて揺るがない確かに固い腕。ロクサレン家にいたらいつまでたっても大きくなった実感がもてないかもしれない・・・。


セデス兄さんの抱っこのまま、露店が並ぶ一画に来ると、急に人の密度が上がって熱気が伝わってくる。ここはいつでもお祭りみたいな雰囲気があって楽しいし、なんだかそわそわした気分になる。お店の人が客寄せに声を張り上げて、負けじと客同士が会話のボリュームを上げて、みんながすごい音量でしゃべるものだから、もう何が何やらだ。

「ここは楽しいけど、ユータには危ない場所だから。いいかい?僕から離れないでね?」

抱っこで連れ歩こうとするのを無理言って下ろしてもらったら、耳元で忠告してくれるセデス兄さんに頷く。また攫われたりしたら大変だからね・・・まあその場合大変なのはオレより悪人の方かもしれないけど・・。

オレはセデス兄さんとしっかり手を繋いで、賑やかな露店街に足を踏み入れた。


自然と怒鳴り合うような大声で会話しながら歩く。

「ねえ!セデス兄さんは何かほしいものがあるの?!」

「んーこれと言って何か欲しいわけじゃないよ!ここ見て歩くのが好きなんだ!面白いものがあったりするからね!」

「面白いものって?!」

「大昔の研究資料がメモ用紙になってたりね!有名な魔法使いの日記帳が古本で売られてたりね!呪われた道具とかもよくあるから、むやみに触っちゃダメだからね!」

「ええ・・呪われちゃう品物とか売ってるの?!それってダメなことじゃないの?!」

「うーん、知らずに売ってる時もあるし、呪われてるってちゃんと書いて売ってるものもあるよ!解呪の費用と品物の価値を考えたらお得だって場合もあるからね!」

「じゃあどうして解呪して売らないの?」

「解呪できる術者が少ないからだよ!特殊な魔法でね、回復術師や聖職者なんかでたまに使える人がいるぐらいなんだ!だから解呪の薬品もすごく高価なんだよ!」

へえ~そうなんだ!解呪の魔法使えるようになったら食うに困らなさそうだなぁ。

・・・あれ?オレ解呪できるんじゃないの?ルーのアレも確か呪いみたいなものじゃなかった?でも生き物に対して使えても物に対して使えるかは分からないね、あれは回復魔法の一環みたいな感じだったし。一度試してみたいなぁ・・でも呪われたのなんて危ないから買っちゃダメって言われるかな。

「呪われた道具とかね、面白いものもあるんだよ!下手くそな呪術師がかけた中途半端な呪いの品とか、探すの楽しいよ!身に付けると笑っちゃうブローチとか、体が重くなる指輪とか、しゃっくりが出るネックレスとか!」

・・・大丈夫そうだ。なにそのいたずらグッズ・・・呪いって・・・。

そういうのなら買っても大丈夫そうだね・・ただ、解呪しても役に立ちそうにないけど。


「ほら、あそこ見てごらん!あのお店は呪いのグッズが売ってあるね!」

セデス兄さんが指した先には、いかにもな黒っぽい天蓋を広げて、『呪い付き専門』と書かれた立て札のあるお店・・そんな店もあるんだ!誰が買うんだよと思ったけど、意外なほど賑わっている。

「行ってみようか!ちゃんと呪い付きって宣言してる店は大丈夫だよ。触ったら危ない物は触れないようにしてあるから。」

ドキドキしながらついていくと、お店の外観は雰囲気を出してあるが、並ぶ商品は別におどろおどろしい感じはしないし、みんな普通に手にとって眺めている。冒険者風の男達が群がっている一画は、武器と防具が多く並んでいて、それぞれに武器の名前と説明書きがついていた。どれどれ・・・

『呪・オーガの鎧:装備していると体が重くなる呪いがかかっている。・・スピードが出なくなるが、力が強くなる。重労働に。』

『呪・ワタポポの靴:装備すると踏ん張りが効かず攻撃が軽くなる呪いがかかっている。・・弱い浮遊魔法がかかった状態、身が軽くなるため山岳地帯に良い。』

ほほう!呪いを解析して、いい効果を見つけてるってことか・・なるほど、これなら使い方によっては便利なものになるね!呪いって一口に言っても色々あるんだ・・それって呪いかな?!っていうのもあるけども。どっちかというと、魔法の付与を失敗しちゃったやつじゃないの?


「面白いよね~見てよこれ!『料理が凍る皿』だって!こっちは『刺さらないフォーク』に『滑る靴』だよ!」

セデス兄さんは変なものばっかり見つけてきては楽しそうにしている。ん・・・でもちょっと待って?

「セデス兄さん!それ!それいる!!」

棚に戻そうとするところを押しとどめて確保成功!これはきっといいものだよ。

「えーこれ何に使うの?」

首を傾げるセデス兄さんには後で説明するとして、オレが解呪に挑戦できるような品物もほしいな。せっかくだから解呪したら価値があるものがいいんだけど・・。

「ねえ、このお店で解呪したら価値があるものってどんなものなの?」

「ああ、そういう本気の呪いがかかったやつは大体奥の方にあるよ、危ないし価値があるから店主の近くにおいてあるんだ。ほら、あのあたりだね。」

木箱を机と椅子代わりにして座っている店主の近くには、触れられないよう鉄格子になっている大きな箱があり、中の棚にはまさにイメージ通りの呪いの品が置いてあった。

ネックレス、ブレスレット、何かの瓶・・・どれも薄暗い雰囲気がして、ここだけは嫌な気配が漂っている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る