第80話 罠
「変・・?どういうこと?捕まってる人は無事なの?」
ううん、違うの、捕まってないの。えらそうにしてゴブリンに食べ物運ばせてるの。
んん??一体どういう・・・・
オレはハッとした。もし、もしそうだったら・・
「カロルス様!また戻ってくるから、ここにいて!・・ううん、館に急いで帰ってきて!オレ先に館に帰ってくる!イリス!カロルス様たちをお願い。」
「きゅ!」
「お?おう・・お前は戻ってこなくていいぞ?」
「急いでね!!」
会話ももどかしく言い捨てると、すぐに館へ飛んだ。
「・・・やっぱり!!」
レーダーの反応は嫌な予感が当たっていることを示していた。
慌てて応接室へ駆け込んで、セデス兄さんとぶつかってしまう。
「わっ・・ってユータ!!無事だったんだね!?よかった・・。」
「ユータ様・・!!良かった・・。」
安堵の表情を浮かべる二人に急いで状況を説明する。
「聞いて!あのね、ゴブリンは、多分罠なの!村の外からたくさんの人が向かってきてる。多分、悪い人たち!もうすぐ到着しちゃう!村の人達を避難させて!!」
「なんだって?!どういうこと?!いや・・いい、こんな時間に大勢で来るのは大規模な盗賊・・?他国ってことは・・ないだろうね。アルプロイ、聞いたな?頼むよ!マリーさん!頼みます!皆を領主館へ集めてください!ユータ、それから話を聞くよ。」
「はっ!」
「お任せを。」
「ウリス、エリス、オリス、この館を守って!」
「「「きゅう!」」」
「オレ、カロルス様に伝えてくる!」
「ユータ?!」
カロルス様の所へ飛んだはいいけど、『鞍』にフェアリーサークルを設置していたので、到着と同時に派手にバランスを崩してしまった。
「あっ・・。」
「んなっ?!」
仰天したカロルス様が片手でオレをキャッチして前へ引っ張り上げた。
「無茶なことをするなと!あれほど言ったろうが!!」
「ごめんなさい!でも大変なの!たくさんの人が村に向かって来てるの!ゴブリンは、多分罠。集落の中に人はいたけど、捕まってなんかなかった!ゴブリンに食べ物とか運ばせてたの。」
「何だと?!盗賊団か?罠・・・?一体どういうことだ!?」
「多分、盗賊とか悪い人!村を襲うときにカロルス様と兵士がいない方がいいから!だからトトを使って遠くにおびき寄せたんだと思う。どうやってトトの居場所を知らせるつもりだったのかは分からないけど・・。」
「ちぃい!くそっ!村は!?」
「間に合ったの!今セデス兄さんとマリーさんたちが村人を館に避難させてるの!」
「そうか・・!助かった!!館に避難さえしちまえばいける!マリー達がいるからな、守り切れるはずだ。グレイ、急ぐぞ!!」
「はい!」
「オレ、戻ってくる!」
「あ、おい!ユータ!!もういい、無茶するなよ!!・・・・くそ。」
「セデス兄さん!避難は?!」
「ユータ!うん、まだ、もう少し・・!!みんな、夜通しトトたちを待つつもりでいてくれてたんだ!おかげで夜中だけどみんな起きてたし家の明かりも付いているし、とてもスムーズにコトは運んでるよ!」
そっか・・・良かった。
ぞろぞろと領主館へ急ぐ村人たちと、逆行するように門の方へ向かう。広場で精密レーダーを使ったけど、概ね領主館の方へ向かってくれたみたいだ。ただ、村の奥にぽつんと残っている人を見つけて急行する。
ギイ・・
「こんばんは!」
「・・うわっ?!なんだ?お前・・」
なぜか真っ暗な家の扉を開けると、見たことのない人・・。誰?
「・・・あなたはだれ?・・・はやく館にいってください。」
「・・ちっ。俺はやることがあるからいいんだよ!とっとと行きやがれ!」
・・なんだこの人・・基本的に村の人はみんな顔見知りだ。こんな辺境の村に、見たことがない人がいるだけでアヤシイ。
「では大人がそこにいるので来てもらいましょう。」
「野郎・・!」
「ユータ様!こんなところで何を?」
バンッと扉を開けたのはマリーさん・・・なんでここにいるの分かったんだろ?とりあえずナイスタイミングだ!
「この人がひなんしなくって。」
言いながらマリーさんに振り返り、あ・や・し・い・ひ・と。と口の動きで伝えてみる。微かに頷いたマリーさんがオレを扉の方へ押しやる。
「さ、ユータ様も早く館へ。私がこの人をお連れしましょう。」
「いや、その・・・オレはまだやることが。」
「・・命を捨ててもやることが、部外者のあなたにあるのですか?」
「!い、いや・・・こ、この荷物をまとめたら行くから!」
すうっと目を細めたマリーさんから漂う圧迫感。男は冷や汗を垂らしながら荷物をまとめて立ち去った。
「・・ユータ様、あれは夕刻頃に村に駆け込んできて、こどもがゴブリンに攫われたと騒いだ男です。」
「あー。どうやって村の人にトトのことを伝えるのかと思ったら・・そんなシンプルな手だったんだね。そんな人が館に行って大丈夫?」
「ここにおられては何をしでかすか分かりません。まだ証拠がありませんから、館の地下にでも隔離しておきましょう。見た目通りの小物です、何をしようと問題ありません。」
わあ・・マリーさん、男前・・!
「・・?どうしました?」
きらきらした目で見つめているのに気付いたマリーさんが戸惑う。
「ううん!なんでもないよ・・マリーさん、すごくカッコイイと思って!」
「そそそっそうですか?!ゆ、ユータ様は本当に強い人がお好きなんですね?!」
「うん!エリーシャ様が戦ってる所見たの!すごく格好良くてキレイだったんだよ!」
「なるほど・・ええ、ええ、ユータ様。我ら、賊などに後れを取ったりしませんとも・・!賊の100人や200人、このマリーが蹴散らしてさしあげますよ!」
マリーさん、桁が違うよ!2桁ほど!!
ふんふ~ん♪と鼻歌でも歌いそうにご機嫌になったマリーさん。まるで恋人と待ち合わせでもしているような雰囲気だ・・・ああ、早く来ないかしら?・・みたいな・・・。
・・なんか、全然心配いらないような気がしてきた・・・。
館に入る前にもう一度レーダーをチェック、よし、大丈夫。
「もう村に誰も残ってないよ!閉めて大丈夫!」
「うん、助かるよ!」
セデス兄さんの指示で館の門が完全に閉じられる。これで、籠城体勢を整えることができた。
良かった・・・間に合った。バラバラだと守り切れないけど、館さえ守れば良くなった。これならラピス達も細かい事を気にせず魔法を使うことができる・・後はここを守ってカロルス様を待っていればいい。ふう、と安堵の息をついた。
村人達は大広間に集まってもらって、例の男だけ地下の別室だ。トトの無事は伝えてあるけれど、突然の襲撃にみんなさぞかし不安がっているだろうと思ったんだけど・・。
「お、それどこで取ってきたんだ?」
「あっちのテーブルにあったぞ!」
「これなんだ?!すげー美味い!!」
「あ~~幸せ!こんな美味しいものが食べられるなんて~!」
「・・・・・・。」
大広間は大宴会場になっていた。
お酒こそ出ていないものの、テーブルがいくつか置かれてずらりと料理が並んでいる。さながら立食パーティだ。
見ればクラウドフィッシュ・カニ料理の試作品のオンパレード。ジフたち・・ここぞとばかりに試作に励んでるな・・・材料自体にほとんどお金がかからないからこそだろう。
・・・籠城って・・・・?
「めっちゃうまい!これは星5つだ!」
「これおいしい!あーでもでもさっきのやつとくらべたら・・・星3つかしら・・」
ちゃっかり食べたら星5段階で採点してもらうようにボードが置かれている。
うきうきと料理を食べては採点している村人には悲壮感のカケラもない。
・・・あの・・もうすぐ盗賊来ますけど・・・・?
なんだかオレはがっくりと力が抜けたのだった。
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