第296幕 道の途中
全ての基地を一斉に壊滅させてから数日。地下都市シンゼルスは突如起こった地震によって多少の混乱はあるものの、大勢がいつもの日常を送っていた。
夜に出現させた神焔の剣を見た者もいるらしく、彼らは「神が兵器を嫌い、焼き払っていった」という噂話をしていた。
死んだ兵士の家族らしき人物が悲しそうに俯いているのには少々心が痛む。誰も死ななければ、本当はそれに越した事はないのだ。それがどんなに甘い理想だとわかっていても、な。
ヘンリーとシエラも率先して情報を集めてくれた。他に残されていたり、隠されている兵器があるかもしれない……と、注意深く色々探ってくれてはいたが、そこら辺はどうやら問題ないらしく、シンゼルスに存在していた兵器は跡形もなく一掃された形となった。
「これ以上、ここにいても大した情報は得られませんね。どうしますか? 新しい都市に行きますか?」
しばらく情報収集に勤しんでいた俺たちは、改めて三人で集まり、今後の予定について話し合う事になった。
「 そうだな……シエラの方も、それで問題ないか?」
「……うん。そうだね。でも――」
「でも?」
「……またあそこを通ることになるんだよね」
シエラも別の都市に行くこと自体は同意してくれたが、これからもう一度あの長い暗闇を通ることにうんざりしているような声を上げていた。
それもそうかなんと言ってもあそこは長い。薄明るいから完全に道が見えないわけじゃないが、ほとんど暗いせいで時間が曖昧になるような錯覚さえあるしな。
「……こればっかりは仕方ありませんね。電車を使えればそういう苦労も軽減するのでしょうが、生憎と私もアレは運転出来ませんからね」
思わずため息が漏れるが、こればっかりはどうしようもない。なんとか出来ないのなら、またあそこを上るしかないのだ。
「はぁ……仕方ない、よね」
「そうだな。どうせ後二回は似た道を通るんだ。決断するかしないか、だ」
「それ言われると鈍るからやめて」
頭を抱えて嫌そうな顔をしていたシエラも、最後には覚悟を決めて地上に帰る事を承諾した。どうやらこの数日で基地襲撃の件は振り切ったようだった。
「よし。それじゃあ一日だけ英気を養って、明後日にはここを出よう。それでいいな?」
二人の頷いてる様子を確認した俺は、話し合いを終える事にした。正直なところ、今すぐにでもここから出て行った方が良いと考えてはいる。だけど、俺に合わせて二人が疲労した状態で戦闘に入るのは出来る限り避けたいのが本音だ。精神的な疲れを癒す意味でも完全に休みの日を設け、意識を切り替えて欲しい。
幸い、敵の方にはあまり動きが見られないしな。休める時に休むのもまた、戦士の務めってやつだろう。
――さて、だったら俺も……久しぶりに羽を伸ばすとするか。しっかりと休んで、明日に備えておかないとな。
――
そして一日明けた次の日の朝から、俺たちは再び通ってきた道を使って地上へと戻っていた。『身体強化』をかけてひたすら上に行くだけの単純な道のりを苦痛に感じながら、ただ黙々と足を動かし続ける。
初めて降りていた時は少しでも気を紛らわせるために喋りながらだったが、出口がある事がはっきりとわかってる今では、時折休憩を挟んで、そこでいくつか話しながら張り詰めすぎないようにすることにした。
そういう時はシエラが買っていた菓子などを進めてくるから、適当に摘んでリラックスしたり……行きとは全く違う少し緩やかな空気を保ったまま、どんどん先へと進んでいく。
長い間走り続け、ソフィアと戦ったあの場所まで辿り着いた。待ち伏せされるなら間違いなくここだろう……なんて自然と身構えていたが、そんなことは一切なく、普通にぽっかりと広がる空間が存在するだけだった。拍子抜けな事になった俺たちは、妙に肩透かしを喰らったような状態で再び上へと進んだ。
もし、俺たちの侵入を気づいていて、何かを仕掛けてくるとしたら間違いなくここだと思ったのだけれど……どうやら見当違いのようで、ソフィアとの一戦のせいで少し過剰に反応しているのかも知れないな。
「ここまで来ればもう少しですね」
ヘンリーが息を吐きながら安堵するように呟いていた。彼もここに入るまではかなり警戒していたが、実際誰もいないとなると少し気が抜けたようだった。
「……もしかして、下の騒ぎを知らないのかな?」
「そんなことはないでしょう。基地を襲撃して、既に何日も経っている。それでも動きがないということは――」
「ここは放棄されたか……もしくは俺たちの気の緩みを待っているか」
真実はどちらかわからない。が、このまま無事に進むとは思わない方が良いだろう。既にここを立ち去り、別の国の防衛を強固にしているかも知れないんだからな。
「とりあえず、先に進むしかないってことかな」
シエラの呟きに頷き、俺たちは再び先へと進み……しばらくした後、ようやく出入り口に天井に到着して、魔方陣を発動させて扉を開いた。
光が射すその瞬間、ようやく辿り着いたとうんざりするように思っていた時に何かが投げ込まれ、俺たちは……爆風に包まれるのだった――
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