第110幕 討伐メンバー結成
ルルリナを勧誘した次の日の放課後、俺たちは今度はシエラを連れてB級の教室へと向かうことにした。
理由は単純。
急に気が変わって断られる前にすぐに用紙を記入して、アウラン先生たちに提出する予定だからだ。
現状、ルルリナともう一人がメンバーに加わってくれなければ、一から集め直すことになる。
俺とミシェラが特別枠になっていることは既にG級・A級の生徒には知られていた。
そりゃそうだ。小さく書かれてるとはいえ、掲示板はそれなりに大きい。
シエラのように大雑把に見ずにきちんと見ていれば気付く程度にだ。
恐らくB級の生徒たちにもこの事は伝わっている。
ここでルルリナに拒否されれば、それだけメンバーを揃えるのが困難になってくる。
俺たちの方も切羽詰まってるってわけだ。
「おーい、ルルリナー」
ルルリナが教室の外にいるのが見えたからか、レグルがぶんぶん手を振り回して彼女に声をかけた。
彼女自身は少し澄ました顔で見ているだけで、視線を向ける以外の反応はなかった。
ふと彼女の隣を見ると、そこにはちょっとおっとりした女の子が立っている。
ルルリナよりは背の高いその子は、灰色の長髪で……近づいてみるとわかるが、後頭部側の左右の髪を後ろに結んでいて、残りは全ておろしている。
紫色の目をしていて、ルルリナより少し発育が良い身体をしている。
どこかお嬢様然としている姿をしていて、俺が視線を向けているとふんわりと微笑んでくれていた。
「ふむ、結構可愛いな」
「ちょっと、エセルカに言いつけるわよ」
「なんでそんなに不機嫌そうなんだよ……」
「それくらい自分で考えなさいよっ」
その呟きは思わず口を突いて出た言葉だったんだけど、シエラの気に障ったようだ。
別に男なら誰でも抱きそうな感想だろうに……などと思っていると、どうやら全員に聞こえていたようで、様々な視線が俺の方に向けられていた。
「その、ちょっと恥ずかしいですね」
少し頬を赤らめる姿はなんとも言えない上品な可愛さを秘めている。
ルルリナには相当警戒した目で見られているが、彼女の容姿の感想を口にした代償だと受け取っておこう。
他にもミシェラが「おにいちゃんはああいう子がいいの?」とかレグルが「わかる……わかるよ! 師匠!」とどこか感激した様子だったりしているが、それはまあ、全部置いておこう。
今は彼女の存在の方が重要だ。
「……で、君がルルリナの友人かな?」
「はい、シャルラン・フィンナと申します。よろしくおねがいしますね」
どこか華やぐような笑顔が魅力的に柔らかい物腰のこの子は、実に魅力的に映るだろう……とか思っていると、ルルリナが更に目つきを鋭くしてこっちを睨む結果に繋がってしまった。
「言っとくけど、シャルに手、出したらただじゃおかないから」
「出すわけ無いだろ……」
誰ともそういう関係になるつもりはない。
転生した時にそう、決めたんだからな。
「シャルランちゃん、僕たちと一緒に討伐試験受けてくれるって本当?」
「はい! ルルちゃんからお話は伺ってます。私でよろしければお願いしますね」
ミシェラは満面の笑みを浮かべ、シャルランは彼とはまた一味違った笑顔を見せて華やいでいく。
レグルの方も微妙に鼻の下を伸ばしていて……ルルリナは鋭い視線を送っていた。
だけど……俺の時のように威嚇するような視線じゃなくて、エセルカが俺に向けてきたような不機嫌の色を宿したものだ。
「やった! これで全員揃ったね! おにいちゃん」
「……そうだな」
ルルリナは俺たちを睨み、シエラは不機嫌そうにしている。
そんな空気の中、ミシェラだけがいつもどおりなのは助かった。
ミシェラがいてくれなかったら、もうしばらくこのいたたまれない空気のままこの場にいることになっただろう。
「はぁ……それじゃ、早くこれに記入して先生に提出しましょうか」
ため息を一つ吐いて意識を切り替えたのか、シエラは用紙を取り出してさっさと行こう、と俺たちを促してきた。
「あ、ああ」
「……わかった。いつまでもこのままじゃ埒があかないしね」
同じようにルルリナもシエラに同調して、アウラン先生とシューレッド先生に提出する二つの用紙を手にとってさっさと自分の名前を書いた。
それに続いて俺たちも一人ずつ名前を書いていき……これで完成だ。
「後はこれを先生たちに渡すだけだね。早く行こうよ!」
最後に名前を書いたミシェラが二枚の用紙をぶんぶん振り回しながら、駆け足気味で職員室の方に向かっていった。
「ちょ、まてよ!」
「待たないよー! 早く早く!」
レグルが制するように追いかけていったが、ミシェラは知らないというようにどんどん先へ行ってしまう。
「あの、追いかけなくていいんですか?」
「……しょうがないな。行こうか」
「なんでこんなことに……」
どんどん先へ行くミシェラとレグルを追いかけるために俺たちも駆け出す。
ルルリナが若干嫌そうな顔をしていたが、やっと自己紹介から先に進むことが出来たのに、これ以上面倒な空気になるのはごめんだ。
こうして、俺たちは先行する二人に急かされるように職員室に向かうのだった――。
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