第17話「二人の子供」

これは、会社の同僚であるK子さんから打ち明けられた話です。


以下、K子さんの語り。


その日は、雨が絶え間なく降っていました。


知人の葬式の帰り道、六歳の息子を連れて、二人で傘をさしながら歩いていた時の事。


手を繋いでいた息子が、ふと、私の手を振りほどいたんです。


執拗な雨のせいで早く帰りたかった私は、


「もう何してるの、早く帰るわよ」


と、振り返り、息子に言いました。


が、その時です。


振り返った先に息子はいました。


ですが、一人ではなく、二人……。


何を言ってるのかと思われるかもしれませんが、信じられない事に、私の目の前には、身に付けた衣装も、その顔も形も、全く瓜二つの息子がいたんです。


もちろん私の息子は双子なんかじゃありません。


一人息子です。


もう訳が分からず、


「えっ!えっ!?何で!?」


と、一人混乱していた時です。


二人の息子が、ほぼ同時に、


「ママぁ……」


口を歪め、ニヤァっと笑ったのです。


「あぁっ!うぁぁっ!」


気が動転した私は、目の前にあった小さな息子の手を取り、強引に引っ張りました。


持っていた傘も捨て、その手を掴んで必死にその場から走ったんです。


息を切らせながら一度だけ振り向くと、泣きながら私に引き摺られる息子と、その遥か後方に、傘をさして一人立ち尽くす、もう一人の私の息子が、此方をじっと見送っていました。


その後は無我夢中でした。


家に帰り着くと、息子はわんわんと泣いていて、そんな息子を抱きしめながら、私も声を上げて泣いていました。


ですが、それから十年が立った時です。


近所の土砂から、身元不明の子供の骨が、発見されたんです。


近所では結構大きな騒ぎでしたので、私も気になって野次馬に混じっていたんですが……。


見てしまったんです……次々と警察や消防隊の方が運んでゆく物の中に、十年前、私の息子がさしていたあの傘を……。


ボロボロで錆び付いた鉄クズでしたが、私にはそれが、昨日の事のように、明確に、ハッキリと、あれが息子がさしていたものだと、分かったんです。


以上が、K子さんが私に打ち明けてくれた話です。


最後にK子さんはこう言ってました。


最近、息子の行動や言動が変なんです……。


何もない虚空を見上げニヤニヤと笑ってみせたり、ブツブツと、独り言で誰かと喋っていたり……今家にいる息子は、本当に、私の息子なんでしょうか?


と……。


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