6-14  餌

 下に降りると、おじいさんたちはまだだったけれど、あとは全員がホールに揃っていて、それぞれ、コーヒーやお茶を飲んでいた。

 でも、デンさんと島山さんは、長いソファーの真ん中で、もう、ビールを飲んで、盛り上がっていた。


 おれ、お父さんお母さんから始まって、デンさんたちと、みんなに挨拶。


 玲子お母さんからは、

「龍平君、やっぱり、ちゃんと、やってくれたのね。

 ありがとう」

 と、ハグされて、お褒めの言葉をいただいた。


 雅則まさのりお父さんからも、お礼の言葉をもらい、また、お父さん、涙ぐんだ目で、しっかりと握手をしてくれた。


 デンさんと島山さんからも褒めてもらったが、そのあと、ソファーに座らされて、ビールを一杯飲まされた。

 隣にいた静川さん、泣きそうな顔で、ただうなずいて、おれの肩を、ポンポンとたたいた。


 また、この時までに、浪江君と北斗君で、ホールの端に、大きなモニターを用意してくれていた。

 北斗君たちも、一緒にもう一度聞きたいので、会議室だと狭いんじゃないかということで、次の説明会はホールでしようとなったんだとか。


 まだ到着していないおじいさんとおばあさん、沢村さんには、あとで説明することにして、さっそくホールで、みんなに、映像を見ながら、白く光った一瞬の間の出来事を話した。


 ピカッと光っただけの極短い時間が、おれにとってはそんなに長い時間だったなんて、何の証拠もないんだけれど、みな、おれの言うことを信じてくれて、感心してくれた。


 でも、一通りの話が終わってみると、やっぱり、最後のおれの姿が、無様すぎるという感じが残るようだ。


 ちょっと、酔いの回ったデンさんからは、

「ねえ、リュウ君の話はさ…まあ、ちゃんと信じるけれどね…。

 でも、映像だけだとさ、美少女に抱きつこうと飛びかかった悪者を…、女神様が現れて退治したって…そんな感じにも見えるんだよね…」

 と、からかわれてしまった。


 もちろん、この『悪者』がおれのことで、それを退治した女神様はあやかさん。

 横から見ているので、あやかさんが砂に差し込んだ妖刀は、おれを刺しているようにも見えるわけ。


 で、おれ、あやかさんに退治されちゃったということ。

 どうも、デンさんには、そのように見えたらしい。

 その時、なんと、島山さんや静川さんまで、楽しそうに笑っていた。


 まあ、この映像からだと、確かに、そうも受け取ることができるのかも…。

 さらに、そんな目で、おれが、もっとひがみっぽく見ると、サッちゃんが主役のようにも感じられた。


 サッちゃんが飛び込む、…同時におれも飛び込んでいるんだけれど、サッちゃんの向こう側に写っているので、まあ、影のようなもの…。

 サッちゃん、懐剣を抜いて、盛り上がり始めた砂を刺す。

 白く光る。


 サッちゃん、格好良く決まった形で片膝立ての姿勢で着地している。

 その、向こう隣りにあやかさんが同じ様な姿で生還。

 サッちゃんが妖魔を退治して、あやかさんを取り戻したような感じで…。


 二人の間で、砂場に、無様に横になっているおれは、妖魔への生け贄なんだか餌なんだか…。


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 食堂に料理がセットされ、6時半きっちりに祝宴が始まった。

 ホテルから届いた料理は、かなり豪華なもので、おれ、さっき、ゆっくりと昼寝して、完全回復しておいて良かったと思った。


 一口食べて、『うまいっ』と思ったんだけれど、それにしても、朝に注文して、この時間までに、これだけの料理を準備してしまうこのホテルは、さすがにすごいところだと思った。


 そして、さらに、それを、普通の感覚でさせてしまう玲子さんも、これまたすごい人だと感心した。


 おじいさん夫妻、…沢村さんも一緒だけれど、少し遅れるので、先に始めていて欲しいとの連絡が、しばらく前にあった。

 出がけに、おばあさんに、ちょっとした用事ができたためだとか。


 少しなら待った方がいいんじゃないの、との話も出たんだけれど、玲子さんが、予定の時刻通りに始めるべし、と断言。

 おじいさんとおばあさん、だから、玲子さんの両親、もともと、遅れることは大嫌いなので、逆に、待っていられると、余計に、つらいんじゃないかとのことで。


 それでも、最初、6時頃から始めようか、と言っていたのを、『6時半に開始します』と決めて、様子を見ていたんだけれど、まだ、もう少しかかりそうなので、始めたもの。


 椅子を食堂の周りに並べ、中央に2卓のテーブルをくってけてカバーを掛けた島を二つ用意し、そこに料理を置く。

 台所近くに、もう一つテーブルを置き、そこにはお酒など。


 立食で始まったが、まず、お父さんが簡単な挨拶をしてくれた。

 話しながら、ちょっと涙目になっていて、あやかさんが、無事に戻ってきたのが、本当に、うれしそうだった。


 諦めなくてはならないかもしれない、とまで思ったこともあったんだとか…。

 おれ、『なんとしても取り戻すぞ』だけで過ごしてきたけれど、1歩離れるて見ると、確かに、多くの不安にさいなまれる状況だったんだろう。


 同じように妖魔に取り込まれてしまったサッちゃんは、二百年以上戻ってこれなかったんだから…。

 どうしても、それに近いこと、考えてしまうんだと思う。


 でも、一番、ピンときていなかったのは、あやかさんに違いない。

 本人にとっては、ここにいなかったというような記憶がないんだから。


 乾杯のあとは、あやかさんの周り、ワイワイワイと、しばらくの間、入れ替わり立ち替わり、乾杯やら一言やらで、とてもにぎやかだった。

 あやかさんにお祝いを言ったあと、必ずおれの方にも来てくれて、『頑張ったよね』とか『ご苦労様』とか言ってくれた。


 そのあとに、サッちゃんも簡単なお礼を言われているが、驚いたような感じで緊張していて、さゆりさんにくっついている。


 おれのすぐ脇にいたんで、つい、横からほっぺたを突っついてしまった。

 でも、サッちゃん、それで、おれをチラッと見て、ニッと笑って、緊張がほぐれたようだ。


 初めの、あやかさんへの挨拶のようなワイワイガヤガヤが一段落したとき、あやかさん、今回仕留めた、妖結晶を披露した。


 二つのうちの大きな方は、その大きさに、お父さんも驚くほどだった。

 やはり、あの、『日高見の矛』や『九重ここのえ細波さざなみ』に匹敵する大きさだろうと、お父さんも言っていた。


 脇から覗き込んでいた有田さんも、お父さんの見立てに頷きながら、同じくらいの大きさであることを、保証していた。


 さらに、おれにはわからないけれど、お父さんの話では、エメラルドとしての質もかなりいいらしい。

 このことは、さゆりさんも言っていたことだ。


 それで、それじゃ、妖結晶としては、どの様に見えるのかな、ということになって、急に、おれの出番が回ってきた。


 おれ、久々に、妖結晶を見るために、ヒトナミ緊張をした。

 なんと、ほぼ完全な、深い紫色。

 今までの基準からすると、飛び抜けて上質な妖結晶ということになる。


 ただ、一隅に、非常に細い、三日月状のやや薄い色合いの部分があった。

 やや薄い色合いとは言っても、普通には紫色と言っていいほどだし、細さから…、まあ、三日月でもいいんだけれど、その細さを強めて、新月とか二日月ふつかづきと言いたいくらいだ。


 そんな話をしたら、お父さん、なにか言おうとして止めた。

 あやかさん、そんなお父さんの動きに気が付いて、

「いいよ、お父さん。

 今日の記念に、この妖結晶に、お父さんが名前を付けなよ」

 と言った。


 そうしたら、お父さん、

「いや、もうすぐお義父さんが来るからね、お義父さんに付けてもらおうよ。

 今回のあやかのことでは、かなり心配かけたし…、それに、サッちゃんの戸籍についても、今も、ずいぶん苦労してくれているみたいだからね…」


「サッちゃんの…こ、せ、き?」

 と、ここで、あやかさん、大きな疑問形。


「ああ、お嬢様、実は…」

 と、さゆりさんが、説明した。

 サッちゃん、戸籍がなければ、学校に行けない。


 あやかさん、すぐに納得して、お父さんの言うとおり、おじいさんに名前を付けてもらうことになった。

 そして、その話が、ワイワイと盛り上がって、おじいさんが来るまでの間に、おれが、その妖結晶の模様のスケッチを描くことになった。


 でもね、これ、すごく簡単。

 本当に、濃い紫ばかりの、質のいい、妖結晶だから。

 輪郭をしっかり描けば、あとは、ほとんどが色塗り。


 素晴らしい宝石で、超良質の妖結晶。

 今回の、大きなご褒美、と言ったところだね。

 おれ、すぐに、2階に色鉛筆とスケッチブックをとりに行った。



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 ここで第6章を終わります。

 第7章 ドローン戦争(仮題:面白いので、たぶん、この題にしますが、

            まだ、考え中と言うことで…)

  に続きます。


 次回まで、数日から、1週間ほど、時間をいただきます。

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