リヴァイヴ・ヒーロー ～異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる～

第３０９幕 変異した竜

『身体強化』を重ね終わった吉田は、俺の懐に飛び込むように襲いかかって来た。同じように『身体強化』を掛けているはずなのに、俺の能力を遥かに凌駕した速度を見せてくる。

「くっ……！」

　迷わず無理なく重ねられる限界を少し超える程度に魔方陣を発動させ、ギリギリその動きについていく。その上で振り下ろされた剣を避けて、吉田の腹に蹴りを浴びせる。硬い感触が足裏から伝わってきて、普通の攻撃が何の意味もない事を教えてくれた。

　……この一度の攻防だけで、今の吉田の能力がある程度把握できた。竜の身体と化した彼は、人や魔人が持つよりも優れた身体能力を誇っている。それを強化関連の魔方陣で更に後押ししてるのだから、始末が悪い。

　恐らく、俺が知る誰よりも純粋な力は強い。ただ、その分魔力が低い。恐らく、その眼に宿る二つの魔方陣に力を使っているのだろう。常時しなければならないからだろうな。

　もっとも、それを知ったところで現状の差は覆りはしない。吉田は俺が重ねた魔方陣よりもずっと少ない数で俺に追いつく事が出来る。種族的差と言うものだろう。

　元来、竜というのは人よりもずっと強い。大きな身体に強大な力。それをその身体に凝縮しているのだ。弱い筈がない。

「ドウシタ！？　貴様ノ力、ソノ程度デハアルマイ！？」

「言ってくれるな……」

　吉田の力任せの打つような斬撃に拳が耐え切れずに血を流した。いくら魔方陣で強化していても、この力を何度も真正面から受け止めるのは不味い。

　纏っている魔方陣を『神』『拳』の起動式（マジックコード）に書き換え、より強力な魔方陣を纏わせる事で耐久力を上昇させる。

　それを感じ取った吉田は空へと舞い上がり、口を開いて魔方陣を構築していく。あれは……竜のブレスか。初めて作るものだから時間が掛かっているが、あんな上空にいる竜を撃ち落とすには、こちらも相応の力が必要だ。

「お前ら！　ここは危険だ！　あの竜の魔方陣で死にたくなければ、今すぐ逃げろっ！！」

　俺が原因ではないにせよ、こんなところで死者が出てしまったらジパーニグの連中に何を言われるかわかったものではない。それを頭の中で認識できるているからか、吉田の行動で大まかな攻撃範囲を分析して、観客席の連中に逃げるように指示を出した。この闘技場を壊さないようには努力するが、観客席の方まで被害が及ばないようにするのは無理な話だからな。

「ガアアァァッッ！！」

　聴衆の避難も終わり、俺と吉田だけが残されたところで、向こうも魔方陣の構築が完了したようだ。見たところ、『炎』『拡』『息吹』の三つ。大きさからして、あれだけでもかなりの高威力を放つことが出来るだろう。理性はあるようだが……敵味方の判別があまりついてない。いや、むしろ俺だけしか見ていないような気がする。

「その程度の魔方陣でなんとか出来ると思ったら……大間違いだ」

　向こうが放つタイミングに合わせてこちらも魔方陣を展開する。いつもの『神』『防』に加えて『広』の一文字を加えた起動式（マジックコード）だ。発動した瞬間、大きく魔力が奪われていく感覚がした。流石に防御の魔方陣を大きく張ろうとしたのには無理があったのかもしれない。

　息を吸い込んだと同時に炎のブレスが放たれ、周辺を焼き尽くすかのように燃え上がっていく。しばらくの間、炎のブレスを防ぎ続け……止んだと同時に魔方陣を解除して周囲の様子を確認する。やはり観客席の方は守ることが出来ず、かなり酷い有様になっていた。あのまま観客があそこにいたら、間違いなく消し炭になっていただろう。

　吉田の攻撃が止んだと同時に『雷』『疾』『矢』の三つの起動式（マジックコード）で構築した魔方陣を発動させたのだけれど……放たれた通常よりもずっと速い雷の矢が吉田に迫り、それはあっけなく翼で撃ち落とされてしまった。

「ちっ……規格外ってことか」

　思わず舌打ちして、空を飛んでいる吉田を見上げる。恐らく、並大抵の魔方陣は彼には効かない。ある程度魔力を防ぐ体質になっていると考えてもいいだろう。それに加えて飛行しているということは、近距離攻撃も届かない。

　残ったのは『神』を使った魔方陣だけなのだが……『風』と『雷』でも当たり方によっては致命傷になり得るかもしれない。

「使える札が少ないというのは、どうする事も出来ないが……せめて剣があれば……」

　なんとか吉田を生かそうとしている自分がいることに気づき、ふと笑みが溢れる。

「……なんだ。結局俺は、意外にこいつを死なせたくないって思ってるんだな」

　ジパーニグで提示された条件を守る為とかそんなくだらない事じゃなくて、俺は純粋に吉田の事をなんとかしてやりたかった。それでも現状はそんなに甘くない。

　吉田を助けようと加減をしていればいつまで経っても戦いは終わらないだろう。吉田の魔力が尽きればまだ可能性はあるが……そうなる前に下手な特攻をされても困る。

「仕方ないな。少しは痛い目に遭ってもらおうか」

　色々考えても仕方ない。遠距離攻撃しか出来ないなら、使うしかない。吉田の悪運を信じてやるしかないだろう。