27.
翌朝、スズキが部屋を叩く。
「ははは、おはようございます。先にレコアンブルへ戻っておきますので、よければまた誘って下さい」
早朝の街方面にいく馬車に同乗する前に一応挨拶をしてくれた。
正直なところ、ここまで丁寧な冒険者は珍しいと思う。
昨晩の食事の際に一度別れの挨拶をしていたのにもう一度しようなんて俺なら思わないからな。
「また一緒に依頼受けましょうね!」
「俺たちも今日一日ゆっくりしたら帰ると思うから、またいつもの店で会おうぜ」
扉を開けたところで、中に入ることもなく別れの挨拶を交わす。
扉を開けたミーシャに対しては殆ど顔を合わせようとせず、少し奥にいる俺の方へ視線を向ける。
ミーシャもその対応にはすでに慣れてきたので今では気にする様子もないが、当初は「苦手なんて克服するためにあるんだよ!」とか言いながら少しでも目を合わそうとしたり、会話を試みていたが徐々に「きっといつか慣れるよね! 無理強いはよくない!」という風に思考が変わってしまった。
宿の窓からスズキを乗せた馬車が村の外へ出て行くのを見送る。
「さてと、俺たちもそろそろ動くか」
「うん!」
村自体はそこまで大きいわけでもないので、昨日の間にどういった店があるのかはわかっている。
服屋、魔石を利用した魔法具屋、あとは食料を販売する店舗が少しある程度で、人口も少ない。
それでも村の中では子供たちが元気に走り回り、大人も中には混じって遊んでいたりしている。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんは冒険者でしょ? どこから来たのー?」
と子供たちに囲まれて聞かれる事もある。
村で育った子にとって、冒険者という部外者は何か面白い話を聞かせてくれるのではないかといった好奇心から抵抗なく話しかけられる事も多い。
「私たちはレコアンブルっていう街から依頼を受けてきたんだよー!」
丁寧に答える事もあるし、ゆっくり話をしてあげることもある。
話をしすぎると村にいる間ひたすらつきまとわれてしまうこともあるので程ほどにするようにミーシャも何度かあったことから理解しているが、自分より小さな子が目を輝かせて聞いてくるのだから答えたくなる気持ちも分かる。
そして、そんな話を聞いて育った子どもだからこそ、成長すると村から出て冒険者を目指すようになる。
狭い環境の中で、外の様々な話を聞いて育つのだから憧れてしまう。
グレイブも村出身で、憧れから冒険者を目指していまがあるといっていた。
街に比べて村育ちは職の選択が少なく、それならば一旗揚げようと街や国に行くも商売はツテが命。
よっぽどの商品出ない限り成功する可能性は少ないことから、まだ窓口の広い冒険者になりたがる。
逆に冒険者から、その間に得た知識や、関係を上手く使って商人として成功する者はそれなりにいるらしい。
異世界育ちのスズキも今の間に資金と経験を積んで、最終的に何か店を持ちたいともいってたぐらいだ。
「ミーシャ、そろそろいこうぜ」
ミーシャは少しの間、子どもたちに囲まれながらお話をしていたが、俺の声を聞いて子ども達に別れを伝える。
「ぇー!もう終わりなの-? お兄ちゃんも、お姉ちゃんに向かって呼び捨ては駄目だってお母さんがいってたから、いっけないんだー!」
「うっせぇ! もっと走り回っとけガキども! 俺のほうがミーシャより年上だ! 」
「わー! おこった-!」「絶対うそだぁ!」「にげろー!」
子供の一人がまるで恒例行事になってしまっている姉と弟といった勘違いをかましてくるので、少し怒ったふりをするように眉間にシワを作りながら子供たちに向かって声を発する。
子供たちも真剣に怒っているわけでないと口調と顔づくりからわかっているのか、笑いながら逃げるように去っていった。
「もー、お兄ちゃんも大人げないよ?」
「……はぁ。どこいっても大体これだぜ? そんなに俺って威厳ねぇのか?」
「そんなことないって~、それに私がお兄ちゃんはお兄ちゃんってわかってるんだから、ね?」
「俺がミーシャより背が高くて、手を伸ばすのが苦じゃなかったら頭でも撫でてやりてぇよ」
「代わりに私が撫でてあげようか?」
「調子乗んなって」
そういって少し自分より頭の高いミーシャの頭をガシガシと撫でる。
「撫でるならもっと優しく!」
「うるせぇ!」
昼間はゆっくりと村の中にある広場のイスに座ったりして、陽を浴びたり、買い物でないか珍しいものでもないか、名物はないのか、といった風に過ごした。
名物といったほどではないが、村の中には川が流れており、村の隅のほうでは、釣り場の提供、釣り竿の貸し出しをしていたので、小さい魚ではあるが釣りを楽しむこともできた。
「私、釣りって初めてー!」
「俺も久しぶりだな。釣り竿は荷物になるしなー」
釣った魚はその場で調理してもらうか、戻すかといった具合で、すでに食事は済ませてしまっていたが、せっかくなので1匹づつはということで焼いてもらったりもした。
食事を楽しむっていうのも、冒険者として一つの楽しみだと思う。
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