森のしじま

@Kaquri

森はいつでも静かだよ

木々が入り乱れ日の光が差す間もない森の中、まったくヒト気のない薄暗い道を何者かが明かりも付けずに進んでいる。


「まったく、君はこんなにも立派な羽が生えているのだから、もう少し神々しく飛んだりできないのかね」


森を包む静寂を破り、旅人が言葉を放った。その言葉に返事はなく、森には旅人の独り言が響いた。しかし、彼を乗せて進んでいた生物は主人の言葉を解したのか、嫌悪の意を表わすようにのそのそと身動ぎした。


「分かった分かったごめん、謝るから僕を落とそうとするのはやめてくれ!」


振り落とされそうになった旅人がその生物の首元に摑まりながら詫びを口にすると、その生物は主人を一瞥し、何事もなかったかのように澄ました顔で前を見た。


旅人が目指しているのは北の街、セントベル。ここらでは一番栄えているその街は、人探しをしている旅人にとって好都合だ。

前の村を出てもう三日は経っている。しかし行けども行けども景色は変わらず、じめっとした空気と土のにおいだけが、永遠に続いているようにすら思える。旅人は民族的な刺繍の入ったポンチョの内側でガサゴソ動くと、どこからか地図を取り出し、その縮尺を確認した。


「前の村で村長が言ってた通りだとすると、もうそろそろ人の気配が見えてきてもいいのだけれど」


困り顔で頭を掻きつつ、地図から顔をあげた。そして前方を鋭く見据える。蛇のような黄金色の目が一層鈍い輝きを増した。あたりをぐるりと見渡していると、旅人を乗せている生物が、辛抱ならないといった様子で低く唸り身動ぎをした。


「ああ、ごめんごめん。次からは気を付けるよ」


旅人が興奮したその生物をなだめるように、その身体をさすった。

平謝りしながらも、旅人の表情は明るい。少々荒々しいやり方ではあったが、欲しい情報は得ることができたようだ。

旅人は今にも鼻歌を歌いそうな様子で再度地図を見ると、指で地図をなぞるようにして向かう先を確認した。ふんふんと何かを確認し、地図をポンチョの中へとしまい込むと、自分を乗せるその生物に体を預け、心地の良い眠りへ旅立っていった。

森にはまた、静寂が戻った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る