第252幕 黒い箱との戦い
「……なんだ、あれ」
「わからないけど、嫌な予感の原因ってこれだったんだ」
スパルナは確信に近い物をもったかのような言葉を口にしていたけど、俺も同じことを思った。
あれがどんな風に攻撃を仕掛けてきたか……おおよそ検討がついてしまったからだ。
ウイィィンという妙な音とともにゆっくりとあの銃身を大きくしたやつがこっちとは全く別の方に向こうとしている。
やっぱりこれだけ近いと向こうも気付くのか……だけど、どうやって動いてるんだ? いや、そんな事を考えてる時間はないか。
あんな大きなのがこっちに向けて撃たれたら、間違いなく俺たちは跡形もなく消し飛んでしまうだろう。
それだけは避けないと……と思っていると、その大きな銃身の上に設置されているそれよりも小さくて細長い銃がこっちの方を向いてきた。
「スパルナ!」
「わかってるよ!」
銃身がこっちに向いてパララララと乾いた音を響かせながら弾丸を凄まじい音と共に発射している事にゾッとする。
あんなもの『防御』の魔方陣を展開しても持つかどうか……。
幸いにもスパルナの俊敏な動きにはついてこれていないようだった。が、近くにあった木が嫌な音を立てて粉々に吹き飛ばされてるのが見える。
見通しが悪い中、これは流石に冷や汗が流れる。
「お兄ちゃん、あれに当たったら僕らあっという間に死んじゃうよ……」
「わかってるっ。俺も攻撃してみるから、スパルナはなんとか避けてみてくれ」
「う、うんっ」
アルディの指示がようやく届いたのか、徐々に霧が晴れていってる。今までうっすらとしか見えてなかったその黒い箱のような物体は、より鮮明に見えるようになってきたけど、そのせいで余計に無機質な冷たさが伝わってくる。
とりあえず『炎』の魔方陣を展開してぶつけてみるんだけど……それはその動く箱に近づいた瞬間、吸い取られるように消えていってしまった。
「魔力吸収――!」
間違いない。こんな風に魔力で生み出した物が消えていくような現象は他には知らないし、魔力を吸収するゴーレムが作られてるんだ。これにもそれがあってもおかしくない。
「お、お兄ちゃん! どうするの!?」
「落ち着け!」
初めてあんなものを見てしまったからか、焦った様子でおろおろと取り乱したスパルナに向かって出来るだけ大きな声で怒って、冷静さを取り戻させる。
ヘンリーは確か吸収する量にも限度があると言っていた。それなら――
「同時に仕掛けるぞ! やれるな?」
「……うん!」
スパルナは俺がしたい事を読み取ってくれたようで回避行動を取りながら、器用に魔方陣を展開する。
そして俺自身も魔方陣を構築していく。
対するスパルナは『沼』『地』の魔方陣。これで敵の動きを鈍らせ、確実に水龍を当てる。どれほどの速さで動けるかわからない以上、動きを封じて一気に攻撃する方が先決だ。
それに……周囲の霧が晴れるごとに次々と俺たちが相手にしているのと同じ形の物が姿を表している。
あの黒い箱が火を吹く度に、爆風で地面が抉れ、兵士たちは無残な姿で転がり逝く。時間を掛けてたらすぐにでも取り囲まれて、なす術もなく打ち落とされてしまうだろう。
そうなる前に叩いておきたい。
「お兄ちゃん。準備、いいよ!」
「ああ。一発ぶちかませ!」
俺より先に魔方陣の構築を終えたスパルナは、地に足をつけて、地面に展開させていく。
魔方陣をを中心に沼が広がっていくのを見届けると、すぐに再上昇して空へと舞い上がった。
霧が晴れた今、こちらの姿ははっきりと向こうに捉えられてしまうだろう。
そうなる前に、攻めてやる!
「喰らえ!」
スパルナの魔方陣で地面がぬかるみ、徐々に周囲が沼へと変わっていく。ゴーレムだったらこれだけで完全に動けなくなるんだけど、この黒い箱はそうはいかない。
俺たちがなにかしているのに気付いたのか、今度は大きな筒状の方もこっち側に向き始めた。
「いっけぇぇぇぇ!」
怒号が響き渡って恐ろしい速度で向かってくる弾を華麗に避けたスパルナにしがみついて、俺も魔方陣を発動した。
あの時のように大きく神々しい水の龍が姿を表し、一度天高く登りながら咆哮を轟かせ、黒い箱に向かって一直線に落ちていく。
黒い箱のほうも尋常じゃない力を感じたのか、あの攻撃しているもう一つの箱が水龍の方に向いて……あの爆音と共に放たれた弾が炸裂した。
だが、水龍の方はそれを一切気に留めることなく、黒い箱目掛けて大きく口を開いて……地面を抉り取りながらその箱ごと飲み込んでしまった。
水龍の腹の中に入った黒い箱は、音を立てながらベコベコにへこんでいってく。正直、金属がするような音じゃない。
そしてそのままどんどんぼこぼこに歪みながら小さくなっていって……箱は完全に動きを止めてしまった。色んな液体が流れてるけど、それは水龍の腹の中で浄化されていっているようだ。
これでなんとか一つ仕留める事が出来たけど、完全に晴れたここにはさっき倒した箱と同じものが何体も存在していた。
無意識にごくりと喉が鳴る。……これは、先が長くなりそうだ。
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