#11 災厄の魔女



 オレ達は休憩所で眠ることで体力を回復させた。


 ガキの方は何とか安定はしているが熱は上がる一方だ。流石に闘わせるのはまずい。

 とはいえ、置いていくわけにもいかねーか。


 ピエロに預けるのは納得いかねー、ならどうする? コイツを連れて魔女を殺りに行くか?

 駄目だ、足手まといにも程がある。やはり置いていくしかない。サクッと倒して迎えに帰ってくれば何とかなるだろ。


 オレはフワフワ飛んでいるチーノを摘みとり肩に乗せる。チーノは少し驚いた表情をした。


「魔女を殺しに行く。手伝え。」


「勿論ですの! でも……ミアは?」


「置いていく。」


「そう、ですの……仕方ない、ですの。」



 オレは眠るガキの枕元に残りの回復薬を全部置いて休憩所を後にした。外の吹雪は晴れている。しかし謎のドーム状の壁は健在だ。

 ラピスラズリ、北の彼方に広がる未開の地。その方面を見てみると黒いオーロラみたいなやつが空から溶けるように降ってやがる。

 不気味な空だ。クソ、とっとと終わらせる。


 オレは堕天使の翼を発動させてそのオーロラの落ちる空を目掛けて飛んだ。


「ネロさま! あの下に魔女がいますですの! チノレットにもデータが表示されない完全なunknownとして確かに何者かが存在するですの!」


「……そいつが魔女、か。いるならちょうどいいじゃねーか! このまま世界ごとぶっ壊されても色々困るんだよ! クソ魔女がぁっ!!」




 すぐに黒いオーロラの降る地点まで到着した。

 ここまで来るともはや別の世界のようだ。意識せずとも勝手に不快な呻き声が聞こえて来やがる。気をしっかりもたねーと、一気に持ってかれちまいそうだな……


 とりあえず降りてみるか。


 オレは堕天使の翼を解除、地上に降りる。確かに何かいやがる。オレはソイツのいる方へゆっくり歩みを進める。

 ソイツはピクリとも動かねー。オレは構わず歩みを進めていく。……女がいる。

 白い髪の、女、アレが魔女か?


「おい。」


 女はオレの声に全く反応することなく目を閉じてやがる。眼中にないってか。

 それならお構いなく仕留めてやる。


「漆黒の魔眼展開、全方位から標的に一斉射撃! その後はオートで連打。」


 無数の魔方陣は魔女を取り囲む。一斉射撃には耐えられない筈だ。メニューを開かずにスキルを使用出来るのは楽でいい。言葉に出すか、思い描くだけで自由に操れるんだから。


「漆黒の粒子砲!」


 オレの声に反応した魔方陣から無数の粒子砲が放たれる。最初の一発は魔女の足元の地面を抉る。その後二発目が魔女に直撃、続けざまに三、四と無情に魔女を撃ち貫く。

 オレは爆風で見えなくなったのも気にせず更に撃ち込んでいく。ここで止めれば大体のパターンでは反撃される。相手のHPが完全になくなるまで撃ち続けて一気に終わらせてやる!


「チーノ! 魔女の残りHPはどうだっ!」


「い、今表示しますの!」


「は、やくしやがれ!」


「出ましたですの! え……?」


「どうした……っ!」


「ま、全くダメージを受けてないですの!」


「な、んだと!? ……っ!」


 どういう事だ!? ダメージがないだと! クソ、一度距離を取るか!


「堕天使の翼!」


 オレはチーノの掴み空へ回避した。その瞬間、また奇っ怪な雄叫びがオレの鼓膜を揺らしやがる。

 頭が痛ぇ……クソ……ふざけやがって! それならまとめて撃ち込むまでだ。


 背後に展開した魔方陣を前方に集めエネルギーを充填する。最大まで、限界まで溜めて撃ち込む。まだだ……まだ、まだ、まだいける……


「ゔぁぁぁっ!!!!」


「ネロさま危険ですの!」


「知るか! 魔王を殺した一撃だ、魔女の一人や二人、なんて事ねー筈だっ! 喰らえやぁっ!」



 耳を突く電子音と共に超極太レーザーが魔女目掛け高速で伸びる。……当たった……!




 …………な、んだ……これ……


 ……から、……だ、が動、か……、


 ……ち、が……う…………これはっ……




 次の瞬間、ガラスの割れるような甲高い音が一帯に響き渡った。それも、一枚二枚が割れたような音ではない。高層ビルの窓ガラスが全て同時に砕けたんじゃねーかと思うくらいの爆音だ。



 ……魔女以外の……時間が……


 ……止まってやがるのか!?


 砕け散ったのはオレの展開した魔方陣だ。魔女の周囲を取り囲んでいた全ての魔方陣が一撃で粉砕されて消えた。


 ……う、腕? ……なんだ、アレは?


 魔方陣を砕いたのは黒い瘴気を纏った腕のようなものだった。それが魔女の背後から無数に伸びて周囲の魔方陣を全て破壊したってか。


「……ぁ……」


 な、何か言ったか?


「……ぁぃゅぁっ!?」


 魔女が目を開けた瞬間、瘴気を纏った腕が一斉に伸びる。まっすぐオレに迫ってきやがった!


 時間が動き出した!? 


 速いっ……クソが、かわすのが精一杯だと!?


「あーれーですのー!」


「チーノ! クソ!」


 チーノの馬鹿が振り落とされやがった。オレは急降下して妖精を掴むとそのまま地面に着地した。

 オレの背後には魔方陣がまだ六つ残っている。オレはそれをまとめて正面から迫る腕に粒子砲を放つ! 直撃した腕は蒸発、しかしその後ろから次がくる。オレがかわそうと再び飛んだ時だった。


「ぐぁぁっ!? クソがっ!」


 左肩に腕が掠る! それだけで灼けるような激痛が走る! まともに喰らったらヤバいぞ!?


「ネロさま! その腕は魔手エビルハンドですの! それに貫かれてしまうとネロさまでも耐えられないかも知れないですの!」


「くっ……今喰らったからそれぐらいはわかるっての! で、ありゃどーすりゃいい?」


「な、なんとか魔女の本体を攻撃するしかないと思いますですの!」


「簡単に言いやがって! やるだけやるか! チーノ、オレの肩にちゃんと掴まってやがれ!」


「はいですのーーっ!?」


 オレは全速力で魔手をかわしながら魔女との距離を詰める。しかしそう簡単には通すわけもないか。それでもかわし、撃ち、を繰り返して何とか魔女の頭上に出た! ここからなら!


「全弾発射!」


 前方にまとめた魔方陣から粒子砲を放つ! それは魔女に直撃した。凄まじい爆発音と共に再び爆風が舞う。オレはその爆風を突っ切り魔女の懐に入った! 次はゼロ距離射撃だ、悪いがオレにMP枯渇の概念はねーんだよ! 何発でも撃ち込むまでだ!


「ぶっ飛べぇぇっ!! クソ魔女がぁっ!!」


 ——————————!!


「何だと!?」


「ネロさま! 相手も粒子砲を放ってきたの! 撃ち合いに持ち込むつもりですの!」


「クソ、上等だ! ゔぁぁぁっ!!」


「@#,?<\34+1\々~+」


「ゔぁぁぁっ、何言ってんのかわからねーってんだよクソ魔女がぁっ!!」


 なんて奴だ。ゼロ距離から撃ったというのに、撃ち合いに持ち込むとかめちゃくちゃだぞ!?


 オレと魔女の距離はどんどん離れていきやがる。押されてるのか……それなら……もう一度、


「漆黒の魔眼! 全魔方陣を集結! これならどうだぁっ! クソがぁっ!!」




 威力を増した粒子砲は一気に魔女を呑み込む! 不快な呻き声が辺り一帯に響いて、その後、一気に静まり返った。


 白髪の魔女は真っ赤な眼を翻しながら反り返り叫ぶ。身体の半分以上が今の一撃で消えた。

 これでまだ立ってやがるのが驚きだ。


「はぁ……はぁっ……手間かけさせやがって。」


「やったですの! ネロさま!」


「さすがに死ぬかと思ったぞ……チーノ、お前のガイドが役に立った。あ、ありがとな。」


「ふふっ、はじめて褒めてくれましたの! チーノは嬉しいですの!」


 オレは展開していた魔方陣と堕天使の翼を解除して貫かれた左腕を押さえる。血が出る訳でもなく、ただ抉れていやがる。ズキズキしてくる。




       足音、



 これも魔女にトドメを刺せば治るだろ。そうと決まればサクッと殺しちまうかな。



          足音、、





「……ネロ? ……チーノ?」



 声がした。背後からだ。


 オレが振り向くと、そこには魔王の娘がいた。歩いてここまで来たのか?

 はぁ……馬鹿なことしやがって。


「良かった……起きたらいないし、心配、し、」


 オレの顔の真横を黒い何かが通り過ぎる。


「危ないですのっ! ミア!」


 魔手だ! オレは一瞬でそれが魔女の放った魔手だと気付いた! それがガキに!


「堕天使の翼!! 間に合えぇっ!」


 オレは無我夢中で魔手を追った! そしてそれを粒子砲で蒸発させる。何とか間に合った!

 目を丸くしてその場にへたり込んだガキはオレを見上げている。……はぁ、良かった。


 コイツが死ななくて、本当に、



 今回は……間に合った……



 ——!?



 その時、突然オレの全身に亀裂が入ったかのように激痛が走った。

 攻撃された? いや、オレは無傷……


 オレは……


 振り返ってオレは戦慄する。



 半壊した魔女の魔手が握る。



 そして、握った妖精を、そのまま潰した。




 ……つぶした?






「……おい……嘘、だろ……?」



 嘘だ、 嘘だ、 嘘だ、 う……



「こ、この死にぞこないがぁっ!」


 オレはその魔手を素手で掴みへし折りまとめた粒子砲で消し炭にした。それを見て魔女はケタケタと高笑いを上げてやがる。


 チーノは地面に落ちる。


 結っていたリボンが解け、ポニーテールがばらけてしまったチーノは、雪の積もる地面でピクリとも動かない。


「チーノ! くそっ、大丈夫か!」



「そ、んな……チーノ……わた、しのせいで?」



 ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る