【8話】固有技能の正体(推定)
「……おかしい」
うん、おかしい。
見えてないはずのものが見えるようになった。
いや、妄想が具現化して見えるとか、そういうヤバい方向ではない。
自分の視野外の空間まで、なんとなく何があるのか分かるようになってしまったのだ。
事の発端は数日前、魚を見つけようと躍起になっていたあの日に感じた直感的に何かが居る感覚が日に日に強まっていったのが原因。
ちなみにこの感覚は、俺が【身体強化】の時に血液へと魔力を通した時に感じている感覚に近いようだ。
ただ一つ違う所は、血液のように魔力を流さずとも周囲の魔力が、物質が、立体感が手に取るように分かる所かな。
そしてこれは、実は今に始まった事ではない。
僅かではあるが、死ぬ直前、前世でも同じようなものを感じていた事がある。
そう、俺が異世界に転生する切っ掛けとなった、死亡フラグを回避し続けるあの奇跡のような1時間の最中の事だ。
俺は死ぬ直前、角から曲がってくる見えていないはずの暴走車両を感知したり、同じく見えていないはずの
あの時は単純に火事場の馬鹿力という認識に収めていたが、果たしてそうなのだろうか?
いや、あの世界に魔法が無い以上、まあ火事場の馬鹿力というのはあながち間違った認識ではないのだろう。
しかし、この世界には魔法がある。
ならば、あの時の生への執念が転生時に俺へと作用し、魔法的要素が起因となって
この
まあ実際の所は情報不足で分からないの一言なのだが、あくまでも
【身体強化】も血液が【感知】できる俺だからこそ付与できる訳だし。
つまりまあ、色々考えたけど、あれだね。
ようするに力の正体が掴めたというだけの話。
それ以外は、なんらいつもと変わりない、平凡な日々である。
今も家の外では相変わらず、ディー君とサーニャちゃん、その他わらわらと子供達が集まってきている。
今日は待ちに待った川遊びの日なのだ。
これで罠の成果が出ていれば、村の事業の一つとして父にも相談できるというものである。
「ルーくん! あーそーぼー!」
「ルー! また来てやったのだ! ワハハハハッ!」
「ちょっと待っててー! いま着替え準備してるからー!」
部屋の窓から顔だけ出し挨拶する。
午前中は訓練をしていたので服は少し汗で濡れているが、どうせ川でびしょ濡れになると思えば問題にならない。
とりあえず着替えは母さんに任せ、俺はこのまま行こうと思う。
昔は顔すらしらなかったチビっ子軍団ではあるが、お勉強タイムなどで絆を深めた結果、いまや何をするにも軍団で行動でするようになっているのだ。
待ちかねて駄々をこね始めない内に、二人の下へトタトタと大きな階段を駆け下りていく。
うむ、やはり3歳児の動きではないな、これは。
チート種族万歳。
「おまたせ」
「ルーくんだー! ……くんくん、……ふぅ。やっぱりここが、おちつくー」
俺が降りて来たのをまってましたとばかりに、サーニャがフガフガと突撃してくる。
筋力の低いレイス族のタックルなのでそこまでの衝撃はないが、青白い顔の幼女が目を爛々を輝かせて迫ってくる様は、ちょっと引く物がある。
軽くホラーだ。
とはいえ、これはレイス族の子供の第一次成長期にみられる、気に入った相手の魔力を吸ってしまう種族的な習性らしいので、断りにくい。
最近始まったサーニャの衝動に合わせて、身を委ねるしかないようだ。
「サーニャがまたマーキングしているのだ。ルーがあわれなんだな、ボクもさっきやられたのだ。かんべんしてほしいのだ……」
「でもー、ディーとルーくんじゃ、ぜんぜん味がちがうもん。ディーのはビーキュー品ねー、しゅぎょうがたりないわー」
「吸っておいてそれはひどすぎるんだな。でも、しょうらい狙われたくないからそれでいいのだ」
相変わらず仲良しのようで何よりだ。
ちなみに、このマーキングが大人になるにつれてレイス族の
なんでも、耐性のない相手に魔力枯渇やら麻痺やらの状態異常を振りまくとか。
親しい相手には状態異常が掛らないらしいが、恐ろしい技だ。
サーニャの機嫌は損ねないようにしておこう。
それからは着替えを持った母さんズに引率され、ちょこちょことヴラー村の子供たちが川へと進軍していった。
──☆☆☆──
子供達が川遊びを初めて数分後、俺は以前仕掛けた罠の場所へと赴いた。
そしてその結果はというと。
「(おおっ! 魚が入っている!!)」
【感知】に引っかかる物があったからまさかとは思ったけど、本当に罠にかかっていた。
まずは驚かせないようにそっと近づき、汲み上げた陶器の中を確認。
すると中では、魚が発したと思わしき水しぶきが発生していた。
そう、思わしき水しぶきである。
当然、普通の魚ではない。
陶器の色に偽装されてて目には見えにくいし、手を突っ込むと細長い胴体がヌメヌメとして中々手掴みできないのだ。
なんとなくだが、前世で言うところのウナギみたいな生物が保護色になって掴まっていたらしい。
陶器が細長いからまさかとは思ったけど、ここ、ウナギいるんだね。
いや、正式名称がウナギなのかどうかは知らないけど、それっぽい奴。
取り合えずの成果は出たので、まあ、ベルニーニ母さんに報告だけしておこう。
こう、遊んでたら獲れた、みたいな感じで。
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