29.


 挨拶も終え、街方面にいく馬車に同乗させてもらう。




 依頼があれば良かったのだが、護衛ではなく、あったものといったら別の方角にいくような依頼だったため、今回は完全に自分たちで金を払い、同乗させて貰う形になってしまった。





「じゃぁね~!」「また来てね~!」





 子どもたちが最後まで村の方から手を振りながらお別れをしてくれる。



 どれだけ懐かれてるんだって思ったが、悪い気は全くせず、ミーシャと一緒に馬車に揺られながら手を振る。




「またね~!」





 お互いの姿が小さくなるまで、手を振り続けていた。



「楽しかったね~!」



「だな、あいつらホントに生意気だった点を除いたらいい村だったわ」




 荷物を多く詰め込んでいる荷台であったが、二人がゆっくりするにはそれなりの空間があり、道なりにゆっくりと走る馬車の揺れもあったおかげで徐々に眠り誘われる。外も良い天気で、御者にいたってもアクビを何度かしてしまっている程だ。




「……んー、眠たいね~」



「だなー、別に依頼でもねぇんだし、この付近は凶暴な魔獣も滅多に見ないらしいから、寝てもいいぞー、俺もたぶん寝るし」





 急に襲われる、なんてことも勿論警戒しなくてはならないが、気の張りすぎも良くない。





 なんだかんだといっているうちに、いつの間にか眠りについてしまっていた。











 どれぐらいの時間が経ったのだろうか、外まだ明るく、昼間のような日差し。


 せいぜい2時間ぐらいだろうか。




 目を開けるとボケーっとミーシャが外を眺めていた。



「ん、起きてたのか」



「ぁ、起きたんだ。 私もさっきまで寝てたみたい、えへへ」




 ミーシャは俺が起きた事を確認したあと、自身の髪の毛が乱れて無いかと思ったのか軽く自身の手で髪を撫でるように整える。




「なんか面白いもんでも見えたか?」



「んー、今の所は綺麗な自然だけかな?」



「だろうな」





 お互い特に起きてからは会話を多く交わすこともなく、外の流れる風景を眺めていた。





「……あれ?」




 何か見えたのだろうか。


 突然ミーシャが首をかしげながら、少し険しい顔つきになる。




「ん?」



 それにつられミーシャの視線方向に同じように目をこらす、ぽっと見ただけでは普通に開けた道、少し奥のほうでは森林になっているようだった。




「なにかあったか?」



 そう訪ねると同時にミーシャは腕をあげ、もう少し奥だと示すように指を指す。



「あれって……あ! 止まって! 止まって下さい!」




 ミーシャは何かを確信したように御者に止まるように促す。


 突然の大声もあり、驚いたようで「ぉお、どうしたんだい!?」と御者も戸惑っている。





「お兄ちゃん! あれみて!」



 距離にしてはそれなりに離れており、指先を見なければ正直分からなかっただろう。



 小さな点と点のようなものがまるで争っているように動き回っている。





 ぱっと見ただけでは魔獣か動物同士が争っているようにも見えるが、1つの種類の点はまるで人のように、もう一つの点はそれよりも数倍大きく、襲っているように。


 小さい方の点は数は少ないように見え、それでも抗っているのか小さく動き回る。逆に大きい方の点は恐らく5つ、それがあちらこちらに動いているように遠くから見える。




「絶対襲われてるんだ! お兄ちゃん!」



「ッチ、本気でいくのか?」





 これは、決しておかしな話ではない。




 ひどく聞こえるかもしれないが、助ける筋合いはないのだ。


 大前提として依頼でない。




 すなわち自身の行いの結果だ。






 明らかに森林方向だという点。


 今、ジンたちのように道沿いに沿っていたら比較的に安全な道にもかかわらず、何かわからないが逸れた場所にいる。





 それは何らかの依頼で向かっているのか、何か目的があって向かっているのか。


 結局の所それはわからない。




 わからないから、本来は助けに向かうといった行為は正解でない。



 スズキの時はグレイブと一緒に行動しており、近くで悲鳴が聞こえたから向かった先にたまたま死にかけのスズキがいたので助ける形になった。






 襲っていた魔物も十分討伐できる対象であったのもある。





 この距離だ。


 ただ戦っているだけ……とは、さすがに小さくでしか見えていないが、少なくとも優勢そうには思えない。だからといって、こちらが参戦したところで対峙できないかもしれない事も考慮しなければならない。



 スズキの時も低い等級の魔物でなく、グレイブと共にでも倒せないって判断をしていたら、素直に見捨てていただろう。





「あんたら、どうすんだい? 俺にはわかんねぇが、獣人のあんたらはなんか見えてんだろ? ここで降りるなら悪いが置いていくよ?」






 魔獣の危険性を思ったのか、御者も少し焦り気味になっている。




「お兄ちゃん!」



「くっそ、わかった! おっちゃん、わりぃが先にいってくれ!」




 俺よりも先に気がついていたミーシャには、恐らくもう少し対峙し合っている2つの大なり小なりある点たちがどのような状態であるかわかっているのだろう。




「そんかわり、無理はしねぇ! ミーシャ、無闇に突っ込んだりすんなよ! 絶対にだ!」



「わかった!」



 二人は荷馬車から降り、森林方面に向かう。





 降りてすぐ馬車は走りだし「あんたらも気をつけな!」といった声は後ろから聞こえてくる。





 近づくと何が対峙していたのか分かってくる。





 一つは、人。



 しかも、今朝村によっていた馬車を引き連れていた者たちだ。



 もう一つが魔獣。





 魔獣は、討伐経験もある【アグルングアゴン】というものだった。


 見た目だけでいうと、図体は1台の荷馬車と同じような大きさをもち、顔が異様に大きな魔獣。ゴツゴツとしていそうな図体よりも、完全に顔との相対性がわるく、かなり肥大化されているため、体積の3割ほどが顔といってもおかしくない。




 なによりアゴがまるで岩のようにな堅さをもっているため、その頑丈さによって群れの中での優劣をつけているらしい。





 逆に皮膚はゴツゴツとしている割には柔く、顔以外を攻撃することが推奨されている単体では第4等級魔獣。本来は大人しく、無駄に争わない性質だが、仲間に何かあった場合は凶暴性をあらわにする魔獣。


 群れの数は5匹。



 討伐での依頼でいうなら3等級に匹敵する。







「おにい……ちゃん……、アレって」





 ミーシャの声が震えて聞こえる。


 対峙しているのは現在2人。


 必死そうに剣を振り回しているが、全く慣れていないようで息を切らせ、体も擦り傷が多く、服は酷く汚れていた。






 一番裕福そうな者は、その場で対峙しておらず、ほかの2人が魔獣に立ち向かっている。





 ミーシャの視線の先には、何が言いたいのか十分に分かるものがある。






 3台中1台の馬車が突進をされたのか、上から乗るようになのかわからないが、あきらかに完全に潰されており、そこからは血が『大量』に流れている。








 横に伏せているのはウマ、そして裕福そうにしていた者が荷馬車が破壊されたせいなのか破片があちらこちらに刺さっているようだ。






 だが、それだけの血にしては








 あきらかに






 多い。








 多すぎる。










 潰された荷馬車を覆う布が破れ、いくつかの『人体の一部』が露わになっている。






 布は大部分を赤く染めていた。

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