第三部
「第一中隊長から中隊各隊へ。掩体壕への前進は中止。鈴宮小隊は、我の位置に集合」
広多無でとりあえず、任意の小隊を集結させる。「我の位置」だけじゃ伝わらないので、立ち上がり拳を挙げた。
「鈴宮小隊!現在地!」
思惑通り、鈴宮小隊は私の周囲に集結する事が出来た。
「第一小隊、集結しました!」
鈴宮が改まって、報告した。
と、三菱エンジンの音が聞こえてきた。3両のWAPCとそれに続くいすゞエンジンの指揮通だ。
それからは、北門で待つ仲間の為、素早く乗車し発進させた。
WAPCは、
指揮通には、私を含む中隊本部要員が乗った。私は左の座席、キャノピーの下だ。キャノピーからは上体を乗り出して外の状況を確認出来る。更に、キャノピーから体を車外に出さなくても、視察孔と言って小さく横に細長い窓からも外を見ることが出来る。指揮通は最後尾だ。
隊舎の間を抜けると、北門が目視で見えてしまう。多分、もうすぐ……
「WAPC
指揮通車内に隊員の乱暴な声が聞こえてきた。その内容を頭で処理しようとした矢先、
「いったぁ~……」
指揮通は急停車した。被弾したWAPC01が停車したのだろう。勿論、後続車も停車しなければ国民の税金で賄われている装備品に傷をつける事になる。そんな事も相まってか、指揮通は大きく左に逸れながら停車した。
私の頭は、前と左とぶつかった後に、右に振り回された。
てっぱちは、ジェルパックではないので、ぶつかった時の音がてっぱち内を反響しまくって頭痛にも似た痛みを引き起こす手助けをしている。てっぱちを被っていようとも、痛いものは痛いんだ。
「愛桜隊長!だいじですか?!」
「え?だいじ?」
鈴宮が
「あ、すいません。大丈夫ですか?」
「う、うん」
一体、何だったのか。
しかし、そんな事は後で良い。
「鈴宮小隊!北門まで、停まらず前進!WAPC01、
「第一小隊各隊、中隊本部。01、02は駐屯地の外に前進。北門を遮蔽する位置に停車。03は停車した後に発煙弾発射。尚、01、02を特に覆うように発射せよ。送れ」
私の命令を最適化し、下達するのは鈴宮だ。
そして、各班から返事が来た。一班も確かに無事らしい。
「第一小隊各隊、中隊本部。走行不能にならない限りは、指示する目標まで停まらず前進する事。終わり!」
やはり、指揮通にも広多無が入っている。派遣された中即連で、広多無ネットワークが出来上がっている。
「車長。指揮通は、WAPC03の後ろに停車して」
「了解しました」
今度は、きちんと頭をぶつけない程度の停車をした。頭をぶつけない程度という言い方は、どうかしているとは思うが。
「EEI提示するね。敵散兵の規模、威力、戦力……目視で分かる範囲で良いから、敵散兵の戦力が知りたい。威力偵察も出来るんであったら、してもらいたい。戦力が分かるまで、下車戦闘禁止」
「01、02、こちら小隊長。中隊長よりEEI。敵散兵の戦力。尚、威力偵察等は周囲の状況等を判断し、可能であれば行う事を報告。送れ」
私が提示したEEI。これは、指揮官の最も知りたい事の陸上自衛隊での略称だ。Essential Elements of Informationの略称である。
相手の戦力が分からないのに、むやみに下車戦闘をするリスクは小さい訳がない。
「小隊長、01、送れ」
「01、小隊長、送れ」
「煙幕が晴れる前後なら、威力偵察可能と思われる。」
煙幕が晴れる前、若しくは直後に威力偵察をするのは確かに正しい。例え敵に実害を与えられなくとも、01の脅威度を上げる事で敵の装備等が判明するかもしれない。
視察孔から煙幕を見る限り、無風に近い。
「中隊長」
「うん。お願いして。HMGの弾薬箱全弾使用良し。観測は指揮通から行おう」
「01、小隊長。HMG、上空敵散兵、連射」
スムーズに鈴宮が無線連絡をした。
「01、了解。射撃、30秒後に実施する」
私も出来るだけ敵の戦力を直接知りたい。必死に視察孔を覗く。間もなく煙幕が晴れそうだ。もう既に、煙幕の先が垣間見えている。
中隊本部班の幹部の一人は、車長席のキュポラ―から顔を出して観測を始めた。双眼鏡を手に持ったようだ。
第一分隊が乗るWAPCのキュポラ―が開いた。HMGが装備されているキュポラ―だ。
「小隊長、01。至急至急。上空の敵散兵を確認出来ない。送れ」
今は深夜。見えなくて当然か。となると、HMGを射撃しても意味がない。戦車のHMG射撃は、敵を確認する為の射撃だったのか。
HMG単位では、ネットワークを使用した誘導も無理だ。地上目標なら座標で共有出来るが、空中なのでそれが出来ない。
「愛桜隊長、照明弾とかは……」
いや待てよ。ここが地球ではないと仮定して、この星には月……衛星が二つある。視察孔からWAPCや孤立隊員が立て籠もっていると思われる北門がはっきりではないが見えた。
衛星は、一つはとても大きく、もう一つは月より少し大きく見える。とても大きい方の衛星は、月とは比べ物にはならない程で初めてこの地に降り立ち見た時は、夜空の三分の一を覆っていた位だ。もう一方は、そのでかい衛生に半分以上が隠れていておまけのような立ち振る舞いをしていた。
今夜ははっきりとは見ていないが、ここに揚陸してから二日か三日だからそう変わってはいないはずだ。
「現在の天候並びに時刻」
私は、ふと頭に浮かんだ一つの矛盾を解消すべく、必要な情報を口から垂れ流した。
この情報で少しは分かる筈だ。
「日本時間で0054時」
「雲は……雲量3位ですかね」
鈴宮が時刻を知らせた後、ハッチから身を乗り出していた中隊本部班の墨田が付け加えた。元々は威力偵察の観察の為、車外に上半身を出して見ていたのが墨田だ。
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