夕食までの時間は主にジンが話をする。



「でさ、4等級になってすぐは討伐関連を良く受けるようにしてたんだけど、基本なんてやっぱり基本なんだなーって実感したし」


「依頼は別に1人で受ける必要もないから仲間集めるのもいいんだけど報酬の山分けで揉めることも多いんだよー、最初から1人あたりいくらで数人募集とかもあってさー」


「で、ブランモロスってわかる?そうそう、よく市場に並ぶやつ。あいつ死んだら色変わるんだよ。あ、父さんと母さんはしってたか。ぇ、ミーシャも知ってたって?」


「人の世話するのが好きなごっついおっさんにつかまってさー」





 あっという間時間は過ぎる。ジンがいた時は家政婦を雇っていたので食事も昼、晩とよくあったのだが、ジンも出て行ってミーシャも大きくなり、2人も家での時間が増えたため雇うのは辞めてしまったとのこと。代わりにミーシャがもっと魔法を使えるようになりたいと言ったのでそちらの教師は週に2日きてもらっているらしい。






 窓から入ってきていた光がいつの間にか随分と弱くなっている。時間が進み日は落ち、月が昇る時間になったのだ。




「さてと、そろそろ行こうか」


 と父親が先人をきる。




 冒険者として活動していると食事の時間はいつもバラバラで、約束がない限りは結構遅くに済ます時や、食べないことだって結構あった。まぁ、食べたくても金銭の都合で食べれないとかも。





 食事には昔何度か家族でいったことのある酒場にすることに。もっと良い物を食べさせたがる両親の配慮に「懐かしみたいし、明日は母さんの作った食事が食べたい」なんていうとあっさりと受け入れられる。





 家を出て父とミーシャが前を歩き、少し離れて母とジンが肩を並べるように歩く。


 近くで見るとたくましくなったな、とか、男の子っぽくなったとかを近くで言われるのなんだか照れくさくなってしまう。







「あら……戻ってきたのかしら」「やっかい払いじゃなかったのかしら」「おいあそこの」「昔いた金髪の」





 家の近隣であった人達には久しぶりだと言って貰えたのに対して少し離れると視線、軽視された会話が聞こえる。


 横に歩く母はそんなことお構いなしでジンの成長を横でニコニコと喜び話すが、先程までと少し違い声に力が入っているように話しかけてくれていた。








 酒場では父と4年越しの酒を交わす。料理の一品にはブランモロスの肉も並べられた。




 酒は子供にすれば苦い飲み物だったが、冒険者になってからは出会った冒険者と飲みに行くことも多々あったために今では美味しいと思ってしまう。一つの成長だろうか。






 また酒には果汁酒というものもあり、母とミーシャはそちらを頼むが、母は酒がすぐ顔に出るがまだしっかりとしており、ミーシャはゆらゆらと楽しそうに揺れながら食事を取りながら母の遊び道具にされる。




「この子ったら13才のいきなり『ジンがさらわれたあぁあ!』なんて泣きながら帰ってくるのよ? まさかと思って詳しく聞いてみると近所の公園にいた犬に勝手に【ジン】って名付けて飼っていたの! その子がどこかにいっちゃったからって」




「お母さ~ん! そ、れわぁ……いわないでぇ~…」





 父はいつかジンと酒を交わしながら食事をしたいと手紙でも良く送ってくれていた。15の時なんてわざわざ苦い飲み物を飲みたくなかったのですぐに違う甘い飲み物だったりに変えていたし。






「ジン、3ヶ月前に起きた【バルストルガ帝国】と【アルストラス国】の戦争について何か聞いたりしたかい?」




「相変わらず噂ばっかりかな」





 当時は全く親の仕事なんて気にしたことがなかったのだが、両親は情報をまとめ、記事にしながら国中に知らせるといった仕事をしていた。なので国同士のいざこざには他の人に比べて敏感であるが、冒険者同士の情報網というのは侮れるものでなく、広まる速度なら圧倒的に冒険者たちの方が早い。





 そして今出てきた2国は戦争を行っていた。


 その割に随分と早く、そしてどこにも予想できない結果として終結している。





「やっぱりそうか、兵士達は自国に関する話はしてくれないのはわかるのだが、冒険者にもまだ広まってないか」






【バルストルガ帝国】と【アルストラス国】の戦争は帝国が戦争をしかけた。まぁ隙を狙っての襲撃ではあったらしい。




 バルストルガ帝国は東の大陸の半分ほどを自国として扱っている国で、アルストラス国は南の大陸に存在する国。本来ならあまり接点のないものだが、アルストラス国は3年ほど前に王が交代。


 その王交代によってアルストラス国は随分と外交的な国になり、周辺国家に対して【優しい国】になろうとしていたのだが、そこにつけ込もうとバルストルガ帝国は攻め入った。





 ここまでは誰でも知っている話。






 帝国は冒険者が住まわない国。依頼討伐は自国の兵にて済ますほどの兵力を持つ国で、集めると250万には上る兵士の人数。


 そのうち攻め入ったのは50万人だが戦力差は圧倒的。帝国50万に対し、4万の兵の数しか集めることのできなかったアルストラス国。


 それなのに対してアルストラス国は敗戦する事無く、平和的な条約を無条件で結ばせて撤退させたほどだ。





 帝国に対して大打撃を与えて撤退させ、当初交渉の場すら設けようとしなかった帝国がそれにより交渉の場を設けるほど。






 大国が小国に対して本来ありえない措置。よっぽど何かない限り実現しないような出来事にどの国でも話題になるが、なぜか情報が流れてこない。


 もしかしたら本当の情報もあるかもしれなが、噂が多すぎてどれが本当かわからない状態がすでに3ヶ月も続いているのだ。






「数千人が大規模魔法を行使したとか、帝国に暗殺者を紛れ込ましたとか、魔王が荷担したとか、特別等級が出てきたとか、そんな噂ぐらいかな」




「う~ん、ま~たおと~さん、お仕事のはな~しばっかり~、わたしもジンとはなす~」




「ミーシャちゃん、今日はお父さんとお母さんがジンをお話をいっぱいするのよ」




 ミーシャと母が横から入ってくる。




「ならミーシャが~、あしたぁ、いちにち~じんとあそぶぅ~」






 いつの間にか結構呑んでいたのかもしれないがミーシャはテーブルに顔をつけて寝てしまう。





「ジンもすまないな、うちでも結構話題になってしまっているから少しでも分かればと思ったんだが」




「いいよ父さん。俺も普通に気になる出来事だし、いつかアルストラス国には言ってみたいなって思ってたし、先になにかわかったら教える」




 食事を終え、ミーシャはふらふらと足をおぼつかせながらジンの肩を借り、帰路につく。


 そんな姿を距離を置いて両親に見守られながら。





「まるで弟が酔っ払った姉を介抱しているみたいだ」


「あらあら~」







 自宅まではまだ少し距離がある。そしてすれ違う人には時折


「あの家族もしかして……」「奴隷もどきが帰ってきたのか」「いびつな家族め」








 大丈夫。大丈夫。


 4年で随分大人になれた。


 この街の人は悪い人ばかりじゃないことも知ってる。


 いつも気にかけてくれていた家族ぐるみで仲の良い家庭もあった。


 視野が狭かったのはあの時の自分であって今の自分じゃない。









 だから


「2人とも、俺は大丈夫! 育ててくれてありがとう!」





 手紙でなく言葉で伝えたかった事がようやく伝えることができた。

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