第123幕 押し寄せてくる心配
「はぁー……一時期は本当にどうなるかと思ったけど……意外になんとかなったわねぇ」
みんなと別れ、自室に戻ったシエラはそそくさと風呂に入って身を清めた後、ベッドに寝っ転がりながら思いっきり腕を伸ばしてリラックスの姿勢を取っていた。
本当に相変わらずな奴だけれど、それが彼女の良いところなのかもしれない。
俺も意識を切り替えて……というわけにもいかない。
汗を流した俺の方もベッドに座るが、とてもじゃないがシエラのようにリラックスは出来ない。
「どうしたの? グレリア」
「ん、ちょっとな……」
俺の表情がどうにも優れないのが気になったのか、シエラは両手を後ろに回して、自分の上半身を支えるようにして起き上がってこちらの様子を伺っている。
「もしかして、エセルカのこと?」
「ああ……ソフィアはアリッカルで保護しているって言っていたが……」
正直なところ、あの場面で放たれた言葉を鵜呑みに出来るほど、俺は純粋でも愚者でもない。
はったりだとしたらそもそもエセルカが囚われていないだろう。
だけどもし……もし、本当に『保護』されているのだったら……。
「心配?」
「……当たり前だろう」
今まではレグルたちに気を使ってたこともあったおかげで、まだエセルカのことを考えずに済んでいた。
遠くの彼女よりも、彼らをしっかりと送り届ける必要があったからだ。
だが、それももう解き放たれ……残ったのは彼女と……セイル、くずはの三人のことだった。
アリッカルが『保護』しているのはソフィアだけということは、残った二人はどうなったんだろうか……?
「セイルもくずはも……どうなったんだろうね……」
「わからない」
一度気になったら嫌な方向にばかり気持ちが向いてきて、どうにもそればっかりを考えてしまう。
そういうものは纏わり付いたら中々消えやしない。
そして……それがシエラにも伝播したのだろう。
彼女の方もまた、不安な表情で顔を伏せてしまった。
「もしかしたら、セイルたちは……」
「違う!」
そんな弱音を聞いてしまったからだろう。
俺はつい、強い口調ではっきりとそれを否定した。
セイルたちにもしものことがあったら……なんて信じたくなかったからだ。
「でも……」
「あいつらは俺を信じてくれた。他でもない、隠し事をしていた俺を、だ。
だったら、セイルたちを信じるのも……俺が一番最初にしなくちゃならないことだ」
セイルもくずはも、最後に別れたときからずっと強くなっているはずだ。
だから……俺はあいつらの無事を信じている。
……本当なら今すぐにでもアリッカルに飛んでいきたい。当たり前だ。
だが、カーターを討ち、ソフィアを撤退させた戦力を、アンヒュルは間違いなく放っておかないだろう。
俺の方も確実に色々とやりすぎた結果だったが、後悔はしていない。
あの時はあれが最善だったのだ。それを恥じる、ということは自分を否定する、ということだ。
「今はこうして燻ってるしかない、か……」
アリッカルに……ヒュルマの領域に戻る訳にはいかない。
今ここで下手をすれば、人と魔人……両方を敵に回すことになる可能性が高いからだ。
だから……例え何を思ったとしても、俺はここに留まらなければならなかった。
一時の感情に身を任せてしまいたい思いを抱えながら――グランセストの王命が下るその時をただひたすら……待つばかりだった。
――
学校長との話が終わり、既に数日が経過していた。
俺たちは相変わらず待機、ということで部屋の方にいることになった。
「はぁ……退屈ねぇ……」
シエラはあの時の緊張感を完全に砕かれてしまい、だらだらとベッドにごろごろしている始末。
「おい、シエラ。もう少し人目を気にしろ。
誰か来たらどうするんだ」
「誰も来てないから良いじゃない。どうせ授業にも出られないんだし……」
ごろんと寝返りを打ちながら脳天気な返事をしているが、シエラがこうなったのには原因がある。
まず、余計なことを言わないように、俺・ミシェラ・レグル・シエラ・シャルラン・ルルリナの六人は授業に出なくていい、ということになった。
ついでに学校の敷地内を歩くにも、どこに行くか先生に報告する必要があったし、唯一自由に動けるのはこの寮内と寮の中にある食堂ぐらいなもんだ。
そして……それも俺たちは夕方以降――生徒が帰ってくる時間帯の利用を極力避けていた。
授業に出ない理由なんかを聞かれたって先生の都合でちょっと……ぐらいの曖昧な返事しか出来ないんだから、下手なことを言ってバレるよりはずっとマシってやつだった。
……とまあ、そんな理由で必然的にだらけることになったんだが、どうにもよろしくない。
本当に誰か来たらどうするんだ……と思わずため息を付きそうになったていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
その時のシエラのはババッと起き上がって髪や服を整えて……こういう時だけしっかりしようとしている姿は、まるで手のかかる妹のようだった。
「ちょっと待っててくれよ」
そんなシエラの様子に苦笑しながら、俺は扉の方まで歩いていくんだが……そういえば今は授業中で、人もいないはずなのに、誰が訪ねてくるんだろう?
なんて思いながら扉を開けると――そこにいたのはルルリナだった。
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