第169幕 勇者たちの状況
「グレリアくん! お疲れ様ー」
「あ、ああ、ありがとう」
これ以上拘束するのは無意味と判断した俺は、
すると、とことことエセルカが汚れを拭く為のタオルを差し出してきたから、それを素直に受け取ることにした。
あれだけの戦闘を繰り広げたはずなのにそうやって平然としている辺り肝が座ってるか……それともそれだけ俺を信頼してくれているのかと考えてしまうほど安心しきっている表情をエセルカはしていた。
「ほら、立てるか?」
「……ああ」
俺は身体についた汚れを拭き、どこか消沈している様子の
逡巡そぶりを見せていたが、一度ため息を吐いた後、彼は俺の手を取った。
立ち上がった彼は、少々警戒するかのような素振りを見せたが……俺が何もしないということがわかると、すぐにそれを解いた。
どこか腑に落ちないような……納得出来ないという様子なのには変わりないが、その鋭い目を余計に尖らせて俺を見据えてきた。
「なぜ、俺を助けた?」
「なぜ……って、俺はお前に聞きたいことがある。
それに、殺す必要のない相手くらい見極めているつもりだ」
彼が今、俺と敵対しているであろう連中と親密な関係にあるか……もしくは仲間だった場合、俺は一通り情報を手に入れた時に彼を手に掛ける必要だって出てきただろう。
だが、恐らく彼は何も知らない。
今までの流れから考えたら『英雄召喚』で喚び出された異世界の人は、確実になんらかの形で敵対している奴らと関わりがある。
ということは、
ならば、彼の役割は国民にわかりやすく『勇者』であることなのかもしれない。
それはある意味、ルーシーにも当てはまる。
彼女は暗躍するようなタイプでもないし、どちらかというと民を護る側にいる存在だ。
だからこそ彼女は下手な事を知らないようにアンヒュルのいる地に送り込まれた……と思う。
彼女のいたイギランスは暗躍中であるヘンリーもいたからな。
対する
おまけにこの男は強い相手と戦うことに重きを置いている。
無論、正義感というのを持ち合わせてはいるだろうが……どちらかを選ぶ局面になったらどうなるかはわからない。
守護者というよりは求道者というのが相応しいだろう。
「殺す必要の――価値の無い男、というわけか」
「違う。死ぬには惜しい男、ということだ」
自嘲気味に鼻で笑って俯く
今まで戦ってきた勇者たちの中ではルーシーに次いでマシな部類に入る彼に、価値の有無なんてつけられるはずもない。
というか、『勇者』と言う割には性格的にそんな訳ないだろうと思うような人材ばかりが集まってるな。
くずは――彼女の性格は勇気があるとは言えないし、他の連中に至っては余計にそうだろう。
「はっ、言葉は言いよう……というやつだな。
だが、悪くはない」
自分の事が多少なりとも認められている事を実感したように
やはり、この手の男は自身を認められることを好むというわけか。
「それで、俺に一体何を聞きたい?
助けてもらった礼だ。可能な限り答えよう」
「それなら、まずはどうしてナッチャイスの勇者である
「他の勇者たちが次々と倒れ、現在負傷していない者は俺だけだとヘンリーに聞いたからだ。
ジパーニグの勇者が誰もいない以上、俺が行くしかあるまい」
「勇者がいないだと?」
それはおかしな話だ。
確かに、くずはは今アンヒュルのところにいるはずだが、ジパーニグにはまだ司が残っていたはずだ。
……そういえば、俺が首都までやってきたというのに現れたのはヘンリー・ヘルガという他国の勇者たちだった。
肝心のジパーニグの勇者である司は、一切姿を見せなかった。
「あ、ああ。くずははアリッカルでアンヒュルたちとの戦闘で行方不明。
もう一人の男は現在負傷により療養中だと聞いた。
確か、花と温泉が有名なマフカの町にいるらしいな」
「らしいというのは――」
なぜ曖昧なままで終わっているのか? そういう風なニュアンスの言葉を言おうとしたのだが、勇者会合で
あれは誰がどう見ても司の方が悪かったし、あんな事があっても尚、勇者だから連携を取れと言われても無理がある話だろうな。
「……そういうことだ。
俺はあのような無様な男の事などどうでもいい」
「あ、私も知らないからね? 司くんなんてどうでもいいし」
地面に吐き捨てるように言ってる
とすると、本当に司がマフカにいるかどうかわからない……ということだ。
エセルカにもどうでもいい、と言われているのには少々憐れみを感じるが、奴の所業を考えるとむしろ当然のことだろう。
ならば、これ以上のことは聞けそうにない。
……司がどこにいるか、そんなことは別に知らなくてもいいか。
あの程度の男が何をしてもたかが知れている。
そう結論づけた俺は、さっさと思考を切り替えて他の質問をすることにした。
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