第388幕 繰り広げられる攻防
景色がゆっくりと流れていくように感じるのは、それだけ俺が速くなったということだろう。これが……兄貴の見ていた世界。全てが緩やかに流れている。
「ほう、中々速く……なったではないか!」
ロンギルスの目が鋭く光り、魔方陣を発動させてくる。『空間』『闇』の魔方陣。黒い空間が出現して、俺の風の槍を吸い込んでいく。
それを見届けながら一気に懐に飛び込んだ俺は、グラムレーヴァを振り払う。
「ふっ、はは、面白い!」
迷うことなく俺の一撃を防がれたが、構うことなく立て続けざまに連撃を繰り出す。上、下、左下から返すように右上へ。今まで以上の速度で繰り出したそれを、ロンギルスは受け流し、魔方陣で防ぎ、辛うじて避ける。それは明らかに本気の行動で……さっきまで簡単に防いでいたそれとは大違いの行動だった。
「はああぁぁぁぁっ!」
片手でグラムレーヴァを操りながら、残る手で魔方陣を構築する。タイムラグをなくせ。神経を集中させろ。
「ほう、片手で魔方陣と剣を操るか。しかし……」
値踏みするように俺の事を見ているけれど、考えてる事はわかってる。俺は今まで、こんな戦い方をしたことがない。それは何度か戦ってきた事や、ヘルガの口から聞いていた事を思うと、とてもじゃないけどこんな土壇場でするような戦い方じゃないだろう。
「未熟な戦い方で勝機があると思うか?」
「あるさ。お前を倒すには、これくらい出来なけりゃあな!」
「ほう、ならば、使いこなして見せるがいい」
互いに速度を増していきながら、戦いは更に激しくなっていった。どれだけ強化しても腕力ではロンギルスには敵わない。片手でだから尚更打ち負けてしまって……前よりも隙が多くなってしまう。
だからこそ、もっと……この戦いで突き詰めていかないと……!
ちらっと兄貴の方に視線を向けると、邪魔にならないように適当な壁に寄りかかって戦いを観察しているみたいだった。兄貴の性格を考えたらこのまま――俺が死ぬ寸前か、死ぬまでは手を出さずにいてくれるだろう。
「ほう、どうやらよそ見をしている暇があるようだ。随分余裕ではないか」
ほんの一瞬目を離しただけだっていうのに、視線を戻したら目の前にロンギルスが迫ってきていた。
「速いっ……!」
愚痴りそうになったけど、それを許してくれるような相手じゃない。すぐそこまで迫っている刃を辛うじて躱して、すぐさま空いてる手で魔方陣を構築、発動させる。だけど――
「くくっ、そうでなくてはな!」
俺の魔方陣とロンギルスの魔方陣がぶつかって、激しい火花を散らした。彼も俺と同じように腹に『雷』系統の魔方陣を叩きこもうとしていたようで、相殺――いや、ぎりぎり俺の方が上回っていた。
「くっ……ぐっ……!」
苦しく呻きながらよろけるロンギルスのこの隙、逃す手はない!
「これで……!」
魔方陣を展開しながら斬撃を繰り出しながら再度魔方陣を構築する。さっきと同じパターンだけれど、体勢を崩した彼には……届くはずだ!
「あま、いわぁっ!」
だけど……流石ロンギルスだ。よろけながら『空間』の魔方陣を発動させて、そのまま身体を『空間』に預けて距離を取っていく。だけど……俺だってヘルガと戦ってきたんだ! これくらいの事、やってくるくらいわかってるさ!
グラムレーヴァを空振らせながら、魔方陣を発動させる。『英』『炎』『速』の三つの
俺が今まで放った中で一番速い炎がロンギルスに迫って……間一髪でそれを剣で防がれた。だけど、それだって織り込み済みだ!
既に『英』『速』の魔方陣を発動させていた俺は、ロンギルスの間合いに飛び込んで内側からグラムレーヴァを振りぬくように斬りつけた。
「何!?」
流石にここまでは予想していなかったのか、驚いた表情をしたロンギルスはそれでも防御を間に合わせてきた。
――くそっ、やっぱり一筋縄じゃいかない。元々が俺の実力より遥かに上の男だ。
防がれたと判断したその瞬間に魔方陣を展開する。ロンギルスも俺と同じように展開してきて……再び火花が散るかと思ったけど――
「なっ……! がっ、くっ……」
雷の矢を放ったと同時に、ロンギルスが発動させた『空間』に吸い込まれ……その同時に後頭部に鈍器で殴られたかのような衝撃と、全身の痺れを感じる。
「くっ、お、れの……ま、ほうじ、んがっ」
「ふっ、これくらい出来て当たり前であろう?
「はっ……はぁっ……!」
頭がくらくらする。これが俺の魔方陣の威力なんだな……なんて考えながら、必死に頭の中で色々と考え続けている。そうしないと戦いを続ける事が出来なさそうだからだ。
「ははっ、やはり自らの魔方陣に直撃すれば、それ相応のダメージがあるようだな。ん? どうだ? 自らの雷の味は」
「はっ……ははっ、ああ。最高だな」
強がって笑ってやるけれど、予想以上に消耗が大きい。だけど……このまま……退くわけにはいかない。
……やっぱり、残ったのは最後に俺らしいやり方だけなのかもしれない。今まで考えないようにしていたやり方。それをしなければ勝てないのなら、俺は――
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