第45話 領主と冒険者
ズダダダダッ!!ズサーーッ!
「っ!!!」
「・・?」
あったかいカロルス様の体から、突如浮き上がったオレの体は、ふわっと他のぬくもりに包まれた。
「・・ち、もう嗅ぎつけやがった。」
ぐいっと袖で顔を拭ったカロルス様が立ち上がる。
「・・ゆ・・ゆ・・・ユータさまぁ・・・!!」
ぎゅううううう・・・
うぐっ・・・ま・・マリーさん・・??
ダバダバと泣きながらオレを抱きしめてぐりぐりするマリーさん。
あれ?まだカロルス様にしか会ってないのになんでオレが帰ってきたの知ってるんだろ?
あまりに絞められて涙も止まる。
「ま・・まりーさん・・ただい、ま。ごめ・・なさい。」
「!!」
なんとか声を絞り出すとマリーさんの拘束がさらに・・
「おいっ!」
危うく絞め殺される寸前のオレを取り上げたカロルス様、グッジョブ。
「・・ハッ?!私としたことが。ユータ様・・ユータ様・・・きっと、きっと帰ってきてくれると信じておりました。ああ、どれほどこの日を待ちわびたことか。」
両手でオレの頬を挟んだマリーさんの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「あいがとう・・しんぱい、かけてごめんなさい・・。」
オレはマリーさんの華奢な体をそっと抱きしめた。
「・・ふうっ・・・」
マリーさんの体から突然力が抜ける。
「えっ?!マリーさん?!」
「あー・・・ほっとけ。喜びが上限振り切っちまっただけだ。」
いつの間にか現われていたメイドさん達が、次々とオレに駆け寄って泣きながら抱きしめてくれる。あの・・マリーさんが放置されてるけど、いいの?
騒ぎを聞きつけてやってきた執事さんにもぎゅっとしてもらった後、カロルス様がオレを抱き上げた。
ぐんっと高くなる視界、鋼のような固い腕が懐かしい。
嬉しくなってにこにこ顔のオレは、カロルス様の首に腕をまわして、ぎゅーっとした。
「ああ・・・」
メイドさん達が羨ましそうだ。ふふ、今だけはカロルスパパになってもらいたいんだ!幼児には親のぬくもりが必要なのです。独り占めしてごめんね!
まだほんのり赤い目をしたカロルス様も、ニヤニヤ・・いや、にこにこ顔だ。
「ユータ、改めて・・すまなかった。俺がいながらあんなことになって・・・。よく帰ってきたな・・・。この野郎・・本当に何がどうなってやがる。」
わしわし、と頭を撫でられるこの感覚、本当に久しぶりだ。
「あのね、冒険者さんにたすけてもらったの。マナーがダメなのでいかないって。帰っちゃダメっておやどで待ってもらってます。」
「マナーだぁ?俺にそんなもんいるかよ。」
「なんと・・高潔な冒険者もいたものですな・・。」
「おむかえにいってもいい?」
「おう!行こうか!」
「カロルス様は行かないで下さい・・。」
執事さんが呆れて引き留める・・フットワークの軽い領主様だ。
結局オレと執事さんで宿へ向かった。
「ねえー出してよぉ・・どうして出してくれないのよ~?」
「強情・・。」
「頼むってー俺ら帰らないとダメなんだよ。」
宿の前まで来ると、3人の声が聞こえた・・誰と話してるんだろ?
扉を開くと、目の前に3人がいた。
「あっ?!ユータ!」
3人は困った顔で宿の一角を指した。
「ちょっと~、あれ、ユータのとこの子でしょ?」
「出られない。」
「なんかさーオレら宿に閉じ込められちゃったんだけど?」
「きゅきゅー!」
オレの胸元にアリスが飛び込んでくる。
「・・・ニースたち、にげそうだったから見張ってもらったの。」
ギクリとした3人を見ると、どうやらアリスをつけておいて正解だったようだ。
「・・はじめまして、ロクサレン家執事、グレイと申します。このたびはただならぬご尽力を賜ったと、ユータより伺っております。・・・お急ぎとは存じますが、せめて御礼の機会を設けていただけませんか?」
アリスを見て珍しく驚いた顔をしていた執事さんが、仕事を思い出したみたい。
ピシリとした執事さんに、3人はなおさら狼狽える。
「えっえっ・・あの、その・・・どうぞ、お構いなく・・・?」
「あのあの・・私たち冒険者なので、失礼があると思います。」
「お気持ちだけ・・」
「だめ!行くの!」
「ユータもこう言っておりますし、旦那様は元冒険者でいらっしゃいます。マナーも言葉遣いも全く心配ございません。」
そう言われてオレに背中を押され、渋々領主館へ向かう3人。いつの間にかアリスとラピスが入れ替わってオレの肩に乗っている。
「(・・・・ユータ様、あとでちゃんとお話を聞かせて下さいね。)」
低い声で耳打ちする執事さんに、逃げ場はないと悟った。
「おう!助けてくれた冒険者ってお前らのことか?礼を言う・・本当にありがとう。おかげでユータにまた会えた。」
「はいっ?!領主様?!」
「こっこのたびはおまにゃきいただき・・」
「?!」
正面扉を開けたらいきなりカロルス様が仁王立ちしていて大混乱だ。
執事さんが横でガックリしている。
「カロルス様・・応接室にご案内しますからそちらへ。」
「そうか!じゃあ茶菓子でも持って・・」
「メイドがします!あなたは邪魔なので一旦執務室に戻って下さい!」
執事さん・・・心の声出ちゃってるよ?
すごすごと引き上げていくカロルス様をなかったことにして、上品なしぐさでメイドを呼ぶと、3人を応接室に通した。3人だと緊張するだろうとオレも一緒に応接室で座っている。
「・・なんか気さくな領主様だったな。」
「うん!カロルス様、マナーなんてきにしないよ!」
「それも貴族としてどうなのかしら・・あたし達は助かるけど。」
「元冒険者?」
「そう!A級の、冒険者。」
「えっ・・A級?!マジで?!」
「勝てない・・」
「すっごい・・強そうだったもんね・・。」
「ドラゴンと、たたかったんだって!!」
「えーーっ!マジで!!すげー!話聞かせてくれねえかなぁ!」
「うっわーさすがA級!」
「無理・・。」
どうやらカロルス様に好印象を抱いてもらえたようだ。
ガチャリ
メイドにドアを開けてもらいながら入室するカロルス様に、ニース達の目はきらきらしていた。
茶菓子と紅茶が出され、改めてカロルス様が御礼を言う。夕食へのお誘いは、マナーは気にしなくていいとの条件でOKをもらった。
「・・で、だ。お前と離れてからのこと、聞かせてもらえるか?」
「オレ達も会ったのはハイカリクの街のすぐ側なん・・です。」
「私たちもなんであんなところにいたのか、詳しい話を聞いてもいい・・ですか?」
「聞きたい。・・です。」
オレはちらりと3人を見て、どこまで話したらいいのか・・悩んだ。
「えっとね・・」
森の中で、ラピスに会ったこと、街を目指して歩いていたこと、森を抜けた先で3人と会ったこと。
「お前・・・あの森の中彷徨ってたのかよ・・!」
「いくら管狐が従魔になっても厳しいでしょ・・」
「よく無事で・・」
「オレが歩いてたとこ、魔物がすくないんだって。」
「そんなとこあんのか・・」
「運が良かったわね。」
「それで索敵できるように?」
「そう。魔物がわかるようになった。」
色々と言っていないことがあるけど、概ねそれで3人は納得したみたいだ。カロルス様は腕組みをして黙って聞いている。
「・・・それではみなさま、夕食までしばらく時間がございます。湯浴みの準備が整っておりますので、どうぞおくつろぎ下さい。」
執事さんの言葉で、3人が退室する。それぞれお客用の部屋を割り当ててもらったみたいだ。
「・・・で、詳しい話は聞かせてもらえるんだろうな?」
やっぱりそうなるよね・・そもそもカロルス様、オレがあの高さの崖から飛び降りたのも、森のどの辺りで行方不明になったかも知ってるもん・・そう簡単に彷徨って出られる場所じゃなかったよね。
オレはこっくり頷くと、覚悟を決めて、カロルス様の目を見つめた。
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