25.

 


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 街に到着し、依頼をこなし、冒険者としての生活は随分と落ち着くようになった。



「そっちに行ったぞ!」



「ははは!ファイア!ですよ~」





 今はグレイブを除いて3人で依頼を行っている最中だ。



 オオカミの形をしながら、牙に毒のある魔物。その毒自体、正しい治療さえ行えば酷くなることはないのだが、放置してしまうと徐々に晴れてしばらく麻痺が残る。

 やっかいな点は、この魔獣の毒をおわされた別の魔獣を知らずに食べてしまった場合、直接体内からとなるため、噛まれた一部分だけでなく、全身にしびれが発生する。




 単体なら4等級依頼でおわるものの、10~20匹の群れが村の周辺にいたため、3等級依頼として張り出されていた。





 グレイブも誘ったのだが、ちょうど入れ違いで別の依頼に向かったようだ。




 スズキにも声をかけた結果、暇をしていたようで一緒に依頼を受けている。




「スズキさん! 横から来てるよ!」



 ミーシャは魔法を別の個体に放っていたため、すぐに対応できないと思い声をかける。




「ははは、了解です!」



 スズキは迫ってきていた魔獣の攻撃を避ける。



 目標を一時的に失った魔獣は、視覚の中に入り込んだミーシャめがけ、行く先を切り替え襲いかかるが、それも予期したかのようにスズキの武器である弓の矢で貫かれて絶命する。




 ギャイン!




 そんな悲鳴が数度響くと、辺りには魔獣の死骸が転がっている。




「よし、この辺は終わりだな。1、2と……8匹か。少し少ないな」



「っていうことは、まだ辺りにいるってことだよね?」




 俺とミーシャは辺りを探るが、周辺には他にいないようで、一旦武器を鞘に戻す。



「ははは、ジン君とミーシャさん、近くにはいないようなら一旦休憩を挟みませんか? 2人のように自分はそんなに若くありませんからね~、ははは」




 そういったスズキは水筒を取り出し、飲み水を飲む。




「あぁ、そうだな。少し休憩してから辺りを探して、それ次第で一度村まで戻るか」




 近くにある切り株や、岩など、休めそうな場所に腰の落ち着かせる。



「はぁ~、さっきはびっくりしたな~。スズキさんの所に行ったと思ったら、急にこっちに襲ってくるなんて!」



「ははは、その割にはしっかりと向かい合う体勢を取っていたじゃないですか~」




 誰でも急に襲われると硬直してしまうことがあるが、目に見えている敵はいつ方向を転換し、いつ攻撃対象を切り替えるかわからない。



「お兄ちゃんに随分こってり指導とかいって、魔法禁止でって条件を出されて依頼も受けされたおかげかな~? 少しぐらいなら前よりも動けるようになりましたよ!」



「俺が魔法を使えないってのもあるけど、やっぱり魔法を主軸にしているやつって魔法に頼りがちだからな。それに魔法の特訓なんて体力あまってんなら後からでもできるだろ?」



「ははは、自分なんて弓を放つ力に風属性の魔法を加えて放っているので、なんともお恥ずかしいですね~」




 スズキは近距離を得意としていない。




 出会った当時からしばらくは魔法だけに頼ってしまっていたが、魔力の量が多いわけでもないらしく、それでも剣などは最低限ふるうしか出来ないって事で弓を武器として選択している。





「でもスズキさんの矢に魔力を込めるのって結構難しくないの?」



「スズキは結構器用だよな?」



「ははは、そうですかね~。それに魔力を矢に込めてるって訳ではないのですよ~」



「でも魔法は使っているんですよね?」



「あれだ、スズキは風魔法で矢が逸れないように道を作ってんだよ。矢を放つと同時に風魔法を使って、相手までの道筋を作るようにしてるんだっけか。矢はその道を通るように強制されて、さらに風魔法で後押しもするからスズキの細腕でも相手まで矢が届く……だっけか」



「ははは、大体そんな感じですね~。これも感覚が慣れるまで大変でしたよ~」



「へ~、わたしも覚えた方がいいのかな?」



「弓を使うならそれでもいいけど、たぶんミーシャの方が魔力はあるだろ?スズキの場合は俺とおんなじで魔力が少ないから大それた魔法なんてろくに使えないんだよな。だからこんな方法に頼っちまってるだけだしな」



「ははは、ですね~。ミーシャさんならもっと魔法を活用した戦闘方法の方が恐らく合っているとは思うのですが、自分も出来ないことを教えることはできませんので~」



「あれ?でも異世界人の人ってどんな魔法でも使えるんじゃなかったっけ?」




 異世界人の中でも得意な魔法の属性は存在する。それでも俺のようにできない、発動しない属性ってものがない。



 理由としては色々と上げられてるらしいが、正直その辺りになると俺にはわかんねぇ。その理由のうちの1つを昔の異世界人が書いた本だってあるらしいし、興味があるやつだけ読めば良いと思う。




「ははは、原理上はスゴイ魔法も使えるんですよ?それはジン君だって同じなんですがね~」



「だな、それでもやっぱり俺たちには魔力が足りねぇからどうしても大きなやつを発動しよとおもうと無駄に魔力だけ吸われて発動どころか暴発する事もあるからな」



「あぁ~、なれない魔法あるあるだよね~、私の場合は未発動になるかな?でも、やっぱりその魔法を実際に見たことないってのがどうしても引っかかっちゃうんだよね~」





 魔法は想像上のものを具現化するような作業である。


 だからこそ、詠唱などせずとも魔力を込めるだけでも魔法は発動することができる。



 見たこともない魔法の場合、自分自身で具体的に想像することができないのだから、発動する事が難しい。


 なんとなくな想像をする事はできるし、それがきっかけになり、何かを掴んだかのように魔法を覚えるものもいる。



 しかしそれも殆どの者が具体的な形にすることができないので未発動で終わってしまうのだ。




「まぁ、文書だけじゃしかたねぇよ。魔法書とかならいっきにたたき込んでくれるから楽だけど、あれは値段の差が激しすぎるからな~」



「ははは、ですね~。自分なんて有り金を全部はたいて買った魔法書が外れだったこともあるんですから、やはり専門的な場所で学ぶ方が魔法使いの方には有効的ですね~」




 休憩もそれなりに取ることができたし、そろそろ辺りの探索に向かおう。


 日もまだ夕暮れにさしかかろうとしているぐらいで、完全に日が落ちる前に村に戻っておきたいし。


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