第16話 再びネメシスへ
再び避難した森の中で、アトラスはオルフィの拘束を解いた。恨めしそうに見上げる眼差しなど気にも留めず、ジャックに周囲を探らせる。
「赤海まで行けるかなー?」
「さあな」気のない返事をしてから、アトラスはひとりごちた「先に見ておくか」
「もう目と鼻の先なのでしょう? 一気に行ってしまった方が、」
「ハストラングの城へ着くまでは力を温存しておきたい。ハリスと戦うなんてもっての外だ」
「それはまた、ずいぶんと慎重なことで」
揶揄するオルフィにもアトラスは「当然だ」と至極真面目な顔で応えた。
「考えるまでもない。お前よりも強い俺よりもハリスは強く、ハストラングに至っては規格外に強い。この状況で勝算があるとすれば、ハリスとの交戦を避け、弱っているハストラングに奇襲を仕掛けるくらいだ」
正々堂々とは真逆の作戦を恥ずかしげもなく言い放つ。呆れてものが言えないミアとオルフィを置いて、アトラスは姿を消した。カボチャも一緒に。
残されたのは元・追う者と追われる者。思えば、二人きりになるのは初めてだった。居心地の悪さを覚えながらもミアは歩み寄ろうと努めた。
「……あの、どうしてベルを返したの?」
理由を問えばオルフィは「あの人は元々、荒事には向いていないんです」と答えた。
「姫様もご覧になったかと思いますが、彼女の占星術の腕は平均程度です。導師の研究の手伝いや見習いの世話やらで、天星宮の外に出たこともなければ戦闘訓練を受けているわけでもない。マレと戦うには不適格です。役立たずと言っても過言ではありません」
もっともらしく酷評してはいるが、オルフィがわざわざ〈転移〉でベルを天星宮へ送る理由になっていなかった。
「ベルはそれで納得したの?」
「いいえ。埒が明かないので強制的に〈転移〉して置いていきました」
ミアとしては安心だ。しかしベルはきっと怒っているだろう。
「僕はあの人が苦手です。変な勢いがあるというか、調子が狂うというか、とにかく苦手なんです」
ミアは眉を顰め、次いでオルフィの襲撃を受けた時のことを思い出した。
彼はこの度天星宮の放った追手で一番の実力者だった。アトラスがいなければミアは殺されていたかもしれない。何しろ攻撃を全く察知できなかったため、初撃を喰らったベルはあっけなく昏倒ーー気を失っただけだった。
そう、狙い違わずにベルを撃ったにもかかわらず、彼女を殺さなかったのだ。天星宮の掟を重んじる優等生にはありえないことだった。それに、オルフィはベルを返したあと一人アトラスの元に戻った。そういう取引を彼は交わしたのだ。
「ベルを無事に帰してくれてありがとう」
「あなたのためではありません。それに今頃、あの人はライラ導師にこっぴどく叱られていることでしょう。天の星々の形を読むように、常に大局を見据えるべき星読師が目先のことに囚われたら一体どうなるのか、身をもって知るといい」
ともすればオルフィの突き放した物言いも、憎まれ口に思えて微笑ましい。ミアはベルが羨ましかった。帰ってきても、自分はきっと叱られもしないのだろう。ただ〈眠りの茨〉を掛けられるだけ。
「あともう一ついいかしら?」
ミアは慎重に言葉を選んだ。
「例えばの話だけれど、突然星読師の行方がわからなくなれば、大騒ぎになるわよね?」
オルフィは怪訝な顔をした。質問の意図をはかりかねているようだった。
「行方不明になった星読師にもよりますが、騒ぎにはなります。現にトレミー=ドミニオン失踪の混乱を収めるのに、天星宮は一年もの歳月を要しました。もっとも彼の場合は星騎士だったのと当代最高の星読師という要因がありますから騒ぎにならない方がおかしい」
「普通の星読師だったら?」
「まあ……僕の記憶に残る程度には騒がれるでしょうね。天星宮の占星術には門外不出のものが多くありますから」
いよいよオルフィは疑わしげに顔をしかめた。
「それが何か?」
「い、いいえ、何も……」
「何もないようには見えませんが」
「マレがこちらの内情に詳しいから、もしかしたらと思っただけ」
あながちデタラメでもなかった。極星の姫、星騎士。厳重な警備体制にあるはずのものをたて続けに奪われているのには、なんらかの原因があるはずだ。
「僕の宮入り後、行方がわからなくなった星読師はドミニオン導師一人です。その可能性があるとすれば彼ですね」
それではまるで、トレミー=ドミニオンが内通者のようだ。同じ門下だというのに、えらく冷たい言い方だった。ベルには多少なりとも情を抱いているのに。
「あなたの兄弟子でしょう?」
「ええ。たかだか五年程度同じ導師について、挙句星騎士の役を僕に押し付けて雲隠れした兄弟子です」
そこまで言うか。厄介者呼ばわりされた星騎士を助けにいく身としては複雑な心境だった。
「……好きではないことだけは、よくわかったわ」
「ご納得いただけたところで僕からも質問を一つ、お許しいただけますか?」
「どうぞ」
「ベルから聞いたのですが、星騎士イオを救出するためだけに、あなたはこんな大事を引き起こしたのですか?」
ミアは身が竦んだ。こちらを見るオルフィの目には軽蔑と怒りの色が濃く映っていた。極星の姫の軽率さをオルフィは責めていた。それはとりもなおさず天星宮の星読師達の大半が同じように憤るということだ。
「十四年以上、天星宮は御身を護るべく尽力して参りました。その結果がこれでは、誰も納得できません。何かお考えあってのことかもしれませんが……あまりにも身勝手ではありませんか」
「ごめんなさい」
「心にもない謝罪を口にされても無意味です」
「悪いとは思っているわ」
取り繕うように言うミアに、オルフィは冷笑した。
「本当に申し訳ないと思っていらっしゃるのなら、ほんのわずかでも王国のことをお考えになっていたのなら、のこのこ極星を持ってマレの地に行くはずがないでしょう」
ミアはそれ以上何かを言うのを止めた。オルフィとて弁解を求めてはいないのだろう。以前の自分だったのなら、申し訳なさで胸がいっぱいになって、もしかすると涙を流して天星宮に戻っていたかもしれない。しかし今、ミアはさほど罪悪感を抱いていない自分を認識していた。オルフィの言っていることは当たっていた。
ーーおかしな話じゃないか。マレから守るのも命を賭けるのも君だというのに。
天星宮の星読師達に自分を責める資格があるのか。ハリスの言葉が耳を離れなかった。
マレの海をカボチャが漂う。
「どんぶらこー、どんぶらこー」
波音に混じった敵陣に乗り込むには些かのんびりとした掛け声を、ミアは座って聞いていた。カボチャの中で。
「個性的な掛け声ね。マレに伝わるものなの?」
「違うよー。どっかの国のお話からでわっぷ!」
波が顔に当たったらしい。
「大丈夫?」
ミアは寄りかかっていた内壁から身を乗り出した。
「問題ないよー」
元気な返事は外から。それもそのはず、ミアは今ジャックの中にいた。正しくは、ジャックの中に作り出した異空間の中ーーアトラスの占星術が成せる技だった。召喚系占星術の応用らしい。ひとかかえほどの大きさしかないカボチャの中に、一部屋くらいの広さの仮想空間を作り、定着させる。オルフィはしきりに驚いていたが、ミアは「〈転移〉できればもっと簡単に行けるのに」と元も子もないことを思った。ネメシスで育ったアトラスならば座標の特定もたやすい。
しかし世の中そうそう上手くはいかないもので、一見なんでもそつなくこなすアトラスにもできないことがあった。〈転移〉だ。聞けばアルディールへくる際もこうして地味に向かったらしい。
カボチャと一緒にゆらゆら漂うアトラスを想像し、ミアは小さく吹き出した。
「何が可笑しいのです?」
不機嫌さを隠そうともせずにオルフィが訊ねる。かく言う彼もミアに向かい合うように腰掛けていた。二人から少し離れた場所にはアトラスが立っている。腕組みした状態で壁によりかかり瞑想中ーー仮想空間の維持に努めているようだ。
「前に読んだ本を思い出したの。オニという悪い怪物退治に勇者が島に向かうのだけれど、その乗り物は果実だったような覚えがあるわ」
なにぶん幼少の頃に読んでそれっきりなので記憶もあやふやだが、大きな果物に乗るくだりは印象に残った。
「おとぎ話ですか」
オルフィは落胆と嘲弄を露わに呟いた。
「夢見るのも結構ですが現実にも目を向けていただきたいものですね。極星の姫がマレと手を組むなんて、末代までの恥です。全く嘆かわしい」
言外に姫失格と罵られる。極星を宿す身でありながら勝手に行動している自覚はあるので、そう責められてしまうと萎縮する他ない。以前の、ミアならば。
「鼻の下を伸ばしてスピカと踊っていた星読師に言われたくないわ」
「僕は鼻の下を伸ばしてなんか」言いかけてオルフィは眉を寄せた「ちょっと待ってください。なんであなたがそれを知ってるのです!?」
「身に覚えがあるようね」
「はぐらかさないでください。どうして舞踏会を欠席した方が」
「はぐらかしているのはあなたでしょう。見苦しいわ。それでよく星読師を名乗れるわね」
「な……っ!」
オルフィは絶句した。目を丸くしてミアをつま先から頭の上まで見やる。
「な、何があったんです? ずいぶん、その、心象が……」
何があったかなんて愚問だ。敵味方から襲われ続ければ廃れもする。天才とちやほやされ続けたオルフィには想像もつかない修羅場をくぐり抜けてきた自負がミアにはあった。
「平和で安全な天星宮に帰りたいのなら引き止めはしないわ。どうぞ、ご自由に」
ミアは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。話すべきことなどない、という意思表示だ。
「喧嘩しないでーねー」
挙句マレにたしなめられる。気まずかった。とても。
もとよりミアとオルフィはあまり面識がない。有事の際には殺される側と殺す側になるという前提があるため、暗黙の了解で互いに関わらないようにしている。ミアが天星宮内を出歩くことも少ないので挨拶をかわすこともない。こんなに話をするのは初めてだった。
「帰れるわけないでしょう」
オルフィは拗ねたように言った。あからさまな迷惑顔。立場をわきまえない極星の姫を疎ましく思っているのがありありとわかる。
負けじとミアは悪態をついて視線を他所へやった。隅で我関せずとばかりに瞑想するアトラスに。その顔はどことなく青白い。
「アトラス?」
ミアが声を掛けるも反応はない。術に集中しているのだろうか。いや、仮想空間を作り出すのは高度な技だが、一度展開してしまえば比較的簡単に維持できると言っていた。それに、気のせいかアトラスのこめかみには汗が浮かんでいるような。
不意に大きな波がジャックを直撃。空間もろとも大きく揺れるのとアトラスが口元を押さえて屈むのはほぼ同時だった。
「えっ……っ!?」
これには二人揃って驚いた。
「大将ー、だいじょーぶー?」
落ち着いた、というよりはのん気なジャックが訊く。
アトラスは口を覆ったまま「早く行け」と一段と低い声で言った。
「でも急いだらもっと揺れちゃうよー」
小生意気な配下の指摘にしかしアトラスは何も反論しなかった。
「まさかとは思いますが」オルフィの頬がひきつる「船酔い……ですか?」
「ぴんぽんぴんぽーん」
苦しむ主にはお構いなしに明るく答えるジャック。カボチャはどこまでも無邪気で残酷だった。
「病気なの?」
「体質の問題です。乗り物の揺れが苦手で気分が悪くなる、ということです。陸に上がれば治りますので心配するほどのことではありません」
「アトラスが、乗り物に?」
「ええ、あれだけ偉そうにしているマレですが、揺れには弱いのです。ただそれだけのことです」
「苦手なのは船だけだ」アトラスが気丈にも訂正する「他人を虚弱者呼ばわりするな」
と、地の這うような声で凄まれても、あまり説得力はなかった。おまけに今のアトラスは見るからにぐったりとしている。鋭い眼光からも切迫感しか伝わってこない。
「もう少しの辛抱だよー」
ジャックが励まして間もなく、再び波に大きく揺れる。アトラスは喉を詰まらせたかのように小さく呻いた。
ネメシスに足を踏み入れるのはこれで二度目だ。
赤い海に囲まれた島はとにかく暗い。海岸沿いに広がるのは黒々とした木々が生い茂る森。空を見上げれば厚い雲で覆われていて、星一つ見えない。仮に見えたとしてもマレフィックに染め上げられた星は一様に赤く禍々しく輝くのだろう。
あからさまに表には出さないものの、オルフィは初めてのネメシスにかなり興味を示しているようだ。しきりに空を仰いだり、ホロスコープを起動させたりして調べ物をしている。が、あまり長く居続けたら彼の抱く星も赤く染まってしまうかもしれない。
少しでも早くオルフィを天星宮に返さねば。ミアはアトラスの姿を探した。
周囲の偵察をしていたのだろう。森から出てきたアトラスは足元を跳ね回るジャックを蹴っ飛ばして追い払い、肩で大きくため息をついていた。心なしか、その顔はまだ青白い。
「大丈夫?」
「とりあえずハストラングの城は静かだ。目立った動きもない」
「そうではなくて」
「あの星読師ならジャックに送らせる。約束は違えねえ」
「いいえ、そうでもなくて……その、顔色が」
アトラスは僅かに目を見開いた。
「……別段支障はない。陸に上がりさえすれば勝手に体調も回復する」
ならば安心だ。ミアは「良かったわ」と正直に言った。途端、アトラスは怪訝な表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「いや」言いかけて、アトラスは視線を逸らした「相変わらずだ、ここは」
暗黒の島と呼ばれるネメシスは、イオとして乗り込んだ時と全く変わらない様相だ。長年この島で育ったアトラスならばなおさらそう感じるのだろう。何故今になってそんなわかりきったことを口にするのか、ミアには理解できなかった。
「何が?」
アトラスは無言で顎をしゃくった。
静かに寄せては返す波の赤海。その向こうにあるのはベネの領域である大陸だ。
「あ……」
ミアは言葉を失った。雲一つない夜空に散りばめられた星々が輝いていた。闇夜をあまねく照らそうとするかのように白銀の光を注ぎ、大地を祝福していた。海を隔てただけで、こうも違うのか。
ほんの少しだけ、ミアはマレが極星を手に入れようとする理由がわかったような気がした。暗いネメシスにいるからこそ、大陸の明るさが眩しく、妬ましいのだ。闇夜に閉ざすまでとはいかなくても、つい考えてしまう。満天の星空からたった一つならーーその輝きに手を伸ばしてもいいのではないか、と。
不意にアトラスが呟いた。
「俺がマレになったのは、生まれてすぐだ。記録に残るはずもない」
森でのオルフィとの会話を聞いていたのか。返答に窮したミアに、アトラスは「耳はいい方なんでな」と肩を竦めてみせた。
「何故奴に言わなかった? 天星宮が把握していない事実だぞ」
アトラス出生の秘密は、前代未聞の〈予言〉のできるマレ以上の意味を持つ。本人は意図せずとも彼は、マレに寝返るベネの存在を示唆したのだ。ただ、胸に抱く〈星〉を赤く染めるだけでマレになれるというのならーーもしかすると、天星宮の預かり知らないところで多くの星読師候補がマレに奪われているのかもしれない。
「……いずれは、言うわ」
ただしアトラスのことは伏せるつもりだ。彼はミアがあの星騎士イオであることを黙ってくれた。もしかしたら嘘なのかもしれないが、だからといって自分が彼の秘密を暴き立てるのは道理ではないと思う。
「たかがマレ相手に、義理堅いことだな」
マレだのベネだとか関係あるのだろうか。ベネがそうであるように、マレだから約束を破っていいはずがない。殺していいはずも。
(でも、そう考えるのは、おかしいのかしら?)
ハリスはアトラスを『日和見する死神』と評した。その根本にあるのは「所詮は元・ベネ」という固定観念ではないだろうか。生まれて間もなくマレとなったアトラスに、ベネに対する忠誠があるとは到底思えないが。
それでもハリスのような生来のマレにしてみればベネは見下すべき存在であり、信用するに値しないーーこれも、マレに対するベネと同じ認識だ。両者の違いは一体何だろう。胸に抱く〈星〉だけなのか。
考えて結局、ミアは話題を逸らすことにした。
「ところで……ずっと気になっていたのだけれど、複製はそんな簡単にできるものなの?」
「作ること自体はそう難しいことじゃねえ。髪一本でもあれば可能だ」
顔を強張らせたミアにアトラスは首を傾げた。
「もしかして、他の連中も入れ替わっているんじゃないかって、思っているのか?」
現にミアやイオの入れ替わりはやってのけたのだ。エヴァやケイル、いや国王の偽物を作っていたとしたらーーミアは悪寒を覚えた。見分けられる自信は全くなかった。
「安心しろ。理論上できなくはないが、やらないーーできない、と言った方が的確かもな」
アトラスは肩をすくめた。
「複製自体は簡単だが、育てるには相当かかる。十五歳の人間を作り出すには十五年の歳月が必要だ。つまり、生まれてすぐに体の一部を入手し複製しなければ、本人と年齢差が生じて入れ替わりには使えなくなる」
安心するべきなのだろう。が、ミアは思わず口元を押さえた。込み上げてくる嫌悪感に卒倒しそうになるのを辛うじてこらえる。
イオは人造人間だから成長しない。老いもしないので年齢差を考える必要はない。時間さえかければ複製し入れ替えるのはたやすいだろう。
しかし、ミアは違う。生まれた時から計画しなければーー目をつけられていなければ、あの偽物は造れないのだ。十五年近くもマレの手の届かない、天星宮の奥深くにいたというのに。
「髪一本くらいなら入手はわけない。食事に毒を盛るよりはるかに簡単だ」
「……そういう問題じゃ、ない」
ミアは声を絞り出した。自分自身を汚されたような不快感。もののように複製されて、利用される。そこにミアの尊厳など、ありはしない。
「じゃあ、どういう問題だ」
アトラスは呆れを隠そうともせずに訊ねた。何を今更、と言わんばかりの態度だった。
「極星を宿した時点でそいつは獲物だ」
「そんな、ひどい……っ!」
「事実だ。マレを正当化するつもりはないが、ベネだってそう変わらない。お前、今まで普通の人間扱いされたことが一度でもあったか?」
普通の人間は胸に『誠心の刃』なぞ埋め込まれない。星騎士を失ったぐらいで眠らされやしない。天星宮の奥深くにひっそりと暮らすこともない。
ミアは唇を噛んだ。尊厳など、生まれた時からどこにもなかったのだ。
「……やっぱり嫌いだわ、あなた」
夢の中で微睡んでいれば知らずに済んだことだ。それをわざわざ突きつけるアトラスを、筋違いだと思いながらもミアは恨まずにはいられなかった。
(信用できない)
マレとかベネである以前の問題だった。悲壮感を全く感じさせず、涼しい顔でそつなくこなすアトラスはミアに劣等感を抱かせる。見透かしたような態度も嫌いだ。
つまるところ、アトラスを信用できないのは、怪しいからではなくミアが信用したくないと思っているからだ。彼の思い通りになりたくはなかった。子供じみたワガママだ。
(ただの、嫉妬だわ)
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